20. 美しい夕暮れ〜2人でディナーを
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アンドリューのエスコートで、隠れ家レストランでディナーを過ごす。1カ月以上かけてキルトを完成させたレベッカへのお礼だとわかっていても、本当のデートならもっと素晴らしいのに。レベッカの心臓の鼓動が早まる。
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外に出てみると、夏の夕暮れはまだ明るかった。だが、ナイトライフを楽しむニューヨーカーや観光客のために、あちこちにネオンや灯りがともり、街は華やかな印象に様変わりしていた。
今日はなにをして楽しもう。そんなカップルや友人たちがそぞろ歩いている。車を置きにもどってから、ふたりはタクシーに乗った。
「あの……、ほんとうにありがとう」
レベッカは着心地のよい、そして美しいドレスの生地に触れながら、アンドリューに心からお礼を言った。
楽しげな顔をして前方を見ていたアンドリューが、ふりむいた。
「いや、こっちこそほんとうに感謝している。母があんなに喜んでくれたし、ぼくとしても想像以上に素晴らしい作品を贈ることができて心から満足しているんだ」
「作品だなんて」
「いいや、あれは立派なアートだ。レベッカ、きみはもっと自信をもっていい」
アンドリューの手がレベッカの手にそっと重ねられた。はげますように、ぽんぽんと軽く叩いてくれた。
ここ1カ月の苦労まで見てくれていたような、そんなやさしいはげましを感じて、レベッカの胸が熱くなった。
やがてタクシーは静かな一角に停車した。落ち着いた印象の入り口に立つドアマンが、アンドリューの姿をみとめてすかさずドアをあけて出迎えてくれた。
アンドリューがディナーのために予約していたのは、看板の出ていないイタリアンレストランだった
「ようこそ、いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
軽くうなずくと、アンドリューはレベッカを先に通した。店内はシックで、高級感のある雰囲気だ。案内された席につくとレベッカは、渡されたメニューを見ながらそっと店内を見回してみた。客の中に映画のスクリーンや雑誌などで目にしたことのある有名人の顔をいくつか見つけた。照明はおとしてあるし、テーブルとテーブルのスペースもたっぷり広くとってある。きっとこれがセレブのための隠れ家的レストランというものなのだろう。
「この店は、かなり美味しいと思う」
「楽しみだわ」
レベッカは長々と書かれているメニューを読み取りながら、想像をふくらませていった。旬のアスパラと新鮮魚介のゼリー寄せ、夏野菜の冷製天使のパスタ、スカンピと夏野菜のグリル、スズキの「パートフィロ」ってなんだったかしら……。
「アペリティフはいかがでしょう」
ソムリエが近寄って来てたずねた。
「ええと……」
迷っているとアンドリューがさりげなく提案した。
「ミモザはどうかな?」
「え?」
「新鮮なオレンジとシャンパンのカクテルだ。夏の宵にはぴったりだと思う」
「ああ、いいわね。ぜひ、それを」
「ぼくはもう少し強いほうがいいな。よく冷えたキールを出してくれ」
「かしこまりました」
アンドリューの上等なキールとともに、あざやかな黄色のミモザが運ばれてきた。
「乾杯」アンドリューが軽くグラスをあげた。
レベッカもグラスをあげると、アンドリューがしっかりと視線をとらえてきた。
「きみへの感謝をこめて。ほんとうにありがとう」
レベッカはアンドリューの熱い視線をはずすことができなかった。彼を見つめたままカクテルをひとくち飲むと、はじけるシャンパンの泡とさわやかなオレンジの香りが、なめらかにのどを滑り落ちていった。
「美味しい……」目を丸くしておどろいたあと、もうひとくち飲んでみた。アルコールのせいだけでなく、アンドリューの心からのお礼の言葉に、レベッカの心は満たされた。
「よかった、喜んでくれて」アンドリューが言う。
「え?」
「今日の午後は、すっかり連れ回してしまった。だからきみが喜んでくれてうれしいよ」
「もちろんよ」思ったよりも大きな声でこたえてしまった。「あんなにお母様が喜んでくださって、作ったほうとしても、とてもうれしいもの」
「あんなにいい作品に仕上がって、お礼を言いたいのはぼくのほうさ」
まるでお礼の言い合いのようになって、ふたりは同時に笑ってしまった。
レベッカが時間をかけてメニューを読みとくと、アンドリューがオーダーしてくれた。
美味しいミモザのアルコールが少しまわって、レベッカは今日初めてくつろいだ気分になれた。口もとが自然にほころんでくる。お礼だというけれど、わたしにとってはデートのようなものかもしれないわ。
アンドリューの視線にもボートの上で見たときのような熱がこめられている気がして、レベッカの心臓の鼓動が早まった。
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