第6話 情報交換会 その2

「つーかよぉ、これ、やる意味あんのか?」


「最初は顔を合わせの意味があったが、

 二回目からは必要な奴だけでやればいいんじゃねえの? 

 途中で中断させられんのも集中力が切れて嫌なんだが」


 無々の言葉に愛舞が同調するような形となった。

 順番の問題であり、二人に思考の統一はない。


「現状の把握でしょ、これって」


 そんな二人に言い返すわけではないが、みんが言う。


「箱庭じゃあ、邂逅しなければ相手の情報はほぼ分からない。

 ぼくからすればこのミーティングはありがたいね」


「情報の交換だあ? んなもん、出会って把握で充分じゃねえか。

 策をこねくり回す弱い奴が使うもんだ。オレには必要ねえ」


「ぼくは反対じゃないよ。必要な人だけでやればいいと思っている。

 ただ、当事者が来ないと情報が分からないって言うのなら、来てほしいものだけどね」


「そこのところどうなんだよ、ミサキ」


 愛舞が真ん中の、五メートル先の空間に話しかける。


「一応、教えることはできるよー」


 ふわり、空中からミサキが現れる。

 それぞれのプレイヤーについているミサキとは、性格が少し違うなと全員が思った。


 人前で話すとなると、誰でも話し方は変わるものだ。

 そこには、誰も気にすることなく話は進んでいく。


「ならいいじゃねえか。次からは来なくていいよな?」


「情報交換は基本的に隠し事はダメなんだけど、一応、確認は取るんだよ。だからここにいないとなると確認が取れない。だからわたしが勝手に、みんなの秘密をここに来ている人だけに公開しちゃうことになるけど、それでもいいなら来なくてもいいよ」


「構わねえな。暴かれて困る事はねえ」


「あたしもだな。他のヤツの情報も特にいらねえし。

 レーダーがありゃあパーツは分かるわけだしな」


 無々と愛舞が早く帰らせろと言外に伝える。


「そういうことならいっか。二人はどうするの?」

「ぼくは来るよ」

「あ、ああ。俺も来ることにする」


 初めて声を出した乱橋は、自分の場違い感に戸惑っていた。

 身体能力で言えばみんの方が劣っているのだが、精神面で圧倒的に大差をつけられている。


 あの二人を前にして、一定のテンションで話し続けるみんに不気味さを抱いていた。


「ハッ、精々必死に努力して足掻いてみろよ。お得意の情報戦なんだろ?」


 挑発の言葉にみんも乱橋も取り合わない。

 みんは意図的に無視したが、乱橋は単純に言い返す言葉が思いつかなかった。


 無無無々に限っては、噛みつくだけ無駄な労力を使う。


 言い返さない二人に興味を無くした無々は舌打ちをした。


「闘争心のねえオスは邪魔だ」

「なら、メスならどうだ?」


 愛舞が噛みついた。負けず嫌いの彼女は無駄な労力を使うことなど考えもしない。

 考えたところで回避しようとはしないだろう。必要な労力と考える。


 一番でなくては満足できない。

 自分が最強だと信じて疑わない純粋な強者である二人は睨み合う。


 動いたのは無々だ。


「ま、出会ったらすぐに潰してやる」


「どこにいんだよ、めんどくせえから行ってやる。それともなにかあ? 出会った時まで戦いを先延ばしにして、とっととパーツを集めて勝負を決める気か? 

 なんだよ、直接戦うことはしねえ腰抜けかよ!?」


 額に血管を浮かび上がらせた無々が台に足を乗せ、飛び出そうとする。

 それを後ろからミサキが止めた。


「ストップストップストーップ!!」


 三人の視線がミサキに集まる。あらためて自分以外にもミサキがついているのか、と確認した。愛舞は乱橋との邂逅の時に見ていたが、ここでも驚いていた。


「なにしやがるてめえ!」


「なにしやがるじゃないよ! 

 どんだけ喧嘩っ早いの!? 挑発に簡単に乗っちゃダメ!!」


「悪いねえ、もしかして図星だったのか? 逃げ腰くん?」

「がああああああああぁぁぁぁぁぁ! 殺すッ絶対殺すッ!!」


「愛ちゃんもういいから!」


 無々と同様に愛舞についていたミサキも見かねて飛び出してくる。


「あー、……っと。要望あるかなー? とか聞きたいんだけど」


「「ないですッ!!」」


「そ、そう。なら、二人はもう連れてっちゃっていいよ」


 中央にいたミサキがこれ以上は危険と感じ、許可を出す。


 それぞれのミサキが担当プレイヤーを連れて箱庭へ強制送還させた。


 音の無くなった空間に、ミサキの溜息が漏れる。


「……二人は、要望とかある?」


 パーツやアイテムをミサキに渡すことで、要望や違ったアイテムを貰うことができる。

 ミーティングは情報交換とは別に、こういったやり取りができるのだ。


 あの二人に比べれば弱者であるみんと乱橋には、ありがたいシステムだった。


「じゃあ……」と言ったのは乱橋だ。

「パーツは、いま誰がどれだけ持っているのか、とか、分かるのか?」


 箱庭に行ってしまえば誰がどのパーツを持っているかは分からない。

 レーダーには所有されていないパーツしか映らないのである。


 ここで情報を交換し、誰がパーツを持っているのか。

 それを把握し、特定の一人を狙い撃ちするのも作戦の良い例となる。


 願えばプレイヤー、それぞれの位置も把握できる。


 ただ、いくらミーティングの場とは言え、

 それぞれの企みまでもを教えてもらうことはできない。


 一人のミサキが知っていれば、全てのミサキに伝達はされる。


 だがそれぞれの作戦まで教えてしまったらゲームにならない。


 駆け引きの面白味が欠如してしまう。

 教えてくれることと、そうでないものは確かに存在している。


「うん分かるよ。ちょっと待ってね。

 ……君以外は持ってるね。みんが一つ、無々が二つ。愛ちゃんが三つだね」


「俺以外持ってんのかよ……」


 乱橋はがっくりと肩を落とす。レベルが違い過ぎる。


「お前も持ってるのか……」

「まあ、たまたまだけどね」


「奪われたけど乱橋だって最初は持ってたじゃん。奪われたけど」


「なんで二回も言うんだよ! あーあーそうですねえ! 俺は情けないですよ!」


「……なにをいじけてるんだか」


 乱橋についているミサキがフォローしようとしていたが、失敗していた。

 かえって乱橋は落ち込むが、すぐに吹っ切れた様子になる。


「くそ! いやでも、残り一つはあるんだよな?」


「うん。早く行かないと取られちゃうよ?」


 中央のミサキがいじわるな笑みで言う。


「うわやべえ! すぐ行くぞ、ミサキ!」


「はいはい。……奪おうって発想にはならないんだね」


「できるかあんな化物相手に! っと、レーダーで確認しねえと。どこなん……」


 そこで乱橋の言葉が止まるが、

 もう移動を開始していたミサキの力によって強制的にこの場から退室する。


 レーダーの異変に気付いた乱橋にどきりとしたが、

 そのまま行ってくれたことにみんは安堵した。


 もしも突っ込まれていたらと考えると、冷や汗が出る。恐らくは策が破綻していた。

 いや、そこは秘匿されるのだろうか。

 まあ最悪な事にはならなかった、とみんは考えをやめる。


「あ、そうだ。ねえ、みん」


 中央のミサキが話しかけてくる。


「前回のミーティングの時の要望、叶えておいたけど、確認した?」

「してないよ。まだ使わないし、使わないならそれでもいいから」


「そっか。他に要望は?」

「特に」


 言い終えたみんは後ろでじっと待っていたミサキを見る。


「終わったよ。じゃあ、行こうか」

「うん」


 差し出された手を取り、一瞬で。


 みんは港エリアへ戻ってくる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る