非常な手段(真壁ひかる視点)

 真壁ひかるです。面接です。がんばります!

 と、言いたいところですが、面接官の様子が変!

 やる気がないというか、無気力ではなしが進まない。


 こんなんでは、僕の合格が危うい。

 なんとかしないといけない。




「あー。早速ですが、氏名をお願いしますね、真壁ひかるさん」

 雑だなぁ。資料見て僕の名前を先に言っちゃうし。

 もはや、名乗る必要もないだろうに。


「はい。真壁ひかると申します。よろしくお願いします」

「うんうん。いい名前だね!」

 なんてご機嫌なんだろう……。


「ありがとうございます!」

 面接だし、褒められたらお礼くらいしておかないと。


 けど、名前を褒められたのははじめてだ。

 大抵は、男か女か分かり辛いって言われてしまう。

 それは、見た目のせいだと思うけど……。


「俺さー。ぶっちゃけ、男は嫌いなんだよねーっ」

 ぶっちゃけられた。面接官に、ぶっちゃけられた。僕の立場は……。

 何ともふざけた面接だなぁ。だったら、僕もぶっちゃけちゃおう。


「たしかに、ほとんどの男は野蛮で、嫌いです!」

「うんうん。そうそう!」


「ですが、僕には好きな男の子がいます!」

「えっ? お、男? 男の子が好きなの? 意外……」

 大きな誤解だ! 男なら誰でもいいというわけじゃない!


「違います。好きな男の子がいるんです! だからここに来ました」

「あー。志望動機ね……」

 面接官が願書に目を通す。そこには僕の志望動機が書かれている。


 目の前で読まれると、なんだか気恥ずかしい。

 だけど、僕のことを知ってもらうには、手っ取り早い。


 面接官が僕の志望動機を読み終えたみたい……。

 その目には、うっすらと涙が浮かんでいる。

 同情されているんだということが、ありありと伝わってくる。


「な、難儀やなぁ。ひかるくん、君、好きな人にふられたんだ……」

「はい。その人は、僕のこと勘違いしていて。思いっきりふられました」


「君のような美形のイケメンだったら、そこそこモテるんじゃないの?」

「ええ。モテますよ。そこそこどころか、かなりのモテモテです!」


 ただし、相手は美少女に限るんだけどね。しかも女の子の……。

 男の子の美少女には相手にされない。

 それが僕の悩みであり、その解決こそが志望動機だ。


「なるほど。で、その男の気を引くためにここへ来たんだね。分かるよ!」

「はい。首席になって、願いを叶えてたいと思っています!」


 願いが叶うのは首席だけって、秋山の母さんが言ってた。

 だったら、僕は首席になる! たとえどんなに困難であっても!


「いぃなぁ、アオハルだね。それに比べて、俺なんか……」

 ……と、こんな感じだ。




 どうやら面接官は恋の病を患っているようだ。かなり際どい恋模様。

 2股でそのうち1人は同性、もう1人はおそらく秋山で間違いない。

 こんなんじゃ、面接にならない。僕の合格が危うい。しかたない、荒療治だ!


「面接官さん、女子ですよね。どうして女子が好きなんですか?」

 逆質問なんて、失礼だけど致し方ない。


「ど、どど、どうして俺が女だって分かったんだ? エスパーか?」

「普通に巨乳じゃないですか。うらやましいくらいの!」

 身体的な格差ばかりは、なんともならない。


「な、なな、なんで君がうらやましがるの? 女の子か?」

「はい。女の子ですよ、こう見えて。驚きましたか?」

 っていうか、願書に女子だって書いたじゃないか! 怒るで、しかし!


「お、おお、驚きはしないさ。でも、お、おお、女の子だったんだ……」

「はい、はい。そういうの、パワハラじゃないですか?」


 失礼、極まりない。たしかに僕の胸はぺっちゃんこだよ……。

 だけど、これくらい派手に言わないと、恋の病は治らない。

 だからあえて、パワハラという言葉を使ったんだ。


「も、もも、申し訳ございません……」

「いいですよ。それよりも、恋の病を治さないと!」

 僕の合格が危うい。


「こ、ここ、恋だって? このわ……この俺が、恋だって? 誰に?」

「僕よりも先に面接した相手じゃないですか?」


 その相手というのが秋山なのは明白。

 美少女な男の子なんて、他にはいない!

 面接官と僕は恋敵でもあるってわけだ。


「こ、ここ、こここここ、こ……」

 こりゃダメだ……。僕の荒療治に対して、面接官は動揺しっぱなし。

 荒療治が過ぎたか。やり方を変えるしかない。


 


「面接官さん、僕のルームメイトになりませんか?」

「ル、ルームメイト? どうして?」

 よし、乗ってきた!


「簡単。その男の事を僕は誰よりも知っているからね」

「その男? 純様のこと!」

 ビンゴ! それにしても様付けするとは……相当な入れ込み様だ。


「やっぱり純のことだね。僕と純は幼馴染で大親友だよ!」

 それが僕の悩みなんだけどね。そこから先の関係になれない。

 片高で首席になれば別。だから僕は非常な手段を取ることも厭わない。


「わ、分かった。俺、君とルームメイトになるよ!」

 こうして、僕は合格を手にした。

________________________

 真壁ひかる、合格しました。


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 これからも応援よろしくお願いいたします。

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