万能ロボット

 男の妻が死んだ。歳による免疫力の低下だった。しかし男は、お通夜や葬式の段取りで忙しく、悲しみに明け暮れる暇もなかった。そして男が妻の居ない生活を送る時、初めて悲しさや、辛さを覚えるのだった。


 男が生活を送る上で最も苦労するのが家事だった。男は家事と言うものを一切したことがなく、日々仕事か散歩の毎日だったのだ。故に機械類等は一切使えこなせず、半ば家は不潔となりつつあった。そこで男は、いつぞやかテレビで見た家事専用のロボットを買ってみることとした。最近はどこも『AI』や『自動化』と言われているからか、男のロボットの意識は過信の域に入っていた。男は噂で聞いた有名な博士の元に訪ねてみることとした。


 博士は快く男を迎え入れた。博士は話を聞き、丁度良いと言った様子で奥の物置部屋から何やら大きめな箱を取って男に渡した。両手で抱えてやっとという程の大きさで、男の体には少しきつい物があった。それを見た博士はまた後日渡しに行くと言い、男を一旦帰らせた。次の日の朝、男が玄関を開けると目の前に大きめの段ボールが置いてあった。不用心だと思いながら箱を開けると、小さな人型のロボットが入っていた。こんなに小さくて大丈夫かと思いながらも、恐らく電源である首のスイッチを入れた。その瞬間ブザーが鳴り初めた。けたたましい音に男が驚き、慌てている間にそのロボットのブザーは鳴り止み、パタッと倒れた。何かやらかしたと男は思い、そのロボットを博士の家に持っていった。博士は予想していたようにこう言った。

「いやあ説明不足でしたね、すいません。このロボットの代金は頂きませんのでご安心を」

男はまず自分だけの責任ではなかった事と、修理代等を請求されない事に安心し、胸を撫で下ろした。

「では、少し待ってください…これが、改良した物です。そして、あなたに説明をしておかなくては鳴りませんね」

博士は男にまたあれによくにたロボットを渡し、説明した。

「このロボットは正しい育ちかたををすれば万能なロボットになるんです。ですから、あなたが学習させ、知識を得る必要がある」

男は何の話か全くもって分からなかった。

「学ぶより慣れろですね、そろそろ起きますよ、今度は改良したんです」

今度はひとりでにロボットが起動し、赤子のような泣き声を男の腕の中で出した。

「ほら、泣き出しましたよ。今すぐミルクを飲ませてあげなくては」

博士は急かすように、そして煽るように男にそう言った。男は不満を露にし、博士に抗議した。

「こんな事していたら歳で私が死んでしまう!手っ取り早く万能なロボットは手に入らないのか!」

ロボットの泣き声がより一層強くなった。博士はロボットの頭を撫で、男にこう言った。

「万能な物を手に入れるには、時間が必要なんですよ。それ以外の方法が無いわけでは無いんですが…」

「それはなんだ!」

男が目を光らせ言う。ロボットの泣き声は聞こえなくなっていた。

「かなり高くなりますよ?このロボットの修理代も、必要ですからね」

博士は打ち込んだ電卓を男に見せた。

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