第5話 情報交換会 その1

 ――西方・港エリア――


「ん?」


 みんはチクタクと連続で聞こえる音に気づいた。

 時計の針の音。なにかを急かされている気分になってくる。


 実際、急かされているわけではないが、時間が迫っていることには変わりない。

 二回目のカウントダウンなので、一回目ほど、慌てる事はなかった。


「ふぅ。一応、やりたいことはやれたから良しとしようか」



 海から上がったみんは服を着ていた。拭くものがないので濡れた体に直接、着ることになり、服が湿って少し不快だが、いつまでも裸のままではいられない。


 白いワイシャツに紺色のカーディガンを羽織っている。下は学生服のような見た目の、少し生地が薄いラフな格好だった。プレイヤーはみな基本的にそうだろうが、現実世界での服装のままこちらに移動させられている。


 みんは引きこもりで、あまり外に出ない。なのに、運動能力のわりに軽装過ぎだ。

 不満があるとすれば、そこのみになるが……、

 ただまあ、防御など回避でどうにかなるかと思い、彼は目を瞑った。



「……よくもまあ、あんなことできるもんだね……」


 青い顔をしながら、ミサキが後ろからついてくる。


「必要なことだよ」

「だとしても! ちょっとは気を遣ってくれてもいいじゃん!」


 目をバッテンにしながらミサキが吠える。


 みんはミサキの抗議が分からなかった。

 あの行動は必要なものだし、行為も普段からしていることである。


 気分が悪そうなミサキを見ながら、みんは「?」と首を傾げることしかできない。


「もしかしてまずかった? だとしたら悪かったよ」

「できればやる前に聞いてほしかったけど……」


 行動の早いみんは、ミサキが気づくよりも先におこなっていた。

 ミサキにとってはいきなりの奇行を見せられたことになる。


 みんが聞いてくれなければ、ミサキは止めようがない。

 今更のことなので、もういいとミサキは思っているが。


「あれはわたしに影響ないから大丈夫だけどさ……。もしあったらどうしてたの?」

「うーん、ミサキならなんでもできるから大丈夫かなって」


「テキトーな信頼過ぎるよ!」


 自分と関係なくて本当に良かったと安堵する。

 あったらと思ったらぞっとする。

 少しだけあの光景を思い出してしまい、さらに体調が悪化した。


「みん、少し横になってもいいかな……?」

「そろそろミーティングの時間」


 チクタクという音は徐々に早まり、間隔がほぼ無くなった時。

 巨大な鐘の音と同時に視界が変わる。


 ミサキとみんは、一瞬で外から室内に移動していた。



 暗い部屋だったが徐々に光源が生まれてくる。


 正方形の箱の中のような部屋の作り。

 壁に沿って横と縦に赤いラインが交差して引かれている。


 ラインが光る。それぞれのプレイヤーを照らした。


「そういえばさっきは青だったね」

「ちょっとした遊び心」


 意味はないのか、とみんはミサキを見ずに思った。



 東西南北の位置にプレイヤーが立っている。

 プレイヤー同士の距離は五メートルと少し離れていた。


 小さな台が目の前にあり、下半身は見えないようになっていた。


 みんから見て目の前に無無無々。左に乱橋、右に舞ノ舞愛舞。


 ほぼ同時に揃ったプレイヤーたち。


 なぜか愛舞は落ち込んでいて、無々はぼろぼろになって苛立っている。

 乱橋は汚れていて匂いがきつかった。


 それぞれがなにかしらの作業をしていたのだろう。

 一人一人、企みを持っている。

 油断できないゲームだと、みんはあらためて心を構えた。



 定期情報交換会——【ミーティング】が始まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る