面接官・春川すばる(春川すばる視点)

 春川すばるです。私、じゃなかった。俺にはある目的がある。

 それは、男どもの入学を阻止すること。全ては、あのお方のために!


 片高が共学化すると聞いたときは、正直驚いた。俺だけじゃない。

 片中生はみんな驚いた。あのお方も例外ではなかった。

 伝説の首席プリンシパル・希様を超えようかというときだけに、尚更。


 だから、面接官になった。面接官には特権がある。

 片中を出て、試験会場に行けるという特権!

 この特権を濫用して、合格者を女子だけにする!


 そうすればきっと、あのお方が伝説となることだろう。

 そのときにはわた、ううん、俺があのお方の横に立つ!

 伴侶として、あのお方と共に過ごす!




 試験会場にいる男子どもは、不細工ばかりだけど、例外もあった。

 美少女がいた。男のくせに美少女だなんて、まるであのお方の真逆。

 見かけたときには、言葉をかけずにはいられなかった。


「驚いた! 君は男なのかい?」

「あぁ、そうだとも! 俺は男だ。美少女じゃないぜ」

 お、割とまともに男男している。そこはあのお方と同じ。


「俺、すばるっていうんだ。よろしく!」

「俺は純。よろしく」

 解せない。何故に純は美少女なんだろう。


「折角、男に生まれたのに、どうして女の格好をしているんだい?」

「……俺は、呪われているんだ……髪を切ると不幸になる」

 か、かわいそうに……。呪いじゃあしかたがない。


 そういえば、あのお方にも呪われた兄がいる。

 どんな呪いなのかは分からないが……。

 呪われた人に出くわすなんて、俺も相当きつい人生を歩んでいるな。


 ……そんなこと、片中に入学したときから分かりきっていること!


「ふむふむ。そんな呪い、本当にあるのかい?」

「母さんが言うんだ。本当だろう」

 母さん? その言い方、あのお方にそっくり。


「へぇ。君ってマザコンなの?」

「ち、違うから。片親だから大切にしているってだけだから」

 片親だったとは。境遇はあのお方にそっくり。これでマザコン確定!


「なるほど。真性のマザコンってわけだ」


 と、言い放つ。あのお方には言えないからね。

 純がキーキーと叫ぶ。あのお方もマザコンって言ったらこうなるんだろうか。

 見たいようで、見たくない。あのお方が感情を露にするところなんて。




 しばらくして、純が人探しをしているのが分かった。

 だから手伝おうかと思ったけど、できなかった。

 デバイスに呼び出されたから。面接官をしなくちゃいけない。


「いっけねぇ。もう直ぐ面接の時間だ」

「……そうか。なら、しかたない」

 本当に、ごめん。


「友情を育むのはあとだ。純、絶対に合格しろよ」

「もちのろん! すばる、お前も頑張れよ」

 と別れのあいさつを交わした。もちのろんは、あのお方の言い方とそっくり。




 面接試験がはじまった。最初の子は……とんでもないやつだった。


「早速ですが、氏名をお願いします」

「は、はい。純。志望動機はカノジョづくりです!」

 まさかの純。待合室にいた男で美少女。志望動機も独特だ。


 俺は1発で気に入った。だから公式ライバルに認定してあげた。

 俺には、プリンシパルを一緒に狙ってくれる仲間が必要なんだ。

 純がそんな仲間になってくれたらうれしい。


 うれしいけど、俺の目的は男子全員を不合格にすること。

 俺は、どうしたらいい?


 ところが、純は乗り気じゃないみたいだ。

 俺はコツコツとプリンシパルの素晴らしさを純に訴えた。

 ついでに、俺と伝説のプリンシパル・希様との共通点を挙げた。


「冗談きついぜ、春川すばる!」

「な、なに。なぜ俺のフルネームを知っている?」


「待合室で名乗ったろ! それからもう、嘘をつくのはお終いにしろ」

 あっ、そうだった。俺、自ら名乗っていた。

 つい、動揺してしまった。


「こ、この俺が、嘘をついているだって?」

 何のことだ? 心当たりがまるでない。


「あぁ、そうだよ。だってお前、女だろう!」

「なっ! 何故分かったんだ? 俺が女だって……」

 変装はカンペキのはず! どこからどう見ても、今、俺は男だ!


「片久里学園中等部は女子校だからな! 春川すばる」

 はい、春川すばるです。


「俺のカノジョにならないか?」

 はい、なります! と、心の中で思った。

 だけど、口に出すことはできない。


 そんなことしたら、あのお方に合わす顔がない。

 ミイラ取りがミイラになっただなんて……。


 兎に角、俺には純の願書に合格のハンコを押すことしかできなかった。

________________________

 春川すばる、なにをしに来たんでしょうね。


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 これからも応援よろしくお願いいたします。

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