地下室の発明品

 博士の研究所は山奥にあった。そのためあまり多くの人に知れわたる事はなかったが、一人の目敏い強盗によってその場所は明らかとなった。


 そしてその日の晩。木々も寝静まり、風だけが音をたてる中、動く物陰があった。彼はその目敏い強盗で、博士の発明品を盗みに来たのだ。まず窓から様子を伺う。明かりはついているが、誰一人居ない。「しめた」。彼はそう思い、早速窓の鍵を音も無く壊す。彼が強盗を長年して身につけた技だ。窓を開け、中に入る。そこは正に研究所と言った感じで、壁は白く、消毒液や薬品の臭いがした。金目になりそうな物を物色していると、奥の部屋から博士の助手が姿を現した。助手は彼を見て瞬時に強盗と察し、大きな叫び声をあげた。

「おい、黙れ。騒ぐと殺すぞ」

強盗は助手の喉元にナイフを当て、小声になって話した。

「な…何が目当てですか…」

「博士の発明品だよ。あるんだろ?」

助手は大げさな仕草で頭を抱えこう言った。

「は、博士が発明品を作っている時はあそこの地下室に籠っているんです。だから僕も博士が発明品を作っているのか分からないんです…。あ、でも…役に立たない発明品って言ってましたから、きっと盗んでも良いことは…」

「へへ、そんな見え透いた嘘をついてもダメだ。あのドアだな」

強盗は助手をきつく縛った後、そのドアに向かい、博士が居るかどうかを確認した。

「おい、博士。お前の助手は拘束した。それにドアの前には俺がナイフを持って待ってるぜ、早めに発明品を渡しな」

するとドア越しにこもった声で博士が答えた。

「な、何だって、そんな!頼むから入ってこないでくれ!この発明品は大切な物なんだ」

「やっぱり嘘か…。じゃあ入らせてもらうぜ」

強盗は乱雑で、ドアがもう一回閉まるほど力強く開け、階段を下った。下れば下るほど部屋は暗くなり、同時に強盗の期待も高まっていった。そして地下室につくと強盗は懐中電灯を着け、部屋を見渡した。しかし、そこには何も無く、ただカセットテープが置いてあった。

「な、何だって、そんな!…」

男は茫然とし、ふと正気に戻って、地下室のドアを開けようとした。しかしドアは開かなかった。強盗がドアを叩いていると、ドア越しから博士はこう言った。

「どうだね、私の発明した、内側からは絶対に開けられないドアは。後でアトラクションやお化け屋敷に売り込もうと思ったが、今はお前を警察に届け出すのが先のようだ」


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