第8話
「もう大丈夫だよ」
一度自分の家に戻った結衣がそう言った。
「それじゃ、やりますかね」
そう言って遼は立ち上がる。
「一応もう一度確認するが、大丈夫なんだよな?」
「うん、ばっちぐー」
そうして遼は結衣の部屋に入った。
あの後二人は、片付けが出来ない結衣の家を遼が片付け、代わりに結衣が今日の晩飯を遼の分も作ると決めたのだ。
お互いの苦手なところを補い合う決定である。
結衣も部屋には当然見られたくないものもあるだろうから、先に結衣にそういうものだけでも片付けてもらったのだ。
再び入った結衣の部屋は、やはり散らかっていた。だが、一瞬入ったさっきとは違って、しっかりと結衣の甘い匂いが漂ってくる。
部屋のレイアウト自体は遼の家と変わらないが、地面に物が散乱しているせいか狭く見える。最低限のものしかない遼の家とは対照的だ。
引っ越してから一二週間は経っているとはいえ、まだ一ヶ月も経ってない。それなのにこんなに散らかっているのは不思議だ。
結衣はゴミは捨ててると豪語していたが、確かに生ゴミとかはないものの、学校で配られたプリントや、プラスチックなどのゴミは結構落ちている。いや確かに、不潔って感じでは無いのだが・・・。
そういったゴミをゴミ箱に捨てたり、机の上に散乱している参考書や本を本棚に戻していく。ここまでは良かった。
たが結衣が脱ぎっぱなしにしたと思われる、パジャマや私服が結構落ちてる。
そもそも、恐らくこれらは洗濯されていないので、どうやって洋服を回しているのか気になる。だがそれ以上にこれらが「見られたくないもの」に分類されないことが信じられなかった。
健全な男子高校生からすれば、美少女が脱いだ洋服なんて、十分情欲を掻き立てるものなのだが・・・・・・。
女子はあまり気にしていないのか、結衣のガサツな性格故に気にしないのか、結衣が遼を意識してないから出来る所業なのか・・・・・・。
理由は分からないが、とりあえずこれらも洗濯機に入れなければならない。極力触れないように指先でつまみながら洗濯機へ突っ込んでいく。
幸いにも特殊な服は無かったから、全部一律に洗濯しても大丈夫そうだ。男勝りな性格の結衣に感謝である。
遼が結衣の部屋の端っこに落ちている、ブラウンのパジャマをつまんだ時、事件は起きた。
その下から、上につける水色の下着が出てきたのである。
流石の結衣も、下着の類は予め片付けておいたようだが、部屋の端っこな上に服の下に隠されていたから気付かなかったのであろう。
「・・・・・・どうしようか」
流石にこれの処遇は慎重に考えなければならない。例えば、タグを確認すればサイズが分かるかもしれない。結衣は巨乳という訳では無いが、無いわけでは無いのでCぐらいだろうか。
「・・・・・・ダメだダメだ」
親友でそんなことを妄想している自分が嫌になりそうだ。遼は首を振って、いけない思考に陥りつつある自分をいさめる。
結衣の下着ぐらい何でもない体を装って片付けてしまおうか。だがそれは何か結衣に申し訳なくて気まずくなりそうである。
なら、ブラジャー落ちてたからそれは自分で何とかしてくれと結衣に正直に言ってしまおうか。でも結衣もそんなこと言われたら恥ずかしがるだろうし、何より恥ずかしからずにそんなことを言える自信が遼には無かった。
そこで遼は水色のブラジャーを放置しておくことにした。これで結衣が、やべ、片付け忘れてた。でも遼も気付かなかったみたいだしラッキーとなってくれれば良いなと思った。
普通そんなことになる訳ないが、当時の遼にとってはこれが精一杯だった。
「終わったぜ」
「おかえり~、ありがとう」
遼が自分の家に戻ると良い匂いが漂っていた。
「それじゃ私も奉公しなきゃだし、ご飯にしよっか」
そう言って結衣が食器をダイニングテーブルに並べ始めた。当然遼も配膳を手伝う。
メニューは肉じゃがに味噌汁、サラダと白いご飯だった。
「・・・・・・!うまい!」
「ふふーん、でしょ?」
結衣の性格からすれば料理なんて出来そうもないが、結衣の作ってくれた料理はめちゃくちゃ美味かった。
「久しぶりにこんなちゃんとした美味しい料理食べたわ。ありがとうな」
「いいってことよ」
「「ごちそうさまでした」」
「片付けは俺がやっておくよ」
「サンキュー、じゃ私は今日は帰るね」
「おう」
いやー美味しかった、労働の対価としては十分すぎる。今日は良い一日だったな思った遼だった。
「流石遼だね~」
自分の家のドアを開け、廊下に紙や服が無くなってることを確認した結衣はご機嫌にそう呟いた。
自分の脱いだ服を男の子に片付けさせるのはどうかとは考えたが、遼は自分のことを意識していないようだし、服を片付けるのはめんどくさいしで、下着って訳でもないからいっかと判断したのである。
最も散らかっていたはずの自分の部屋もすっかり片付いている。床に物一つ落ちていない綺麗な部屋だから、唯一床に落ちている水色のものは目立っていた。
「うわぁぁぁぁぁあ!やっちゃったぁぁぁぁあ!」
恐らく対処に困った遼がそのままにしておいてくれたのだろう。
流石の結衣も自分の下着を男の子に見られるのは恥ずかしい。しかも自分が脱いだものである、いくら遼が親友と言えども顔から火が出そうだった。
「私のバカ、私のバカ、私のバカ・・・・・・」
両手で顔を塞ぎうずくまった結衣は片付けの重要さを痛感した。
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