博士の発明品

はんぺん

博士の発明

 とある研究所の一室で、博士は声高らかにこう言った。

「やったぞ!ついに、ついに完成だ!」

その声を聞きつけた助手は忙しなく、部屋の戸を開けた。

「なんです博士!今度は一体何を発明したんですか…」

博士の発明品は毎度ろくな物ではなく、助手はいつもその発明品に引っ張り回されているのだった。

「ふふ、これを見たまえ」

博士が怪しげな笑みを浮かべて助手に見せたのは、博士よりもずっと大きな培養槽だった。その中でプカプカと生物が漂っている。

「これは…長鼻類ですか。ナウマンゾウですかね?」

「正解だ。さすが私の助手だな」

そう言われて、助手は満更でもなかったが、助手はとあることに気付いた。

「しかし博士、ナウマンゾウはとっくの前に絶滅してますよ。見たところ本物の様ですが…」

助手の声にだんだん不安の意志が募っている事が分かった。

「それも正解だ。ナウマンゾウが氷漬けにされているのを見つけてね、まだ細胞が残っていたからナウマンゾウを復活させる事に成功したんだ」

助手の顔は完全に青ざめていた。

「何してるんです!人工の生物をつくる事は法律で禁止されてるんですよ!」

博士はそれも分かっている様で、助手の言い分を軽くあしらった。

「…実はナウマンゾウだけじゃない。これを見てくれ」

博士が近くのスイッチを押すと、奥から培養槽が次々と姿を現した。それは全て太古の昔に滅びた恐竜だった。助手は声も出ず、ただ茫然とそこに突っ立っていた。

「…今から、これを世に放つ。世界は大混乱だろうな。恐竜がタイムスリップしたかと思うだろう」

乾いた笑いと共に博士はそう話した。助手はハッとし、博士を問いただした。

「い…今なんと言いましたか?冗談でしょう?博士…」

その言葉は自身に暗示をかけているようにも感じた。

「残念だが冗談じゃない。今からこのスイッチを押す。人類が滅ぶスイッチだ」

助手は理由を聞こうとした。しかしその質問は博士の範疇内だった。

「この世界は、人類が支配している。人類と言うものには知性と言うものがあったからだ。だからこそ人類は発展出来た」

博士は培養槽の中にいる生物達を眺めながら、話していた。

「しかし、人類たちはいつの日か考える事をしなくなった。一部の知識人に支配される事にしたのだ。その知識人には私たちも入っているのだがね…。そんな考える事をしなくなった人々は、常に楽を求めた。そうした方がさらに考える事をしなくて良いからだ。…その楽をつくるの事の苦労も知らずにね」

助手は我慢できなくなり、博士に反論した。

「いい加減にしてください!そんなの、博士個人の不満じゃないですか!そんなので人類を滅ぼして良いわけが…」

「良いじゃないか」

博士は助手の話に割り込みこう言った。

「我々も多くの生物を滅ぼして来ただろう?」

「…屁理屈だ」

博士は笑った。

「確かに、屁理屈かもしれないな。それでも、もう手遅れだ」

博士はその瞬間にスイッチを思い切り押した。助手が止める暇もなく。瞬時に。


 その後、世界には恐竜が溢れ、人類は文明崩壊の危機に陥り、数年が経つともう人類はこの地球に居なくなっていた。建築物は時の流れと共に崩れ去り、恐竜が地球を埋め尽くした。そしてその後、地球に氷河期がきた。恐竜はおろか、他の生物も全て絶滅した。そんな状況の中、小さな微生物が誕生した。それはあまりにも小さく、か弱い生物だったが、それは強く、強く進化した。


 とある研究所の一室で、博士は声高らかにこう言った。

「やったぞ!ついに、ついに完成だ!…


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る