クラス会

 中学三年生のとき、クラスにいじめられている女の子がいた。

 背は低く、髪が長かったのをおぼえている。

 性格が暗いうえに、声が常に小さく、とても聞き取りづらかった。


 授業中、教師に当てられても、立っているばかりで答えた試しがなかった。

 その様子に怒り出す教師もいた。



 彼女を表立っていじめていたのは、数人の男子生徒だった。

 他人とのコミュニケーションがうまく取れない彼女のために、授業や行事に支障が出ることがたびたびあり、最初はそれを理由に彼女は吊るし上げられていた。


 やがて状況はエスカレートしていき、取り立てた理由がない日も、彼女はいじめられるようになった。


 私を含めて、いじめていない生徒は、「またやっているな」と、傍観することがほとんどだった。

 また、女子には女子の世界があり、そこでも彼女は嫌な目にあっていただろう。



 彼女と私が直接かかわることは少なかったが、掃除の時間などで、彼女が困っているのに気がつけば、助けることもあった。

 それは、ほかの同級生も同じであった。

 一部の者が彼女に悪意を持ち、その他の者は、基本的に無関心だった。



 彼女がいじめられている時に、注意をする者はたまにいた。

 それが、正義感によるだったのか?

 彼女に何かあったとき、自分へりかかるのを恐れたためか?

 理由は、人それぞれであっただろう。



 いじめは卒業まで続いたが、卒業式の日に配られた文集の内容を巡って、一騒動が起きた。

 文集の彼女のページを見ると、自分をいじめていた主犯への恨みごとが、つらねてあった。

 彼女の字は小さく弱々しかったうえに、文章もつたなかったが、それでも、だからこそ、彼女の抱いている憎しみがよく伝わった。


 名指しされた男子生徒は怒り狂って、席に坐っている彼女を責め立てたが、彼女は一切動じなかった。



 私が故郷を離れて暮らしていた、ある日のこと。

 地元でそのまま就職した幼馴染おさななじみから、久しぶりに電話があった。

「よかった。おまえは無事だったんだな」

 意味が分からなかったので、「何が?」と、私はたずねた。


「いや、三年一組のクラス会の話だよ。おまえ、三年一組だっただろう?」

「クラス会があったの? そもそも連絡が来てないよ。……そうか、僕は実家と縁が切れているから、連絡ができなかったんだ。ところで、何があったの?」

「何があったじゃないよ。ニュースを見ていないのか? きのう、クラス会の送迎バスが転落して、何人か死んだらしいぜ。生き残った奴らも、みんなひどい状態らしい」


 忙しくてニュースを確認する暇がなかったので、事故の件は知らなかった。

 言葉の出ない私に、「まあ、おまえが無事でよかった」と言うと、幼馴染は電話を切った。



 一か月後、幼馴染からまた電話があった。

 幼馴染が彼女の名前を出して、おぼえているかと聞いてきた。


「ああ、おぼえているよ。ひどくいじめられていたからね」

「いま、地元は彼女の話で持ち切りだよ」

「どうして?」

「そりゃあ、バスが転落した前日に、自殺されていたら、話題にもなるさ。ずっと引きこもっていたらしいけど……」


 幼馴染が、死んだ同級生たちの名前を告げた。

 彼女をよくいじめていた連中だった。

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