第3話 ソーサーの意味


「おじいちゃん、おかわり! 」


私はちょっと元気げんきして言ってみた。それはおばあちゃんとの電話でんわが終わって、やっぱりおじいちゃんがさびしそうにしていたからだ。


「はい、お客様」と言いながらおじいちゃんはものすごくたくさんのコーヒー牛乳を私のカップにそそぎ始めた。


「おじいちゃん! こぼれちゃうよ! 」

「いいんだよ、これで。むかしはソーサーにこぼれたものも飲んでいたらしいぞ」

「そうなんだ! じゃあ飲むね」

私が楽しそうに言うと、おじいちゃんはいつものように用意よういをし始めた。

「とう子、ごめんな、今日も留守番るすばんをたのんで」

「いいよ、おじいちゃん。行っていらっしゃい」


 おじいちゃんは大きな保温ほおんポットが入る大きなカバンを持った。

今からお客さんのところに入れたコーヒーをりに行く。

おじいちゃんの喫茶店きっさてんはコロナウイルスが蔓延まんえんしてから開けていない。それはお客さんたちに年配者ねんぱいしゃが多いためだ。

私のお父さんは

「ちょうどいい機会きかいだから・・・もうお店をたたんだら・・・」

おじいちゃんたちに言ったけれど、でもそれは絶対ぜったいにしないと私は思った。それはおじいちゃんとおばあちゃんには「ゆめ」があるから。

おじいちゃんはもう一度念入ねんいりに手を洗って


「じゃあ、行ってくる。絶対ぜったいに店を開けてはだめだぞ! 五時三十分のお客さん以外には。きっとそれまでには帰ってくるから。わかっているよな、もし侵入者しんにゅうしゃが入ってきたら・・・」


「まずは、かざってあるカップアンドソーサーをげて、裏口うらぐちからげる」


「そう! そしてまっすぐ行けば交番こうばんだ! 」

「はい、いっていらっしゃい、おじいちゃん」


「できるだけ早く帰ってくるから 」

おじいちゃんはコーヒールンバといううたを歌いながら、楽しそうに出かけて行った。

 私はいつものようにお店に一人になった。でも今日はいつもとはちがうかんじがした。

これからおこるとっても不思議ふしぎなことが、ちょっとだけ私におしえてくれていたのかもしれない。



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