無情な兵士

 今、世界では戦争が起きていた。最初はS国という国と、N国という国が始めた戦いだった。しかし両国共に勢力が大きく、他国からの参戦も混じり、戦争は混乱を招いた。


 そしてついに、博士の住んでいる国も戦火に巻き込まれる事となった。しかし博士は研究所の地下室に籠り、戦争に一切関与せず研究を続けた。今日も暗い地下室で何やらいじっていると、研究所の戸が勢いよく開く音が聞こえた。博士は不審に思い、久しぶりに階段を上った。階段を上った先には、血まみれの兵士が床に倒れていた。白い床や壁が赤色に染まっている。博士はただ「面倒な事がまた起きそうだ」と心の中で呟き、兵士を奥の部屋で寝かせた。治療を終え、博士は兵士と会話を試みる事にした。


 兵士の男はここが博士の研究所だと知っている様子で、博士に願いがあってここに来たのだと言う。博士は予想通りな事でため息をついた。男の持つ銃が怖いため、博士は否応無く男の願いを聞いた。

「俺を、ロボットにしてくれ」

あまりにも突飛かつ下らない願いに心底呆れ、博士は男を追い出そうとした。男は土下座をしてまですがり、願った。

「お願いだ!俺が戦地に立っても、感情が邪魔して人一人殺せないんだ!」

博士は面倒臭くなり、泣きじゃくる男をなだめ、仕方なく実行することとした。


 博士は男を寝かせ、施術を行った。数時間後、男は一段と変わり研究所を出た。最後に会釈をしながら。そこを去った。博士はもう、地下室に下っていた。


 その後の男の活躍は目覚ましい物だった。数百人の頭を撃ち抜き、殺めた。そこに勿論感情なんて物は無く、ひたすら無情だった。しかし、そんな男の快進撃も終わりを迎えた。男は敵に背後から撃たれ、瀕死の重傷を負った。そこから男は、あろうことか這いつくばってまで再び博士の研究所に向かった。博士はあらかじめ待ち構えており、こうたずねた。

「どうしたんです?そんな顔して」

男の顔は恐怖でひきつっていた。男は半狂乱でこう叫ぶ。

「ふざけるな!何がロボットだ、感情が無いだ!どうして、今…死ぬのが怖いんだよ!」

男は涙を溢れるほど流した。まるで博士に訴えかけるような声だった。しかし博士はこう言った。

「いやいや、あなたにはただ催眠をかけただけです」

「…?どういう事だ」

「『お前はロボットだ。感情の無い無情な兵士だ』とね、あなたは単純なのですぐかかりましたよ」

男は笑いだした。泣きながら、血を垂らしながら笑った。最後に、助けを求めるように博士の足を掴み、息絶えた。博士は男の死体を蹴り飛ばし、こう言った。

「人は言葉一つで鬼にも、悪魔にもなるんです。そんな事をさせる戦争も、関与させる人間も、馬鹿馬鹿しい事この上ないですよ」

博士は地下室への階段を下っていった。


 

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