四次元頭陀袋に夢と希望を詰めて


 さて陛下に随伴して臣は、町の目抜き通りに戻って参りました。


 似通った外観の店舗が立ち並ぶ中、ついつい全てのお店を覗いてみたくなるのは何故なぜでしょう。

 あと、理由わけもなく買物客全員に話しかけてみたくなります。


「じゃ、残りのこまごましたもん揃えるぞー。絵具も買い足さないと、古いから固まっちゃったんだよな」


「ほう、冒険には絵具が役立つのですか。臣は寡聞かぶんにして存じませんでした」


「あ、おやつはひとり3つまでな! オレと被らないように気をつけろよ」


 これは、分けっこなさる思し召しですね。


 されば臣のことなどお構いなく、陛下の御心のままにお好きなもの6つ、お選びくださればよいものを。『勅撰菓集ちょくせんかしゅう』といたしましょう。


「ああ、それから……サイゾー」


「え? 今月号ですか? もう販売されてたかな」


 あれに冒険の手引きでも載っているのでしょうか。

 それとも、旅のお供ってやつですか?


「愚か者! 世界広しといえど、宰相従えてる冒険者がいるか? パーティ・メンバーが『宰相』とか、あやしいだろ」


「ははっ」


 いや、あんただよ。

 パーティ・リーダーが王様とか、もっとあやしいわ。


「つーわけで、キミは今日からサイゾーくんな!」


「はぁ」


 そんなこんなで臣は、宰相改めサイゾーの名を陛下より賜りました。

 無論、『宰相』は「さいそう」ではなく「さいしょう」とお読みください。


「して、陛下。臣をお呼びになられたのは……あの、陛下?」


「…………(ツーン)」


 メンドクサ。


「では、何とお呼びすれば?」


「……(シーン)」


「……王様? ……いや、キング? それでは、キング様?」


じゃん、それ。サイゾーくんセンスないなあ」


 あんたに言われたくないわ。


「では……勇者様?」


「オレ、その呼び方キライなんだよね。勇者って『勇気ある者』のことだろ? 勇気は誰でも持っている。人はみな勇者。それに気づくかどうかだけの問題だし」


 いや、急にちょっとイイ感じのこと仰せられましても。調子狂います。


 はて、他に何とお呼びできるでしょうか? 陛下は、王様で、勇者様で。

 陛下は……。


「それでは、ゆ……、……ユッケ様?」


 いや、さすがにそれはない――って何故かくも玉顔に喜色をお浮かべあそばしているのですか陛下!?


「して、えっと……ユッケ様。先程臣をお呼びなされた御用のほどは」


「ん? ああ、そうそう。得物何がいい? って聞こうとしたんだけどさあ……」


 陛下はふと、農具店の前でお立ち止まりになりました。


「あ、このすきいいなぁー。オレ、これ好きだなぁー」


 陛下、臣は愚昧にして、今ようやく理解致しました。


 寂寞せきばくたる心の隙間風の冷たさというものを――ヒョォオオオ。


「おっ、お兄さん、お目が高いねえ! その鋤は軽くて丈夫、流線型のフォルムにもこだわった、伝説の勇者様ご愛用モデルの最新版だよ!」


 伝説の勇者、鋤で戦ったのですか?

 世界には様々な伝説の勇者がいるものですね。


 凡庸なる臣ごときには、到底理解致しかねます。


「うんうん、持ちやすくなってる! そしてこの、絶妙の厚み。コレだよ、コレ!」


「わかってるじゃないか、お兄さん。今ならオプション・サービスどれか一つ、半額でやったげるよ! 名入れ、コーティング、それから……この『勇者の紋様』と呼ばれる模様を彫り込むのが、一番人気だよ。どうだい、御利益ありそうだろ」


「あ、それは自分でカスタマイズするからいいや。オレ的には、汚れの目立たないブラックかなぁ……。サイゾーくんはどう思う?」


「は? いえ、臣は浅学非才にて……」


 一国の宰相が、農具のこととか知らんし。


「じゃあもう、コレで決まりだな! ほい、大蔵大臣、支払いヨロ」


 宰相はダメで、大臣はいいんかーい!


「んじゃコレ、サイゾーくんの得物な」


「は? 臣は鋤の扱いなど心得ておりませんが。せめて剣など……」


「剣はダメ。まだ早い」


「はっ、申し訳ございません」


 レベル1の臣には、烏滸おこがましゅうございました。


「あれは総移動距離に応じていいやつになるの」


「ほう……? 左様でございましたか」


「今買っても、どうせ次の町に着いたら上位版が出てて、すぐ買い替えたくなっちゃうから。それ繰返していると、もはや冒険続けるために剣買い替えてるのか、剣買い替えるために冒険続けてるのか、わからんくなっちゃうよ?」


 なるほど、冒険とは奥が深いものにございますね。


「しかしすきくわたぐいを持って戦うは、あたかも御政道に不服があるかのようです。臣は決して、そのようなこと」


「鋤はいいぞぉー。いざという時は攻撃できるし、いざという時は防御もできるし、いざという時は農業もできる」


「いざという時ばかりな気がいたしますが」


 ていうか、農業は主目的では?


「あとは……、そうだな、調理もできる」


 その時、臣は天啓てんけいにうたれました。


 鋤に肉等を乗せて焼きたるは、これすなわち『すき焼き』の起源(※諸説あり)!

 ははーん、主目的はそれですか。


「やっぱ何だかんだで、鋤が一番イイっていうか、しっくるくるよね」


 そこは『好き』とちゃうんかい。

 ちなみに、Sickle(シックル)は『鎌』でございますね。


「うむ、カマヌよ」


 ……いや、何が!?


 そして無駄に伏字っぽくしないでください。

 せっかく頑張って下ネタを封印しておりますのに。

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