第1話【異世界神からスカウトされたので転職します】

 今でこそチートスキルを持つ僕だが初めからそんなスキルを持ってこの世界に生まれてきたわけではない。


 ここからは僕が創造神ガルサスによって転移・転職させられた時の事になるのだが、つい1年前まで僕は現代日本に暮らす少々発想が先進的過ぎる発明の天才『無から有を生み出す意味合いで、現代の錬金術士・創成のたくみ』と言われていた技術者だった。


 その頃の僕は科学と工学が世界の全てで、世界のどんな事でも科学で説明出来るものだと思っていた。


 神や悪魔。ましてや死後の世界なんて何の科学的根拠も無いと考えていたし、科学に反する異世界やら魔法なんてものは厨二病にかかった妄想族の成せるわざとまで思っていた。


 だが、ある新しい発明に没頭していた3日目の徹夜あけの朝、朦朧もうろうとした意識の中で僕は神と名乗る人物に出会い、勧誘スカウトされた。


神山かみやま たくみ様ですね。

 あなたの能力を私が作った世界で人々の生活を豊かにする錬金魔法使いとして発揮してみませんか?」


 神を名乗った者はそう告げるとこちらの返答を待たずに続けて条件を提示してきた。


「貴方は実に素晴らしい発想で多くの人々の役に立つ道具を数々作られて来ましたが、人である限り全ての事に限界があります。

 それは、技術であったり素材であったり予算であったり、老いであったり、怪我や病気であったり……。

 それらの限界要素を改善する為に以下の事を提案します」


 ガルサスはそう言うと僕にひとつずつ説明を始めた。


「ひとつ、貴方の考えた通りに加工品をつくれる錬金魔法を授けます。

 ただ、素材は自力で採取する必要はありますが……。


 ふたつ、怪我や病気にならないように私の加護と老いの無い体を授けます。


 みっつ、こちらの世界での生活をサポートする精霊達を召還するスキルを授けます。

 精霊達は他の人間達に支える事も出来ますが気まぐれな性格の者が多いので他人に斡旋する際はしっかり説明をお願いします。


 よっつ、こちらで自宅兼工房は最初に準備しますが生活費は工房で依頼等を受けた報酬でお願いします。

 他に何か質問はありますか?」


 早口でまくし立てられた僕は一言で返答した。


「いや、間に合ってますので」


(まあ普通なら断るよな。

 どう考えても詐欺か宗教的な勧誘の可能性が大だからな)


 と言うか、老いがないとか永遠と僕に働けと言うのか?

 ブラックもブラック、真っ黒な条件だとおもうんだが……。


 僕が断ると神と名乗る者が更なる衝撃的な事を伝えてきた。


「ーーーそうですか。でも貴方このままだと明日死んじゃいますよ?」


「はい?」


(コイツの言っている意味が分からない。

 そもそも僕が明日死ぬ根拠がどこにあるのか?

 また、そうならば何故それが分かるのか?

 全く科学的証拠のないものをどうやったら信じられるのか?

 まさか僕の前に居るのは『神は神でも死神だったのか?)


 そう思っていると。


「いえいえ、わたくしは万物創成担当のガルサスと申します」


 まるで僕の考えている事が分かるかのようにガルサスは言葉を続けた。


「時々、手が足りない時にはこの世界で終焉しゅうえんのお手伝いをする事もありますが、基本的には世界の見回りをしています。

 それで、その“時々”の担当になった貴方がこのまま消えてしまうのが能力的に少々勿体ないと思いまして……。

 それで、第二の人生として私の管轄世界にスカウトしようかなと思ったのです」


 ガルサスはそう説明すると軽くお辞儀をしてからこちらの回答を待った。


(コイツは今なんて言った?

 僕が天才的などんなに頭をフル回転させてもガルサスと名乗る男の言っている事は到底理解出来なかった)


「………。

 ちなみに僕はどんな死に方をするんだ?」


 聞いた内容を信じられずにいた僕は自然とガルサスに問いかけていた。


「そうですね、わたくしも詳しくは存じませんので少々調べてみましょう」


 ガルサスはそう言うと手で空中を一撫でしてパソコンの画面のように宙に浮かぶ文字をさらっていた。


「わかりました。この記録によると貴方は明日の12時に隕石にぶつかって死亡すると出てますね。

 ちなみにこの予知は絶対ですので、分かっていても避ける事は出来ませんし、それを無理やり回避しようとした場合は貴方を含めたその他大勢の方々や世界そのものに多大な悪影響が生じる事となります。

 例えばですが、貴方が隕石を回避するために地下シェルター等に避難したとしましょう。

 今のままなら数十センチ級サイズの隕石が落下してくる予定が数キロメートル級になり、この地域全てを破壊する大災害となるでしょう(笑)」


(いやいや(笑)ではないだろう。

 人ひとりの運命を回避するだけでその結果が大惨事とかあり得なくないか?)


「貴方は特別ですので」


 ガルサスはそう言うと涼やかな笑みを浮かべて答えてくれた。


「ひとつ、私が貴方の担当者であること。


 ふたつ、貴方は類いなき才能を持っていること。


 みっつ、私が創造神で自分の世界を発展させて幸福度を向上させたいと思っていること。


 よっつ、そして私は貴方の才能に興味があること。


 いつつ、そもそも人はいつ死亡するか予知する事が出来ないので運命を回避出来ないこと。


 以上の事より貴方には元々選択権は存在しないのです」


 ガルサスはそこまで説明した後で続けた。


「まあ、それでも全て信じられなければ仕方ありませんのでスカウトは諦めて今回の事は記憶から消させて頂きます。

 下手に回避行動をとられて被害が大きくなってはこの世界の創造神に嫌味を言われますので」


 ガルサスはさも仕方ないと言った感じで自分を納得させようと何度も頷いていた。


 僕は愕然がくぜんとして、男の言葉を反復した。


『僕は明日死ぬ事は決定事項で回避は不可能。

 無理に回避すれば地域一帯が壊滅する大惨事になる。

 そもそも記憶を消されてしまうので事故が起こる事に気がつかない』


「………。

 駄目だ。完全に詰んでる。

 一縷いちるの望みはこの話が全て夢だったと言う場合のみだが……。

 でも本当なら僕は明日死ぬ。やはり詰んでる」


 僕はフル回転でどうするか考えたがどうしようもない事案と結果づけた。


「ふぅ。仕方ないか・・・」


 ため息をついて僕はガルサスに話しかけた。


「一応状況は理解したつもりだけど、幾つか聞きたいことがあるんだけど……」


 その言葉を聞いたガルサスは微笑みながら『何でもどうぞ』と言った。


「ひとつ、移転先の言語、要するに読み書きは大丈夫なのか?。


 ふたつ、錬金魔法の使い方は誰が教えてくれるのか?


 みっつ、自分の安全はどうやって守るのか?僕は戦えないぞ。


 よっつ、現世界での僕の発明品の扱いはどうなるのか?


 いつつ、現世界での僕の扱いはどうなるのか?死亡扱いなのか、行方不明扱いなのか?


 むっつ、移転先の世界観とかはどんなものか?


 ななつ、ぶっちゃけ僕は移転先の世界で生きていけるのか?」


 僕は今現在気になる質問を次々と質問した。


「順を追って説明いたしますね」


 ガルサスはそう言って僕の質問に答えてくれた。


「ひとつ目、言語は独自の言語となりますが、全て自動翻訳して日本語で読み書きして通用するようにしておきます。


 ふたつ目、錬金魔法は錬金釜に作りたい道具の素材を入れて頭の中で完成形を詳細にイメージして頂くと作る事が出来ます。

 イメージが明確なほど高品質な物が作れます。


 みっつ目、身の安全は基本的には自衛となりますが生命に危険が迫っている時は私の加護が自動発動するのでおそらく大丈夫かと。

 それでも心配なら護衛の精霊を召還してみて下さい。


 よっつ目・いつつ目についてですが、まず貴方には弟が居られますね?貴方に隠れて目立たないですがかなり優秀だそうで。

 そこで彼を貴方のゴーストとして今まで貴方が発明した物は全て弟さんが発明した事に世界の情報を書き替えます。

 そして貴方はこの世界には存在しなかったとさせていただきます。


 むっつ目、私の世界はそうですね、この世界に例えるなら中世の西洋文化が近いですかね。

 王国政治で貴族が領地を統括し平民は町を形成し、町の外では獣や魔物が時々旅人を襲う事もあるごく普通の治安ですよ。


 ななつ目、錬金の仕事はギルドを通してそれなりに入りますのでお金は大丈夫かと。

 町の中の治安は悪くないので生活面も大丈夫かと。

 ただ、素材収集時は町の外に出ないといけませんのでギルドで冒険者を護衛に雇うか、自分で護衛用の精霊を召還するかして下さい。


 以上ですがご期待どおりの回答でしたか?」


 ガルサスはそう答えると微笑みながら僕が話し出すのを待った。


「最後に今僕は30歳だけど異世界では歳をとらないんだったよね。

 もし出来るならもう少し若い頃の、そうだな20歳頃の体にしてもらえると素材収集とかの冒険も体が動いて安心なんだけど、出来るかな?」


「その程度はお安いご用ですよ。

 一応言っておきますが私の世界は15歳が成人となっていますので工房を開くには20歳くらいがちょうど良いかもしれませんね。

 もしもの時の為に私と連絡がとれる水晶を渡して置きますが、いつも連絡がとれるとは限りません。

 私があまり忙しくなければ対応しますね。

 それでは全ての事柄を了承したと言う事で今から私の世界へご案内しますね。

 ああ、そこに立って頂ければ大丈夫ですよ」


 ガルサスはそう言うと僕の部屋一杯の魔方陣を形成した。


 魔方陣は光を放ちながらゆっくりと僕を包み込み、次の瞬間には現世界から僕と言う存在が消え去った。

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