女には向かない職業

 早川文庫版の菊池信義さんのカバーデザインも、とても好き。もちろん、内容も好き。語り出すと切りがないので、早速、英訳作業へ。

 まず「職業」で思いついたのが【job】しかない。なにかもう少し長いアルファベット八文字くらいの単語がありそうな気がするも出てこない。

 次に「女」。普通に考えれば【woman】、あるいはアイリッシュ『幻の女』のときに出てきた【lady】。なのですが、作品の内容を考えると【girl】なんだよなぁ、と悩む。

 最大のポイントは「~には向かない」の部分。パッと出てきたのは“not for”という言い回しなのですが、これも変な気がします。「適さない」や「不向き」みたいな単語があるはず。

 そして、その謎の単語は「適する」や「向いている」になんらかの接頭語をつけて否定の意味にしているような予感がします。根拠はまったくないのですが。

 すでに書いてはいるも、紹介順を考えると後回しにしたほうがよかろうというあるスパイもののタイトルを題材にした原稿で、否定の接頭語について、ちょっと学んでしまっているのでカンニングのような気もしますが、大目にみてください。

 うーん、なんか【suit】みたいな単語があったような。漠然と「スーツが似合う」みたいな語呂合わせ的に覚えていたような気がしないでもない。

 出てこない。タイムアップのようです。



 ☆STEP 2


 好きな作品かつ、好きなタイトル、しかも、訳しがいがあるということで腕まくりして頑張りましたが、自信はありません。


 “The Job Unsuitable for Woman”


 で、いかがなものでしょうか。



 ☆STEP 3


 正解は……


 An Unsuitable Job for a Woman


 でした!


 思わず感嘆符をつけてしまいました。ちょっと驚いています。そして、カンニングしたんだろ、と勘ぐられないか心配なほど。『緋色の研究』のときと同じで、カバーを繰り返し見ているなら、原題も無意識に頭に刷り込まれているんだろう、と怒られそうな気もしますが。

 にしても、よく【unsuitable】「~に適していない」が出てきたもんだ。頭にunまではともかく、後ろにableをつけるまでクリアしたとは、お気に入りのデザイン刷り込み説をとらざるをえません。

【unsuitable】の前のanは私の学力で引っ張り出せなかったにしても、【woman】の前のaは正解したかった。お話の中身を考えれば、「一人(きり・ぼっち)の女の子」の成長物語なのですから。

 ちなみに「職業」で辞書をあたると【occupation】【profession】【vocation】【career】と出てきました。私の頭の片隅にあったアルファベット八文字くらいの単語がなにかはいまだ不明のままです。vocationがピッタリ八字ですが、人生でお見かけした記憶がございません。




 おまけ


 タイトルだけで「ケッ!」となってしまうかたもいるのかもしれません。男社会のなかで大人に成長する女性のお話というのが、ある種、珍しくもなんでもないことになる、あるいは、性差による障壁なんてものがフラットになって昔話として風化するのがこれから進むべき道なのかもしれません。

 そして、そうなるとこの物語は読まれなくなるのかもしれません。あるいは排除されるのかもしれません。

 作者のP・D・ジェイムズはすごい作家ですが、今の日本でそんなに読まれているわけでもなく、諸々、考えると日本では消えていくのかもしれません。寂しいなぁ。

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