最終話【エピローグ】
あの日から5年後のことだった。
メイシスも僕の錬金術研修を修了して一人前の錬金術士としてメイシス工房を正式に開業して宮廷錬金術士長の地位と共に忙しい毎日を送っていた。
「タクミ様。このレシピについてなんですが……」
メイシスは免許皆伝してからも何かと錬金術に関しては僕に助言を求めて工房を訪れていた。
「おいおいメイシス。もう婚姻は結んだのだからいつまでも『様』をつけるのはやめて欲しいな。
それならばまだ『師匠』と呼ばれは方がしっくりくるぞ」
「あっ!ごめんなさい。そうね「あなた」ふふっ」
「メ、メイシス(汗)」
5年程過ぎて成人したばかりだったメイシスも20歳を迎え女性としても成熟してきてますます魅力的になってきた。
歳を取らない僕と同じ年齢になり僕と婚姻を結んだメイシスの前に創造神ガルサスが現れメイシスに質問をした。
「錬金魔法士タクミの弟子であり婚姻者となったメイシスよ。
そなたも知っているとおりタクミは私の加護を受けている為に歳をとらずに世界の錬金術の向上に貢献しています。
あなたはそのタクミと婚姻を結び共に錬金術の発展に尽力をつくすのであるならば人間の寿命ではまさに瞬時のごとく衰えを迎える事でしょう」
創造神ガルサスは僕とメイシスに微笑みながらひとつの提案をしてきた。
「あなた方が望まれるならばメイシスの人間としての枠を加護の力にて解放し、タクミと共に過ごす時間を与える事が出来ますがどうされますか?」
その言葉を聞いたメイシスは即答した。
「お願いします!!」
「共に支え会う者があるとはいえ人間の寿命を軽く10倍は越える時を老いる事なく過ごす事になります。
楽しい事ばかりでなく時に永き苦しみの時を過ごすかも知れません。
それでもあなたは望みますか?」
ガルサスの言葉にメイシスは強い目でハッキリと答えた。
「問題ありません。
ここには愛する夫と心を許せるララさんが居ます。
さらに信頼出来る精霊の仲間達が居ます。
そして守っていきたい故郷があります。
これだけ揃っていて何の不満がありましょうか?」
メイシスの強い意思を汲み取ったガルサスは僕達に言った。
「あなた達の意思は分かりました。
それではお望み通りメイシスにもタクミ同様の加護を与えましょう。
ああ、もう一人の婚姻者にも同様の加護を与えておきましょうか。
彼女は竜族ですので加護無しでも千年程度は生きられるでしょうがやはり老いによる衰えは不可避でしょうからね。
ああ、ひとついい忘れていました。
大変申し訳ないのですがあなた方は子孫を残す事が出来ないのです。
もし、子孫を残せたら産まれた者達は皆あなた方より先に亡くなる事になりあなた方の精神的喪失感に悪影響があることが確実ですので対処したのです」
その事実は僕よりもメイシスが強いショックを受けると思われたが意外にもメイシスは納得していた。
「創造神ガルサス様。
そこまで考えられての言葉しかと胸に刻み込んでおきます。
ありがとうございました」
「メイシス……」
「私は大丈夫ですがララさんに説明する時が大変かも知れないですわね。
彼女の方が種族維持のためってララさんは竜族でしたわね。
大体タクミとの子孫って残せるものでしたの?」
「うーん。どうなんだろうね?僕もそこまで考えてなかったよ。
駄目駄目だよね。
その辺りはまたゆっくりと話し合おうと思ってるから今は置いておこう」
「そうね。時間だけはありますものね」
「話が纏まったようですので私はこれで戻りますがもう一人の婚姻者にも軽く挨拶だけしておきますね。
それではこれからもこの世界の発展に尽力をつくしてくださいね。
また百年くらいしたら様子を見にきますので頑張って下さいね。
私の世界のために……」
創造神ガルサスはそう言うと神界へと帰っていった。
ガルサスが消えた後、僕とメイシスは向き合って少し照れながら頷きあった。
「何かいろいろ言われたけれど、これからずっと宜しくだな。
僕達の役目が終わる事は無いかもしれないけれど僕達三人と精霊の仲間が要ればきっと明るい未来を造れると思うよ」
「はい。タクミはいつまでも私の師匠だからララさんと二人でしっかりとついて行きますわ」
* * *
その頃、ララは新しい錬金術を試作していた。
ララもまた、メイシスと同時にタクミと婚姻を結んでおり、新婚気分に少々浮かれていた。
『婚約から5年でやっとタクミと婚姻を結べたわ。
メイシスに遠慮して過度のアタックは控えてきたけどもう大丈夫だよね?
タクミ優しくしてくれるかな?って何て事を考えてるの恥ずかしい!』
ララがいつもの妄想モードに入っている時に創造神ガルサスが現れララに話しかけた。
「どなた?ああ、ナンパはお断りしていますわ。
これでも私は『人妻』ですので。
いくら私が魅力的でも無理なものは無理ですわ。
ああ、魅力的過ぎる私が悪いのですね。
また見知らぬ殿方を無闇に傷つけてしまいましたわ」
相手を良く見ないで妄想に走る。ララモード全開である。
しかし、ガルサスは少し苦笑しただけでララの妄想を流しながら冷静に話し始めた。
「タクミ殿婚姻者のララ殿。
以前ララ殿をこの世界に移転させてからの対面となりますかね。
この度タクミ殿と婚姻を結ばれたとの事であなたにも私の加護を付与するべく参った次第です。
あなたは竜族ですので人族に比べ遥かに長寿であり且つ身体的、魔力的に優秀ですので加護は必要ないかもしれませんが、タクミ殿と暮らしていく上で必要と判断させて頂きました。
ぜひこれからタクミ殿と共にこの世界の発展に尽力を願います」
相手が創造神ガルサスだと気がついたララは慌てて妄想を振り払いガルサスに聞いた。
「ああ!創造神ガルサス様!お会いしたら聞きたかった事があります。
私の同族の皆は今どうしているのでしょうか?今さら私は皆の前には出られないかも知れませんが皆の動向だけがいつも胸にひっかかっています。どうかお教え下さい」
「そうだな。そなたにはすまない事をした。
まず、そなたの同族の皆はここからは遠く離れてはいるが無事に静かに暮らしておる。
あの時、そなたの同族皆同じ場所に送るつもりだったのだが途中でタクミ殿が割り込み召喚をしてしまい、そなただけ引っ張られてしまったのだ。
しかし、タクミを責めないでやって欲しい。
彼は意識してそなたを召喚した訳ではないのだから」
ガルサスは少し考えてララに言った。
「もし、そなたがどうしても同族の元へ帰りたいと望むならば移転を許可しても良いと思っています。
但し、タクミ殿の事もこの国で経験した錬金術の事も記憶から削除させてもらう事が条件になりますが……」
「そんなのズルいです!そんな事は聞きたく無かったです!
今の生活と仲間とを天秤にかけるようなこと私が苦しむとは思わなかったのですか?」
ガルサスは困った顔をしながらララに言った。
「浅慮でした。今そなたが知りたかったのは仲間の安否だけでしたね」
「うわぁぁぁん!」
ララは大粒の涙を流しながら大声で泣いた。
仲間の無事を喜ぶ涙。
仲間に会うことが出来ない涙。
まだ竜生の一割しか生きていないララには思いが溢れて泣くしか無かった。
ーーー暫く泣いたララは気持ちが落ち着いたのか涙をぬぐってガルサスに言った。
「仲間の無事を知れて嬉しかったです。
でも今の私はタクミの弟子にて妻でもあります。
彼とメイシスと共に自分をもって生きていきたいと思います。
ありがとうございました」
ガルサスはララの言葉を聞くと優しく微笑みながら神界へ帰っていった。
タクミ達と同様に百年後に様子を見に来ると告げて……。
「さあ!今日も錬金術の特訓をするわよ!
そして世界中に名前を売っていつか仲間達の耳に届くようにするわよ!」
こうしてタクミ達3人と精霊達の錬金工房は今日も楽しく平常運転で世界の幸せの為に開店するのでした。
ーーー 完 ーーー
錬金魔法士と精霊達の気ままな工房ライフ【カクヨム改稿版】 夢幻の翼 @mugennotubasa
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