第6話 ラスボスと契約



 そういうわけで私は、悪役令嬢にやり返す事にしたんだけど。


 学校の中庭を歩いていたら。上から水が降ってきた。

 ばしゃーんっ。


「うえっ、げほげほっ」


 悪だくみがおぼつかない。


 何か仕返しを考えても、顔や態度に出まくってしまらしい。


 だから、こうやって相手にやり返される。


 今、水をぶっかけられたところです。


 教室の扉に黒板けしを挟んで、頭に落とそうとしたり、バナナを置いてころばそうとしてみたけど、そのことごとくが無駄でした。



「まったく貴様は」


 そこに通りかかったラスボスが、ため息。


 周囲に人目がない事を確認して、不思議な力でぱぱっと温めてくれた。


「ありがとうございます」

「つくづく能天気な頭だな。貴様のそれは飾りか何かか?」


 そして、呆れた視線を向けられて、デコピンされてしまった。


「がんばってはいるんですけど、人を騙すのって苦手なんですよ」

「そういう顔をしている。見れば分かる」


 ひどい。


「しかし騙すのがますのが苦手か、(ボソボソ)では出会った頃に言ったあの言葉も? いやまさかな」


 はぁ、悪役令嬢が暗躍しているせいで、婚約者と話す機会がないし、誤解を解く事も出来ない。


 困った。


 攻略対象者達も、なんだか最近冷たい目で見てくるようになったし、このままだとバラ色の学園生活が灰色になってしまいそう。


 頭をかかえて、悩んでいると、非常に不本意そうな声が近くから聞こえてきた。


「仕方がないな。貴様の生き血をもらう。だからそれで俺と契約しろ。俺はお前に利用されてやる」


 見るに見かねて、手を差し伸べてくれたのだろう。

 かけられた言葉は、素直じゃないセリフ。


 このラスボスは人間不信なキャラだから、契約云々はきっと口実だ。そういう形が欲しいのだろう。


 ラスボスおよび、狼男さん達などの種族、魔族には特別な力がある。

 それは契約だ。人の血をもらう事によって、自分の力を上げるというものだ。


 血をあげた人間は、契約主になり、血を口にした人間は下僕となる。


 ラスボスを下僕、となると文字面がすごいがそんな大したものじゃない。


 本来、契約主は下僕に好きな事命令できるんだけど、ラスボスは力が強すぎるから言う通りにはならないのだ。(だから契約者が危機に陥った時に下僕を呼べば、どこにいても来てくれるらしいけど、きっと無視されるだけだろう)


「分かりました、じゃあはいどうぞ」

「おやつをあげるようなノリで指をさしだすな」


 いや血といっても、対したものではありませんので。


 そんないかしこまる必要もないかなと。


 ラスボスは、さすが攻略対象といった艶やかな顔で、指先にかぷりとかみついた。


 噛みつかれていたい、と思ったのは一瞬。


 指先の血が吸われてた。


 その姿には妙な色気がある、


 ちょっとくらっときてしまった。


「これで、契約は完了だ。さて、契約主最初の命令はなんだ?」

「悪役令嬢をこらしめてください」

「いいだろう。主の御心のままに」


 ひざまずいたラスボス。

 頭を垂れるラスボスを見てると、なぜか胸がどきどきしてしまう。


 きっと状況が特殊すぎるからだ。

 画面越しでも見てたけど、やぱり生の光景は威力が違うという事だ。


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