第20話 デート 後編
「いや、あのほらアレだ。好きな作品を観られて良かったって言いたかったんだよ」
はっはっはと笑いながら何とか勢いで誤魔化した
別に誤魔化す必要無くね?
いやでも、どうせ言うならこんなつい言っちゃったみたいなのじゃ無く、きちんと言いたいしな。
「そ、そう。全く変な言い間違いしないで欲しいわ」
そう言うと、まだ少し顔を赤らめた
「おい、何処へ……」
怒らせてしまったかと一瞬不安に駆られる晴明だったが……
「お手洗い。そう言うのいちいち聞くものじゃ無いわよ」
晴明の方は見ずに麗美はそう言い残し、店の奥へ消えて行く。
一人残される形になった晴明は、手持ち無沙汰に窓の外を眺めていた。
と、その時ポケットの中でスマホが震える。取り出して見てみると、
『今カナちゃんと映画見終わったとこ、面白かったよー』
どうやら梨花も友達の
『結構長い映画だったんで首とお尻が痛くなっちゃった。これからお昼食べに行ってきます!』
絵文字やスタンプをふんだんに使った、麗美とは正反対のメッセージについ頬が緩む。
『楽しんで来い』と返信すると直ぐに既読が付いた。
『はーい、じゃあまた後でねー』
✳︎
「はー……」
トイレの手洗いカウンターに両手を付き項垂れる麗美。
何であんなに動揺したんだろ……全く私らしく無い。
顔を上げ鏡に映る自分の顔を見ると、まだ少し赤みが残っている事に気が付き眉をひそめる。
思い切り顔を洗いたい衝動を抑え、化粧ポーチからリップを取り出すと小さな唇に薄く塗った。
ちょっと変な空気になっちゃった……かな?
あいつが私の事を……そんな訳無いか。
私は
……どうでも良いか、今日だって別にデートって訳じゃ無いし、ただ美味しいものを食べて映画を観て……
うん、それだけ。映画に付き合ったのだってあいつが余りにもしつこく誘うからだし、ここのパンケーキも食べて見たかったから、ただそれだけ。
気持ちを落ち着けてもう一度鏡を覗き込むと、顔の赤みは取れすっかり元に戻っていた。
それを確認し、ふー……っと息を吐く。
もう大丈夫、もう取り乱したりしない。
あいつと私では住む世界が違う。
もう……おかしな幻想を抱いたりしない。
そう自分に言い聞かせドアノブに手を掛ける。
その時自分の身体に僅かな違和感を感じた。
足取りが重く、身体の力が抜ける様な感覚。
早めに帰ったほうが良さそうね……
もう一度静かに息を吐き、改めてドアノブを握るとドアを開け店内に戻った。
✳︎
「
「麗美さん、お邪魔してます」
「はえ〜この人が噂の先輩さん? 本当に綺麗な人だね〜」
麗美が席に戻ると、何故かそこには梨花、
「……
「梨花と夏菜子ちゃんは……ああ、こちら梨花の友達で
「初めまして! お噂は聞いています。なんでも梨花のこいがムグっ!」
何か言いかけた所を背後から梨花に口を塞がれ、目を白黒させる夏菜子。
「カナちゃ〜ん、何を言おうとしてるのかな〜」
黒いオーラを纏った梨花が、プルプルと震える夏菜子の耳元で引き攣った笑顔を浮かべながら呟く。
「なんでも良いけど口と一緒に鼻も塞いでるから、早く離してあげないとその子ヤバイ顔色になってるわよ?」
「えっ? あっ! カナちゃん、カナちゃーん!」
慌てて手を離すが、白目を剥いてグッタリとしてしまった夏菜子、梨花はその両肩を掴み前後にガクガクと揺らしながら叫んでいた。
「あ〜うん、二人は偶然俺達と同じ映画を観てたらしくてな。で、昼食にしようと入った店もこれまた偶然同じ店だったって訳だ」
「そう、満は?」
何故か一人だけ制服姿の満は、傍に置いてあった書店の袋を取り出す。
「私は午前中に学校で
お店の前で梨花ちゃん達にバッタリ会って、一緒に昼食をと誘われたのです」
「まあそう言う訳だ」と、申し訳無さそうな顔をする晴明。
「……! お邪魔でしたら私達は別の席に移ります!」
そんな晴明と麗美の顔を交互に見比べながら、珍しく空気を読んだ
「えっ! ワタシハオニイチャントイッショノホウガ……」
「んあっ! なに、私どうなってた!?」
梨花は何やらブツブツ言っていたが、意識を取り戻した夏菜子の叫び声にかき消される。
「私は別に構わないわ、ほら貴方もそんな顔しない! 後輩に気を遣われてるわよ」
「ああ、そうだな。蘆屋大丈夫だ、折角だし皆んなで一緒に食おう」
「お待たせいたしました〜『スイーツメガ盛りデラックスビッグバン』のお客様?」
まるで話しが纏まるのを待っていたかの様なタイミングで、麗美の頼んだ代物を店員がキャスター付きのワゴンで運んで来た。
「「「「「うわ……」」」」」
運ばれて来た物を目にした一同は、それを一目見た途端言葉を無くしてしまった。
それはパンケーキと言うには大き過ぎた。
大きく、分厚く、高く、そして大袈裟過ぎた。
それはまさに(スイーツの)塊だった 。
大皿に盛り付けられたそれは、高さは1メートルにも達するだろうか。
直径20センチ程のパンケーキを円形に並べそれを土台とし、幾重もの層をなし高く高く積み上げられている。
積み上げられたパンケーキの外周は生クリームやカスタード、チョコホイップやアイスクリームで塗り固められ、更に各種フルーツがこれでもかとトッピングされていた。
「せーの!」
ドスンっと、店員二人がかりでテーブルに置かれたスイーツタワー。
店員達は一仕事終わったと言わんばかりに笑顔で汗を拭うと、「ではごゆっくり〜」と言い残し去って行った。
「なあ……浦戸……」
「なによ……」
「五人居て良かったな……」
「全くだわ……」
その後長く苦しい戦いの末、スイーツメガ盛りデラックスビッグバンを制した一行は一路帰路に着くので有った。
✳︎
「じゃあ私は先に家で待ってるね」
「晴明さん、浦戸先輩、お休みなさーい」
食べ過ぎの為か若干顔色の悪い梨花と、それとは対照的に元気そうな夏菜子とは家の前で分かれ、晴明は麗美を自宅まで送る為二人並んで歩き出す。
駅に自転車を置いてあると言っていた蘆屋とはそこで分かれたが、無事着いただろうか?
「しかし驚いたよな、一番食ったのが蘆屋だってんだから」
「ええ……」
蘆屋は最初こそ、その大きさに圧倒されていたがいざ食べ始めると止まる事を知らず。
皆が次々とダウンしていく中、黙々と最後まで一人戦い続け遂には完食を果たしたのだ。
「あの小さな身体の何処に入ったんだろうな?」
「そうね……」
麗美の言葉数が少ない、流石の甘い物大好きっ娘な麗美でもキツかったか?
等と考えていると、突然麗美の身体がグラリとよろけそのまま前のめりに倒れる。
「麗美っ!」
地面に倒れるすんでの所で麗美の身体を抱き止めた晴明。何事かと顔を覗き込めば、月明かりに照らされたその顔は普段より一層青白く。正に蒼白と言って差し支えない有様で意識もはっきりしていない様だった。
「おい! 麗美しっかりしろ!」
晴明の呼びかけに薄っすらと目を開いた麗美は一瞬微笑んだかに見えたが、直後力尽きたようにまた気を失ってしまうので有った。
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