我輩はカモである

 ☆STEP 1 


 ウェストレイクの傑作コン・ゲーム。

 コン・ゲームとはなんぞ、というかたのために少し解説を。と思っていろいろ考えたのですが、これが難しい。

 詐欺犯罪を面白おかしく、明るく書いた小説。ということにしておいてください。映画ファンならば「スティング」みたいなやつといえばよいかもしれません。

 では、英訳作業に入りましょう。

 今回は難しい。単語が出てこないとか、文法がどうとかではない部分で厄介。

 このタイトルはおそらく夏目漱石の『吾輩は猫である』のもじりでしょう。痛快な雰囲気を出すためにタイトルをつけた人がひねって訳した可能性が高い。

 ただ、それでも私としてはタイトルを訳すしかないのです。

 英語にも古語というか時代めかした言い回しがあるとは想像できますが「我輩」は【I am】でしょう。「カモ」は鳥の鴨でいいのか、それとも「カモる・カモられる」対象としての「騙される人・お人好し」なのか悩むところ。



 ☆STEP 2


 と、いうわけで……


 “I'm Poor Man”


 ……で、どうでしょうか?


 はい、答えを出した自分でも「馬鹿はお前だろう」と言いたい気分なのです。

 鴨肉の料理を思い浮かべて鳥の「鴨」を引きだそうとしても出てこない。かといって「お人好し」はなおさら出てこない。結局「馬鹿なやつ」でごまかすことにしたも、一番の馬鹿は誰かと言えば……



 ☆STEP 3


 正解は……


 “Duck Soup”


 ……でした。



 うん、そうか。ダックだ、【duck】。千葉にある東京というか幕張界隈にある王国のせいで、ダックと言えば青襟のセーラー服を着ているものというイメージがあり、私の思い描く茶色っぽい羽の鴨とは結びつきませんでした。料理作戦もあながち悪手ではなかったよう。ポークジンジャー、チキンカレー、ビーフストロガノフまでたどり着いて、北京ダックまで行けなかったのが残念。中国まではちょっと距離があったかな。

 一応、英和で確認します。ハイ、確かに【duck】は「アヒル、カモ」でした。

 問題は【soup】。どこかで聞き覚えがある。日本でいう「昼ドラ」のことを海外では「ソープオペラ」と呼ぶのではなかったか、と。確か石鹸メーカーがスポンサーのことが多いから、ソープ(石鹸)オペラとなったとか。

 そうか、もしかすると「アヒルの登場する昼ドラみたいなお話」ということなのか。いや、そんなわけあるかいな。

 たわしコロッケとかドロドロの愛憎劇とかと無縁の騒々しくて楽しいお話じゃないか『我輩はカモである』は。

 英和をひいて愕然とします。【soup】って「スープ」じゃないか。「石鹸」は【soap】じゃないか。騙された! いや、騙されていないって。

 冷静になり「カモ」を和英でひく。「お人好し」のニュアンスの英語があるか調べたい。すると、ありました。まず動物の鴨があり、次に「だまされやすい人」とあります。【easy mark】【easy meat】なんてのも「だまされやすい人」のよう。


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