妖魔の森の家

 ☆STEP 1


 今回はカーです。ポオ、ドイル、チェスタトン、クイーン、クリスティが並んで、カーを取り上げない手はないでしょう。

 初めての「の」が二回のパターン。日本語の「の」の多様性がこんなところからも感じ取れます。

 密室ものの傑作で、「困難な問題は分割して考えよ」という言葉がこれほど当てはまる作品もないでしょう。実にテクニカルでカーっぽい作品。カーといえば、バカミス的にアイデア一本で「ファイト! 一発!」みたいなトリックもある一方で時に理解するのが困難なほど複雑なメカニズムのトリックを用います。

 密室のためにこんなことまでしてしまうのか、という驚きはありながら、アイデアとメカニズムのバランスの取れた傑作です。カーから短編一つオススメるならば、これ、という作品。

 英訳という困難な問題も分割して挑みましょう。

 わかるところからいけば「森」は【forest】でしょう。「家」は【house】。

 タイトルは「妖魔の森(と呼ばれる森)にある家」という意味ですから、おそらく、【the house】の後にinだかatだか前置詞(?)をつけた後に「妖魔の森」の部分をくっつければいいのでしょう。「妖魔」がわかりませんが、きっと「妖魔を意味する単語+forest」のはず。

 おぉ、いつになくちゃんと考えているではないですか。

 妖魔を分割してみましょう。「妖しい」と「魔物」の二つに分けられました。「妖しい」にあたる英単語は思い浮かびませんから、「妖しい」をさらに別の日本語に変換してみます。なんとか「邪悪な」をひねりだし、【evil】と英単語まで持って行きました。あと一歩です。

 同じように日本語から日本語への置き換えで「魔物」を「怪物」にシフトします。ここで【monstar】が出てきたのでいけそうな気がしてきました。


 The House in Evil Monstar's Forest


 なんか違う気がするのは、日本語から日本語への置き換えをしているせいかもしれません。【evil】単独で「妖しい魔物」をさしそうな気がしてきたので、


 The Hose in Evil Forest


 にしてみましたが、ふと、気づきます。「魔女の森の家」でいいんじゃないか、と。これならば「魔女」はウィッチですから、


 The House in Witch Forest


 です。



 ☆STEP 2


 長くなりましたが、今回は……


 The HOuse at Witch Forest


 で、どうでしょうか。



 ☆STEP 3


 正解は……


 The House in Goblin Wood


 でした。


 そうか、ゴブリンかぁ。確かに怪物とか魔物とかと比べると、妖魔ってちょっとなじみの薄い言葉だとは思ったのです。私のスマホでもポメラでも一発変換できますが。

 そうか、【witct】なら素直に「魔女の森の家」になるよなぁ、とそのあたりを見抜けなかったことを悔やむ。ちなみに私の手元の和英辞典では「妖魔」という項目そのものがありません。

 英和で【goblin】とひくと「小人、小鬼、小妖精」とあります。そうです、私の感覚だとゴブリンを日本語にするならば、「小鬼」。

 なんとなく醜い外見の緑色した能力の低いモンスターという印象があります。ドラクエのスライムの立ち位置で、ビジュアルはあんなに愛らしくはない感じ。このイメージは子どもの頃に触れたアニメかゲームかなにかで刷り込まれているのかもしれません。

 そして、atではなく当初の通りinにしておけば、前半部は当たっていたわけです。

 ゴブリンは納得できるも、首を傾げたのは【wood】。これ、「木」という意味では? 複数形の【woods】で森ならばなんとなく意味が通じる気がするも、wood単独とはこれいかに? 辞書をあたります。

 なるほど、木という意味以外にちゃんと「森・林」という意味があります。そして、【forest】も「森」。違いは【wood】よりも【forest】のほうが広いとのこと。確かに作品に描かれている感じでは「森林地帯」というよりは「森」です。





 おまけ


 この「妖魔の森の家」は創元推理文庫のカー全集2『妖魔の森の家』のみならず、さまざまなアンソロジーでも読めます。

 個人的にはカーの作品のなかに置くよりも、アンソロジーのなかにあるほうが良さが伝わると感じていいます。、『贈る物語 mystery』(光文社文庫/綾辻行人編)がオススメですが、これは今、手に入るのかどうか。『世界推理短編傑作集5』(創元推理文庫/江戸川乱歩編)ならば、書店に置いてある可能性は高そうですが、これは古典海外作品ばかりが並ぶので、翻訳物が苦手なかたには胃がもたれるかもしれません。


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