第25話 愚裏木村③
「折角お兄ちゃんの為にお弁当作ってきたのに……」
梨花の強い希望で席替えを行った車内は、二列目に晴明と梨花、三列目に
根がまじめな満は最初頑なに助手席から動こうとしなかったが、中澤の「折角なんだ、後ろで楽しんで来い。それに一人で運転する方が気が楽だ」
との説得に折れようやく後ろの席に移った。
麗美への精気受け渡しも取り合えず大丈夫だろうと言う事になり、現在の席順に落ち着いたのだった。
「ま、まあアレだ。今食うのは勿体ないだろ? 前回行ったとき
そうだ、
「ふぁっ、ふぁい? んぐ……ちょ、ちょっと待ってください、今資料を出しますから」
「焦らなくて良いぞ!」
晴明はあからさまに話題を変えるべく、先ほど道の駅で購入した饅頭を頬張っていた満に話を振る、満には焦らなくて良いなどと言ったが晴明自身は内心かなり焦っていた。
何とか弁当の話から遠ざけないと。
梨花には悪いがアノ弁当を皆に食わすのはヤバい、最悪俺だけなら覚悟を決めれば何とかならなくもないが、麗美や芦屋は耐えられんだろう。
ましてや先生にまで何かあったら、帰るに帰れなくなるしな。
しかし梨花のやつ、どうすりゃ普通の食材から
そう、梨花が食事を作ると見た目は普通なのに、何故か兵器クラスに不味い物が出来上がってしまうのだ。
しかも、たまたま両親が不在で梨花が晴明のためにと作った時に限って、なのだ。
口ぶりから今回も間違いなく晴明の為に作ってきている、つまり出来上がったのは食い物では無く残念ながら兵器の方だろう。
もちろん家族にもその事は話して梨花が一人で台所に立つ事を禁止して貰ってはいるが、どうやら今朝は母親より早起きして弁当を作ってしまったらしい。
大体梨花も味見位してるだろうに、なんでなんとも思わないんだよ。
味覚は俺と大して変わらない筈なんだがな~
「えーと、愚裏木村についての資料をわかる範囲でまとめてきました。
今の内に情報共有しておきましょう」
晴明がおれこれ思い悩んでいると、他の女性陣と比べても何やらやたら大荷物の芦屋は、カバンから取り出したタブレットを操作しながら話し始めた。
因みに中澤含め他のメンバーには、梨花の手料理が壊滅的に不味いと言う事はこっそり伝えてある。
それも有ってか、満は晴明のかなり強引な話題転換にも乗ってくれたのだろう。
「まず分かりやすい所ですと、何十年も前にすでに廃村になっている筈が最近人が居るのを見たという話しが有ります。
ですが駅が有って電車も走っているので、廃村になったと言う話し自体怪しいですね」
「次に肝試しで村に行った若者たちが、恐ろしい怪物に襲われ行方不明に。
と言うものですが、そもそも行方不明なのに恐ろしい怪物? に襲われたと誰が証言したのでしょうか?」
「最後に周辺市町村では年に何人も行方不明者が出ている。
との事ですが日本での年間行方不明者は8万人以上と言われています、言い方は悪いですが周辺市町村を合わせれば、年に何人か位行方不明になっていてもおかしくは無い気がします」
芦屋はそこまで一気に説明すると「所詮ただのネットミーム、つまらない噂話に過ぎません」と最後に付け加えた。
「ネットみー……何だって?」
いまいちそっち方面に疎い晴明は、聞き慣れない単語を誰とは無しに聞き返すと答えは意外な所から帰ってきた。
「インターネットネット・ミーム、ネットで広がった噂話って所ね」
「……麗美詳しいんだな、意外だよ」
「一応オカ研部員だものそれ位の事知っているわ。それに意外と馬鹿にできない情報源だったりするものよ」
と、少し得意げな顔をしてにそんなこと言う麗美。
情報源ね~吸血鬼関連のネットミームとやらも有ったりするのかね?
「って言うか、オカ研部長がそれを言ったらダメだろ」
オカ研の部長がオカルト話を真っ向から否定する様な発言はどうかと思い、つい大きな声を上げてしまう晴明だったが、満のどこか悟っている様な顔をみて声をすぼめる。
「今まで行った曰く付きと言われる場所も全て空振りでした、今回もきっとそうに違いない無いでしょう」
ここで一呼吸置いたと思うと、満はバサリとローブを翻し(隣の麗美は首を傾け顔に当たりそうになるローブを避けていた)いつもの決め顔になると言葉を続ける。
「しかし! そう言った嘘を暴き真実を明るみに出すのも、我らオカルト文学研究部の使命なのだよ晴明隊員! あ、いえ、えっと……晴明……さん」
いや呼び方は何でも良いんだが、照れる位なら変な事言わなきゃ良いのに。
「と、取り合えず以上が愚裏木村についての情報です、一応皆さんのスマホにも資料を送っておきますね」
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