第22話 ドレイン 後編
「ここ最近、
「……いえ」
そう。学校の行き帰り、教室、オカ研での部活と平日の殆どを麗美と一緒に過ごしている
「最近の麗美は精気に満ち溢れている様に見えていたわ、きっと晴明君や他のお友達と一緒だったからね。
でもね、どんなに平気そうに見えてもやっぱり
精気は日々消費され、ゆっくりとでも確実に枯渇して行く……」
「俺は知っていたのに……俺がもう少し気を付けていれば……」
晴明の言葉にカーミラが首を振る。
「これは晴明君だけの責任じゃ無いわ。むしろ家族で有る私がもっと気を付けなければならなかった事。だから自分を責めちゃダメよ」
「でも、どうしてそんな急に精気を失ったんですか?」
今まであんな状態になった麗美を晴明は見た事が無い、一体何が原因であれ程までに衰弱してしまったのか……
「麗美が何故人との関わりを避けていたか分かる? 吸血鬼だから、人とは違うから。確かにそう言った理由も有るけど、一番の理由は無意識に
余り表を出歩か無いのも人との接触を避ける為、人混みで精気吸収しない様にするのはとても気を使うのよ?」
ここまでカーミラの話しを聞いて、晴明には一つの疑問が浮かぶ。
「じゃあ、何故俺に麗美を連れ出せと言ったんですか!?」
分かっていてあえて人の多い所に出向かわせる等、自殺行為に他ならないのでは?
晴明の疑問はもっともなのだが……
「それは私の見込みが甘かったのね。まさか二人の仲が、まだ手も繋げない程距離が有るとは思わなかったのよ……」
「へっ?」
「何ならもうチュー位してる物だと……あ、それ以上は高校を卒業してからよ?」
今日までの事を思い返してみるが、そんな風に思われる心当たりは一切無い。
「いやチョット待って下さい! なんでそんな風に思ったんですか!?」
「麗美ちゃんったら、家では晴明君の話しばかりしているのよ? その上デートにも応じたのだから、てっきり貴方を
「いやいやいや、少なくとも俺の前で麗美がデレた事なんか一度も有りませんよ? それどころか、当たりが強すぎて毎度心を折られないようにするのに必死な位です」
未だに名前ですら呼び合えない、言ってしまえば二人の仲は一切進展していない、晴明はずっとそう思っていた。
「あの子照れ屋だから〜」
あのツンっぷりは最早そう言う次元では無い気もするが、取り敢えずそれは置いておく。
「でも、精気を吸われるのがあんなにしんどいとは思いませんでした」
「それは、麗美ちゃんが気を失う程の精気枯渇状態で、無意識下で際限無くしかも一気に持っていかれたから……ね。普段から少しづつならそれ程の負担にはならないのよ?」
✳︎
「さあ晴明君、ブチューっと行っちゃって」
これは……ママの声……
まだ目を開く事は出来ない、思った以上に減っていたのね……
誰かが手を握ってくれているのは分かる、そこから精気が流れ込んで来るのも……
「本人の意識が無いのに、それは流石にマズイんじゃ……」
気を失った私を背負って走るあいつ……
何となく覚えてる……
「平気平気! これは人工呼吸みたいなものだからノーカンよ!」
二人で何の話しをしてるんだろ……
「いやでも心の準備が……それにカーミラさんが見てる前で、その……キスとか……」
キス……キス! キスってあのキス!?
口付けとか接吻とかの!?
ヤバイ、身の危険を感じる。早く目を開けないと!
「もう、まどろっこしいわね。えいっ!」
「カーミラさん何を……うわっ!」
麗美の唇に柔らかな物が触れる。
決して手や指では無い、もっと柔らかく温かい物。
そしてそこから手を繋ぐのとは比べ物にならない程の、良質な精気が流れ込んできた。
ああ……サヨナラ私のファーストキス……
時間にすればほんの数秒、でも初めてのキスは長く永遠に感じた。
しかしそれも終わりを迎える。
唇に触れていた物は離れて行き精気の流入も止まる。
精気を充分に取り込み、やっと身体の自由が戻った麗美は恐る恐る目を開ける。
そして目の前に有ったのは……
「おはよう麗美ちゃん」
笑顔をたたえたカーミラの姿で有った。
✳︎
「しかしあの時は焦ったぜ、カーミラさん大胆なんだな」
「忘れなさい。それに、あれはあくまで精気を効率よく受け渡す為であって、それ以上の意図は無いわ。大体親子の時点でノーカンよ、分かった?」
「まあそりゃ分かっちゃ居るが、余りにも強烈な光景だったんで忘れるのは難しいな。美人同士のキス……危なく新しい何かに目覚めそうになったぜ」
「そう、じゃあ仕方が無いわね。頭ごと記憶を消すしか……」
「その手付き止めて! 頭無くなったら死んじゃうから!」
「全く……冗談よ。そんの事より、ちゃんと歩くスピード合わせなさい。早くても遅くてもダメ」
「そのつもりなんだが、これ結構難しいな。歩幅の違いか気を抜くとつい前に出ちまう」
「それは貴方が無駄に大きいからよ。それとも何? 私の脚が短いとでも?」
「んな事言ってねーだろ? むしろお前さんの脚は長いよ。モデル体型ってやつか?」
「な、何よ。そんなおだてたって何も出て来ないわよ?」
「俺はお世辞を言える程器用でも無いし、嘘をつける程頭も良くないよ。だから見たまんま、本当の事しか言えん」
「そ、そう……」
「おう……」
「あーもう! 貴方のせいで変な空気になったじゃない!」
「別にそんなつもりじゃ……って顔赤いぞ、大丈夫か? 熱でも有るんじゃ無いだろうな?」
「うっさい平気よ! ほら見なさい、貴方がトロトロやってるから私達が最後じゃない」
「トロトロしてたつもりは無いんだがな〜」
「おはよう御座います。晴明さん、
「お兄ちゃん遅かった……エ? ナニ,ドウイウコト?」
「やっと揃ったか。しかし安部、浦戸。朝っぱらから随分見せ付けてくれるじゃ無いか。一応私も教師だからな、不純異性交遊は目の届かない所でやれよ?」
「先生何言ってるんですか!」
「これはそんなんじゃ無いです!」
フィールドワークリベンジ当日。
待ち合わせ場所に現れた晴明と麗美は、仲睦まじく横に並び小指と小指だけで小さく、しかしシッカリと繋ぎ合わせてやって来たのだ。
もちろんこれは、人混みのせいでまた麗美が倒れない為の精気供給手段なのだが、そんな真意は事情を知らない者に分かるはずもなく、側から見れば初々しいカップルにしか見えないのだ。
「まあ良い、ほらお前らさっさと乗り込め。出発するぞ」
「「「「はーい」」」」
「じゃあ行くか、
「そうね、
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