長い墜落

 ☆STEP 1 


 ミステリ好きの間では時折「どんな謎解き」がすごいか、ではなく、「どんな謎」がすごいか、という議論がされることがあります。

 ホックの「長い墜落」はしゃれた謎の代表格みたいな作品です。男が高いビルの窓から飛び降りるところを目撃されたが、落下地点に死体はなく、数時間後に死体が落ちてくる、というもの。登場人物の一人が「ずいぶんと長い墜落だな」みたいなことを口にします。その人を食ったようなセンスがしゃれています。

 英訳作業に入りましょう。「長い」は【long】で決まりでしょう。空間的な距離にも、時間的な距離にも使えた単語のはずです。

 問題は「墜落」。余談ですが、墜落と転落の違いをご存じでしょうか。墜落は高いところから落ちることで、転落は転がり落ちることです。ゆえに窓からの飛び降りは墜落、階段や崖をゴロゴロと転げ落ちるのは転落ということになります。

 なぜ豆知識を挟んだのかといえば、勘のよいかたはおわかりでしょう。「墜落」という英単語が出てこないため、このままではあまりに字数が短くなって読み物としてどうかというものになってしまうからです。


 ☆STEP 2


 言い訳が済んだところでまいりましょう。


 The Long Fall


 で、どうでしょうか? 「墜落」を「落ちる」という語に変換して無理矢理、【fall】という語をくっつけてみました。



 ☆STEP 3


 正解は


 The Long Way Down


 でした。


 なるほど。私流で無理矢理、逆日本語変換すると「下への長い道のり」になりましたが、これは作品内容にも合致します。

 気になって「墜落」をひくと「(飛行機の)墜落」という意味で【crash】が出てきました。そして、【fall】も墜落の項に出ています。

 なんだか、当たっているけれど、正解ではないみたいな感じになりました。まぁ、こういう回もあるということで。


 おまけ


 今回、取り上げた「長い墜落」はサム・ホーソーンシリーズではありませんが、『サム・ホーソーンの事件簿Ⅰ』にボーナストラック的に巻末に収録されています。早川から出ているハンス・S・サンテッスンの密室アンソロジーにも収録されていますが、これよりは創元推理文庫のホーソーン・シリーズのほうが入手しやすいでしょう。


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