第7話

昼休み、いつものように大富豪をしていると話題は天気のことになった。


「今日雨強くなるらしいな」

「そのようですね。今は晴れているので嘘みたいですが」

「嘘だろ?傘ねぇよ俺ぇ」

「やっぱ福島は馬鹿だな。藤倉は持ってきてるだろ?」

「いや、無い」

「反語みたいに言うなよ・・・・・・」

「それなら、放課後は雨が降る前に急いで帰るのが賢明かもしれないですね」

「最上の言う通りだな。そうするわ」


昨日はスターコインを見つけるのに手間取り、寝たのは夜遅くなってからだった。

だから当然、今日起きたのもギリギリになるわけで。天気予報を見る余裕なんてなかった。




放課後、幸いにもまだ雨は降ってないようだった。


「おーい結衣、帰ろうぜ」

「ごめん藤くん、私今日委員会」


委員会?そういえば今日そんなのを決めてたな。

遼は委員会とかを積極的にやるタイプでは無いので、委員会決めもその程度の印象だったが、結衣はキッチリ立候補していた。そういうところは中学から変わらない。

結局雨が降り出したのは遼が家に着く直前だった。




「ごめーん、駅まで傘持ってきてくれない?」


遼が家でしばらくくつろいでいると、そんなメッセージが入る。

とりあえず、分かったと返信した後で遼の家には傘が一本しか無いことを思い出した。


「・・・・・・仕方ない、健全な使い方だしいいだろ」


そう呟くと引き出しから鍵を取りだした。

いつも使っているのとは別の鍵、結衣の家の合鍵だ。


一応、同じ階に他に人が居ないのを確認すると、結衣の家のドアを開ける。入るのは引っ越し作業を手伝った時以来だ。


まさか初めて家に入るのが宿主の居ない時になるとは思ってもいなかったが、こんな非常時なので仕方がない。

そんな言い訳をしながら結衣の傘を一本取り出すと、駅に向かって歩き出した。


「ありがと~って、これ私の傘?」


駅に到着し結衣に傘を渡すと当然そんな反応が返ってくる。


「ああ、俺の家に傘は一本しかないし折角合鍵貰ったしな」

「だからと言って使ったんだ。大丈夫?カメラとか付いてない?」

「そんな技術ねーよ。するともなんだ?俺の傘で相合傘の方が良かったか?」

「それは恥ずかしいし嫌だなー、それに普通に濡れそう」

「なら俺の機転に感謝するんだな」

「ありがとうございます」


そう言って深々とお辞儀をする結衣。

合鍵を貰ったとはいえ、女子の家に勝手に入るのはどうかなと思っていたが、結衣も冗談をいきなり言う余裕があったし、案外向こうは気にしていないのかもしれない。

ただ、一つ気になったことがあったので言ってみる。


「そう言えば、お前自分の家掃除してるか?」

「・・・・・・だから家に入れるの嫌だったんだよおー」


結衣の声は雨音に負けず曇天に響いた。




同日、遼の家にて。

結衣はゲームをしながら釈明を行っていた。


「いやね、いつもこうして藤くんの家に入れてもらってるわけだし、いつか招待しようという気はあったんですよ」

「ほう」

「でも、片付けるのめんどくさいなー、今度でいっかって思ってたら今日まで来まして・・・・・・」

「ほーん」


結衣の家に入る機会が不思議と無いなとは思っていたが、どうやら意図的に避けられていたらしい。

遼は玄関から少し家の中を見ただけだが、ゴミ屋敷という訳では無いが、色んなものが散乱していて「散らかっている」という印象を受けた。


「まあ、結衣はガサツだし片付けが出来なさそうなのは納得だけどな」


前の家の結衣の部屋も散らかっていた記憶がある。


「ガサツじゃ無いし。繊細だし」

「何を言うか片付けも出来ないくせに」

「別に必要性が無いだけですー、その証拠にゴミとかはちゃんと捨ててるしね!」

「いつかは必要だろ・・・・・・」


多分これはズルズルずっとやらないやつだ。

別に綺麗好きという程では無いが、一般人よりは綺麗好きよりである遼には信じられない話だった。


「でも、遼も食生活終わってるでしょ!」

「ほう、何を根拠にそんなことを」

「ゴミ箱にコンビニのゴミが沢山あるからね!」

「漁ったのか?気持ち悪いな」

「見える範囲の話です~」


親友から突然の反撃を食らう。

自炊なんて出来ない遼の食生活は決して褒められるようなものではなかった。


「てか、結衣も料理出来ないだろ」

「失礼な!人並みの乙女レベルには出来るし!」

「あの部屋でぇ?」

「う、最近は出来てないです・・・・・・」


遼も結衣も、自分の生活も親友の世界も、崩壊し始めていることを認識したのであった。

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