化け物

 大学が夏休みに入ったので、高速バスを使い、生家へ戻った。


 数日たったある日の夜、近所の書店に入ると、幼なじみのKの姿が見えた。



 同じ小・中学校に通っていたが、Kはかなりの問題児であった。


 たとえば、Kのせいで不登校になった同級生が、知る限りで二人もいる。

 中学三年になると、Kは学校に来なくなったので、その後の消息は聞いていない。



 Kが雑誌を読んでいるうちに立ち去ろうと、私は書店の外へ急いだ。

 しかし、残念ながら、気がついたKに呼び止められてしまい、すぐとなりのお好み焼き屋に誘われた。



 酒が入るとKは、彼の中では武勇伝になるらしいが、一般的には顔をしかめるたぐいの話を始めた。


 Kは子供の頃から成長していなかった。

 いや、ますますひどくなっていた。

 話の端々はしばしから察するに、何かしらの犯罪行為にも、手を染めているようであった。



「おまえ、Mと同じ高校だったな?」

 杯が進み、そろそろ帰ろうという話になったとき、Kが大声で確認してきた。

 問いかけに私は、背が低く、気弱で不器用なところのあった、Mの顔を思い出した。


「Mがどうしたのさ?」

「バイト先が同じだったんだよ」

「それで?」

「あいつ、バイト先のビルから飛び降りて死んじまった。死体を見たけど、ぐっちゃぐちゃ。顔が化け物みたいになってた」


 笑いながら顛末てんまつを話すKに、私は言葉がなかった。

「全然使えないから、バイトリーダーの俺がいろいろと教えてやってたのによ。おまえのせいじゃないかって、いろいろ疑われて迷惑だったよ」



 Mに関する話が終わると、私たちはお好み焼き屋を出た。

 Kのおごりであった。


「家に来いよ」

 帰ろうとする私をKが呼び止めた。


 微笑を浮かべながら、Kが小声でささやいた。

「実はさ、最近、家に出るんだよ。おもしろいぜ」

「何が?」

「お化けだよ。顔がぐっちゃぐちゃの化け物が。あれはたぶん、Mだな」

 私は、Kの顔を見つめながら、息を飲んだ。

「怖く、ないの?」

「全然。だって、Mだぜ。それに、俺、悪くないし」

「きみだけに見えるの?」

「みんな見てるぜ。最初は、ばあちゃんで、最後は俺。慣れれば何でもないよ」



 Kの話に、私は生返事しかできなかった。

「いいから見に来いよ。話の種になるって」

 少し焦点の合わない目で、Kが誘った。

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