第40話【大切な人への贈り物 その二】

『さあて、ふたりともどんな物を作ってくるかな?まだまだ未熟だから悩んでいるだろう。

 でも考える事が大切だから大変だろうけど良い経験になるだろう。

 錬金術は「人が喜ぶ物を創造する」事が大前提で私利私欲のために力を使うべきでは無い事を厳守させなくては僕の弟子になる資格はない』


「ミルフィだったら何を貰ったら嬉しい?女性の視点から教えてくれると助かるんだけどな」


「そうですね……ってタクミマスター!ズルは駄目ですよ。

 おふたりともひとりで真剣に考えておられるのにマスターがそんな事をしてたら怒られますよ」


 ミルフィが笑いながら僕に忠告してきた。


「冗談だよ。心配しなくても何にするかは既に決まってるんだ。

 ただ、僕からのプレゼントは正直言ってふたりが喜ぶ事を前提に考えたものではないから今回のお題からすると実は失格ものなんだよね。

 でもふたりには絶対に持っておいて欲しいからプレゼントとしてはありだと思ってるよ」


「何を作るんですの?」


「それは、出来てからのお楽しみって事で。期限日のセッティングは任せたからお願いするよ」


「了解です。タクミマスター」


   *    *    *


 ーーーそして、期限日の成果発表会の時がきた。


「準備はいいかふたりとも!」


「いつでも良いわよ!」


「準備は出来てますわ」


「よし!錬金を始めるぞ!時間は一刻だ!始め!」


 三人は自分の錬金釜に向かいそれぞれの品物を作り始めた。


 ーーーそして。


「そこまで!どうだ?ふたりとも上手く出来たか?」


「上出来よ!」


「練習通りに出来たと思いますわ」


「じゃあ、ララの作品から出してくれ!」


 ララは出来立てのスープをふたりに取り分けて言った。


竜族異世界料理ドラゴンスープよ!こっちの世界には無い料理を再現してみたの。

 燃えるような味を体験してみてね」


 僕とメイシスは出された真っ赤なスープにたじろぎながらも食べない訳にもいかず恐る恐る口に運んだ。


「!?☆@%#!!」


「…………」


「みっ、水をくれ!!もっ燃える、口が燃えるぞ!!」


「…………」


「えー!?そこまで辛い筈はないと思ったんだけどなぁ?メイシスはどう?」


「おい!メイシス!大丈夫か!?ヤバイあまりの辛さに気絶している!セジュ!早くヒールを!!」


「ーーーララ、やりすぎだ。

 確かに斬新な味だが女性視点の異世界料理を再現したのは評価する。

 だが僕達の舌が耐えられなかった時点で『アウト』だ。こんな料理世に出したら死亡者続出するかもしれないぞ」


「えー!?駄目なのぉ?」


「課題はギリギリ及第点をやるが世には出さない方が無難だな。次、メイシス頼む」


「すっ凄かったわ。さすがララさんね私の想像をはるかに越えた物を作ってきた事に驚いたわ。私の作った物はこれになりますの」


 そう言いながらメイシスは化粧品を差し出した。


「これは女性の美しさをより引き立てる化粧品になりますの。

 今ある市販品とは比べ物にならないくらい良質な素材で女性をサポートする事が出来る化粧品ですのよ。試しに私が使ってみましょう」


 メイシスが化粧品を使って化粧をしようとした時、ララが横からメイシスに言った。


「それ、私に使ってみてくれないかな?私今まで化粧品なんて使った事がないから凄く気になるの」


「そうだな。メイシス、今回のはお互いの品物を体験して感想を言い合う事も意義があるからララに使ってやってみてくれないか?」


「えっ!?それは……」


 メイシスとしては自分が綺麗になってタクミに迫るつもりだっただけにララの申し出とタクミの後押しは計算外だった。

 しかし、タクミの言葉に反対する訳にもいかず、しぶしぶ了承し、ララに化粧を施した。


「うわっすっごーい!!まるで私じゃないみたい!メイシス!これ凄すぎるわね!」


 大はしゃぎのララに対してひきつった表情のメイシス。

 明暗はハッキリ別れてしまった。


「メイシス、凄く頑張ったな。これ程とは思わなかったよ。文句なく合格だ。

 ただ、素材の入手難度が高いみたいだから量産は難しいだろうからメイシスのスペシャルレシピとして保管しておくと良いと思うぞ」


 僕はメイシスの頭を撫でながら作品を絶賛した。

 メイシスは化粧で変身して猛烈アタック作戦は失敗に終わったがタクミに誉められた事で充分満足していた。


「それでタクミは何を作ってくれたのかなぁ?」


「きっと私達とは比べ物にならないくらいに素敵な物だと思うわ」


 ダメ出しされたララはジト目で、絶賛されたメイシスは期待を込めた目で僕の品物を待ち受けていた。


「僕からふたりにはこれをプレゼントするよ。気に入ってくれると嬉しいな」


 僕はそう言いながらふたりの前に品物を出した。


   *   *   *


「「これは?」」


 ふたりの前に置かれた物は『イヤリング』だった。


「可愛い!」


「綺麗ですわ!」


 それぞれ『竜』と『王家の紋章』を型どった特製のオリハルコンイヤリングにふたりとも目を奪われていた。


「そしてこれが僕の分だ。さすがに僕にはイヤリングは似合わないから腕輪型にしたんだ」


「タクミの分?もしかしてこのイヤリング飾り以外の機能があるの?」


 ララはイヤリングをまじまじと眺めてみるが特に変わった所は見当たらなかった。


「もしかして魔力を通したりすると変化があったりして?」


 メイシスが僕の表情からヒントを読み取ってイヤリングに魔力を遠し始めた。

 すると虹色のイヤリングが淡く光を発し始めた。


「予想通りね。でも光るだけじゃないわよね?」


「勿論それだけじゃないさ。

 メイシスちょっと魔力を通したまま隣の部屋に行って扉を閉めてくれないか?」


「何だかよく分からないけどいいわよ」


 メイシスは言われた通り隣の部屋に移動して扉を閉めた。

 それを確認した僕は腕輪に魔力を通して小声でメイシスに話しかけた。


「メイシス。僕の声が聞こえてるかい?」


「えっ?何でタクミ様の声が聞こえるの?」


 メイシスが驚いて隣の部屋から慌てて扉を開けて入ってきた。


「そんなに慌てなくても大丈夫だよ。

 これがふたりに渡したイヤリングの最大の機能なんだよ。

 魔力を通す事によって持ち主どおしで遠隔会話が出来るんだ。

 と言っても今は僕の腕輪型通信機が親でふたりのイヤリングが子の役割しか与えられていないから僕とメイシスか僕とララでないと会話出来ないんだよ。

 つまりメイシスとララは無理となるんだ」


 僕は今度はララに魔力を通しておくように伝えて後ろを向くように指示した。


「今度はなによ?どうせやってみれば分かるとか言うんでしょ?」


 ぶつぶつ言いながら後ろを向くララに僕は腕輪のモードを切り替えてから頭の中でララに話しかけた。


『ララ聞こえるか?今、頭の中で語りかけてるんだけど』


「えっ?何?頭の中に直接タクミの声が聞こえるんだけど?」


「ララさん。タクミ様は何も話してはいませんがタクミ様の声が聞こえるのですか?」


 メイシスが不思議そうにララに状況の確認をしていた。


「うん。なんだか頭の中に直接響いてくる感じがするのよ。なんか変な感じだわね」


「とまあこんな感じで使う事も出来るんだ。他の人に聞かれたくない時とか便利だぞ」


「いや、普通に通話出来るだけでも異常なのに既に便利とか言うレベルじゃあないです!国宝級、いえ国宝級以上ですよ!」


「まあ、ふたりとも僕の大切な弟子であり婚約者だからね。

 何かあった時にすぐに対処出来る環境をつくりたいと前から思ってたんだよ」


「タクミ!」


「タクミ様!」


 ふたりとも感極まり抱きついてきた。


「おいおい。嬉しいけれどまだ早いぞ。

 これからふたりには僕と一緒に錬金術の発展に尽力して貰わないといけないからね」


「任せなさいよ!」


「精一杯努力致しますわ」


 その後、僕はふたりに出来る限りの錬金術を教えて国からの依頼はメイシス工房に、一般の依頼はララ工房に一任し、僕はアドバイザーとしてふたりを手助けしながら新たな研究に邁進するのであった。


「やはり持つべきは優秀な弟子と嫁だな」

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