最終話 告解

 すべての始まりは、エドモンの契約だった。

 兄を妬み、王位を望み、甥を疎んじた彼の罪。


 罰として贖ったのは、セレスタンとユルシュル。


 そして、死後、エドモンの魂は邪神の手に堕ちた。


 永遠の責め苦に悲鳴を上げるべく、邪神の神殿で鎖に繋がれている。


「ああ……なんと醜い悲鳴だろう……甥と娘は、このうえなく甘美であったのに」


 エドモンは懺悔の叫びを幾度も放ち、許しを乞うが、そんなものが通るのならば、あの二人の生涯が、あれほど惨たらしかったわけはない。


「己が罪に塗れた気分はどうだ? エドモンよ。おまえの魂が疲弊して、摩滅して、粉々に消えるまで、責め苦は消えぬ。邪道に堕ちる人間を主神は許そうとするが、それを叶えぬよう生まれたのが我だ。死する前に悔い改め、自ら贖えたなら、我が名を教えてやったものを」


 哀れみつつ、邪神は嘲る。

 契約者が願ったものが主神の意に背かぬ場合、その死に際に邪神は名を教える。ユルシュルのように魂を解放してやるために。けれど、罪を纏ったまま死した契約者は、このエドモンと運命を同じくする。

 誘惑に溺れ、欲望のままに他者を蹂躙し、邪神の力に縋った。


 地獄と呼ばれる場所は、この邪神の神殿にあるのだ。

 ここに置かれた以上、どれほど反省しようとも、もう遅い。

 苦しみ抜いて、消滅する。


 邪神は、数少ない、名を教えた者たちを思い出した。

 自らを擲ってでも誰かを、大勢を救われるよう願った魂の持ち主、『聖なる光』を。


 それは心に青薔薇を咲かせる者。

 この世に自然には咲かない花を、ばう者。


 クーランシュティムの青薔薇は、主神の楽園に逝けただろうか。


 それは、誰にも、わからない。

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クーランシュティムの青い薔薇 汐凪 霖 (しおなぎ ながめ) @Akiko-Albinoni

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