第5話 苦患

 『青薔薇公』

 『聖なる光』


 国が永久とこしえに平安と繁栄であるように、『カミ』なるモノに血と辛苦を捧げさせられている、尊い人柱。滑稽にも美辞麗句で飾り立てられた、不遇の貴人。


 セレスタン。


 前王の、長子。

 世が世ならば世継ぎの王子。

 漆黒の髪と黄金の瞳をした、美しい少年。


 ──なんとむごいこと。


 彼は拷問を受けることだけのために生かされている。

 先王せんのうが倒れてから、ずっと。

 地下に隠され、厭われ、誰からも忘れられて。


 ──なんてひどいこと。


 何も知らずに安穏と暮らしてきた、この身も疎ましい。


 傷だらけの彼に抱いてきた同情ですらも恥ずべきものに思えた。


 ──彼を犠牲に、なにを得ようというのか。


 王族であるから奉仕せよと言うのなら、この身との、これほどの差はどうして許されるのか。


「聞き分けよ、ユルシュル。そなたは次代を継ぐ王女。王冠を戴く者だ。セレスタンのことは忘れよ」


 ──そんなことは無理。

 彼を愛しているの。

 真心のすべてで。


 愛する者が苦しめられていて、目を逸らすなど出来ない。


 であるならば。


 手段を。


 策を。


 探すのみ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る