名前を付けるところからが冒険です


「サイゾーくんサイゾーくん、これ食うてみ? この翼のつけ根部分が、コリコリしてウマいんよ」


「はっ、有難き幸せ」


 早速の名捌きにてワイバーンを御解体あそばされた陛下。炭火の勢いも、丁度良い具合にございます。

 されど陛下におかれましては、生肉がお好みのはず。


「どれ、こちらの肉などは、よく透き通って生で食うても美味うまそうにございますな」


「ダメ。ワイバーンは寄生虫がいるから、ちゃんと火を通さないと」


「は、左様にございましたか」


 焼肉とは、奥が深いものにございます。


 さすれば般若湯でも頂いて、愚臣にも焼肉の知恵など授けていただきたいものにございます。いえ、まだ日の昇ったばかりではございますが……。


 されど共に火を囲む冒険者らも、思いは同じであったようで。


「スナイパー、あんた、いいお酒持ってたでしょ? 出しなさいよ」


「……秘蔵」


「そういうのこそ、いま飲まないでいつ飲むんっすか! オレらの宿敵がついに倒された、祝宴なんっすよ?」


「ではワイバーンを仕留めた英雄殿から。ささ、まずは一献でござる」


「あ……! ユッケ様、お待ちください。臣が毒見を」


 臣が杯を差し出したところへ、非礼なる笑いが注がれました。


「え、ユッケ!? あんた、ユッケって名前だったの? 何それウケるー!」


「ブフォッ。拙者、そのような名前は初めて聞いたでござる!」


「何を申すか、無礼者っ!」


「よせ、サイゾー」


 くっ……。燕雀えんじゃくいずくんぞ鴻鵠こうこくの志を知らんや。

 このような輩に、陛下の深遠なる焼肉愛がわかるまい。


「いやあ。それにしても、ついにワイバーンまでもが倒されたとは!」


「そうそう! ここ数か月の間に、世界各地でモンスターが次々と退治されてるって話なんっすよね。ドラゴンに、クラーケン、バジリスク……。あと、最近もなんかあったっすよね? 何だっけ、ウミヘビ?」


「……シーサーペント」


「あぁそう、それそれ! さっすがスナイパーっす!」


 それ、全部陛下の御偉業にございますね。


 ちなみに退治というよりは、狩猟ハントかと存じますが。

 害獣駆除や娯楽目的ではなく、実用的なやつ。


「冒険者ギルドでも、最近ずっと話題になってんのよね。新たなる勇者誕生か、はたまた伝説の勇者復活か!? って」


「いーやいやいやいや、それはないでござるよ魔法少女殿。こうも世界多発的となれば、謎の暗黒組織説を拙者は推すでござる。拙者が師と仰ぐ、かの高名なる勇者評論家氏によればこの現象は――」


「えぇー、わかってないなあ。こういうのがロマンなんじゃない。知ってる? 10年くらい前、突如引退したって言われてる勇者の話!」


「そうそう! 最近退治されたモンスターも、倒し方がその伝説の勇者と似てるんっすよね。いやあ、オレもあの人に憧れて冒険者始めたクチなんっすよねえー」


「フフッ。甘いでござるよ、アーチャー殿。詳細に分析すれば、当時とは異なる部分もあるのでござる。これは暗黒組織が伝説の勇者をリスペクトして、その手口を真似たもの」


 そうして4人の冒険者らは喧々囂々けんけんごうごう、各々の心のうちにある勇者について、熱く語り合うのでした(但し約1名を除く)。



「ところで、ひとつ気にかかっていたのですが……」


「む? 何なりと、ハットリ殿」


「いえ、サイゾーです。して皆様のその呼び名……アーチャーとか、スナイパーとかいうのは、ジョブ名で呼び合っているのですか? それとも、そういうニックネームなので?」


「え? 全部HホントNナマエですけど?」


 くっ……。先程陛下の御尊名を侮辱した輩、このすきさびにしてくれる。


 いえ、滅相もない。

 御下賜品の鋤は家宝にこそすれ、決して錆びさせたりなど致しませぬ。


 焼肉終わったら、ちゃんと綺麗にお掃除します。


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