錬金魔法士と精霊達の気ままな工房ライフ【カクヨム改稿版】

夢幻の翼

第0話【プロローグ】

 今日も僕は工房の前に設置しているカフェ風の応接間で商談を行っていた。


「そうですね。その仕様なら500万リアになります」


 僕はそう告げると工房の奥へ向かって声をかけた。


「ミルフィ冷たい紅茶を2つ頼むよ」


「はーい!マスター了解ですの」


 数分後、工房の奥から見た目20歳くらいのおっとり系の美女が紅茶を入れて応接間に入って来た。


「どうぞ」


 優しそうな声で商談相手の前にに紅茶を置いた。


「そのもそうなんですよね?」


 彼女を見たアイリス子爵家の執事であるハイラスは僕に訪ねてきた。


「ええ、彼女はミルフィと言う名のティーカップの精霊です。

 まあ、正確には『ティーカップに宿っている精霊が人の姿を魔力によって形成している』のですが……」


 僕がそう言うとミルフィは深々とお辞儀をして、お客様であるハイラスへ自己紹介を始めた。


「ご紹介に与りましたミルフィと申しますの。

 私はマスターの手によって命を吹き込まれてからもうすぐ1年になりますが、私達精霊には年を取ると言った概念がありませんので定期的に存在維持に必要な魔力を頂ければいつまでも現状のままでマスターにお仕えする事が出来ますの。

 見た目年齢はマスターに召還される時に込められた魔力の濃度と素材の基礎能力によって変化しますのでこの姿にしてくださったマスターには感謝していますの」


 ミルフィは手に魔力を込めて角砂糖を精製すると紅茶カップの縁にそっと添えながら話しを続けた。


「私ども精霊の中には温厚な性格の者ばかりでなく、気まぐれな者や少々気性の荒い者、理屈っぽい者もおりますの。

 ですから、主人になったからと言ってあまり理不尽な要求をされますと機嫌を損ねてしまい、道具は消滅して精霊は精霊界へ帰ってしまう事もありますのでくれぐれもご注意願いますの」


 ミルフィはそう告げると再度ハイラスにお辞儀をして工房の奥へと戻って行った。


「有能な彼女ミルフィのおかげで僕の事務的作業が相当軽減されているんだ、本当に彼女には頭が上がらないよ。ははは」


 僕は笑いながらそう言うと商談相手のハイラスへ向き直り、紅茶を一口飲んでから尋ねた。


「さて、ご注文の品は『極楽ザメの牙包丁』で特殊加工処理をご希望という事でしたね。

 精霊付きの道具をご希望の理由は現在の料理長が高齢の為に引退を考えているが後継者がまだ育っていない為。

 ご依頼の包丁は現在王宮の料理長が所持している『通常版』に料理の才能ある精霊を融合させて料理長として子爵家に迎えたいと言う事で間違いないですね?」


「はい。それで間違いありませんが如何でしょうか?」


 僕は少し考えてハイラスに告げた。


「そうですね。今回の件、お受けしても良いですよ。

 レシピも現存してますし、所持の理由もはっきりしていて尚且なおかつ精霊の立場も明確ですので。

 ただ、今は手元の素材が足りないので採取から行いますから納期は大体1ヶ月程度と言ったところですね。それで宜しいですか?」


 ハイラスは考えるでもなくうなづいて「よろしくお願いします」と答えてミスリル金貨の入った皮袋を差し出した。


 ーーーこの世界の通貨は『リア』と言い、この辺りは『リアルナ』と呼ばれる王国が管理している。

 かなり広大な土地で10を超える貴族領主が管理する地域と国王が自ら管理する王都が存在する。


 通貨は硬貨のみで日本の通貨に当てはめてみると『銅貨=10円』『鉄貨=100円』『銀貨=1000円』『金貨=1万円』『ミスリル金貨=10万円』といった感じだ。


 ただ、この世界は物価が安いため一般的な人々の1月の収入は金貨5枚=5万リアくらいだ。

 そんな中で500万リアは法外な価格かと思われるが、勿論それには理由もあり一般的に妥当と言われる価格となっている。

 ちなみに特殊加工無しでも上記の道具を使いこなせばその者は一流の仲間入りが出来る能力を発揮する逸品で、価格も特殊加工有りの3割程度で取引されている。


 この世界には錬金術士の他に鍛冶職人等の各種職人は存在するので、わざわざ料金の高い僕の所に来なくともそれらの職人等に依頼すれば素材さえ準備出来れば道具は作成する事が可能であった。

 ただし、作り方『レシピ』があきらかになっている物だけではあるが……。


 それでも破格の報酬がかかる僕の所に多くの依頼が来るのには理由があった。

 確かに僕の作る道具は一般的に神具と呼ばれ、他の職人の品より良質な仕上がりの品ではあるのだが、それだけで貴族等がこぞって注文に来ている訳ではない。

 僕の持つ特殊スキルが他の誰にも真似が出来ない唯一無二のものだったからに他ならない。

 それは、道具に精霊石と呼ばれる魔力石を融合して人型精霊の形をとる事が出来る錬金魔法と言われる特殊な魔法の使い手だったからである。


 その方法で道具に宿った精霊は契約にて主従関係を結ぶ事で主人に支える事が出来る。

 但し精霊の力は桁違いに強く、いくら主従関係を結んでいても理不尽な要求を精霊にすると強制的に契約を解除されてしまい一度解除されてしまえば再契約は不可能となるし、道具も消滅してしまう事となる。

 ちなみに僕が今までに貴族等に斡旋あっせんした神具は3品ほどだが、今も無事に主人に仕えている精霊は2人で、伯爵家にて執事をしているジンガと子爵家にてメイド長をしているティラスであった。


 後の1人はとある男爵家に勤めていたが、主人の対応が横柄で精霊の不興を買って契約解除された執事形の精霊で、その際には男爵本人が慌てて僕の所に駆け込んできたが最初に忠告していたものを軽くみて買った不興なので再度の依頼はお断りした。


 その際に怒った男爵が僕をとらえに私兵を寄越して来たが、精霊達の加護を受けている僕に危害を加えようとしたとして精霊達による神罰の雷が男爵家に落ちて領主邸が全壊した。


 その時多くの従者達は屋敷内にいたが、精霊達の意向で屋敷外に転移にて放り出されて死者は出なかった。

 だが、事件を重くみた国王は男爵家の爵位をはく奪して土地は隣の領土の伯爵家に吸収合併させ事態の収集をはかった。


 だが、そういった事案がありながらも貴族達は精霊の神具を欲しがる事をやめなかった。


 精霊達を上手く使いこなせている事が他の貴族に対してのステイタスであり自領民からの信頼にも繋がっている“精霊の加護を受けているとして”と考えたからである。


「それでは完成した時に連絡いたしますので、その際は契約の為にご主人となられる方、本人が必ず面会に来るように予定を調整しておいてください」


 僕がそう告げるとハイラスは「分かりました。ご連絡お待ち申しております」と丁寧なお辞儀をして子爵家王都邸へ馬車で帰って行った。


 それを見送った僕は「忙しくなるな」と呟いて工房に戻った。

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