第6話 シュレティンガーの妹

僕は困惑した。目の前のそれは妹だが、妹ではないからだ。


「私はネクス・レオンの守護を遂行する者です。フェリア・レオンに託され推参しました。」


「お前はフェリアとは別人なのか?」


「…」 ソッ

彼女は僕の話を無視して傷に手を当ててきた。

「扶養土(グローソイル)」 ポゥ…


足の傷が癒されていく。


「修復完了。その質問への回答は戦闘終了後に実行します。」


相変わらず淡々と語る。彼女の話し方といい反応といいとても機械的に思える。


「それでは、敵にとどめを刺して下さい。」


「待って。彼も私もあいつを倒せなかった。挑むのは無謀だよ。」

ニコルが必死になって止めに入った。


「心配無用。私の力を追加すれば、撃破成功確率は98%。確実なものでしょう。」


「やります。悪魔を倒せるならそれでいい。」


「信用する気なの?」

ニコルは信じない方がいいと思っているのだろう。


「彼女が何者かは分からないし信用もできません。でも、信じてみたいんです!」


「回答を承諾。ネクス・レオンに力を与えます。」


彼女は僕の胸に触れ、手先から光を出した。

体全体に活気がみなぎってくる。剣もその輝きを取り戻し、光に満ち溢れていた。


(すごい力だ!)


バリバリバリ!

男を包む土に亀裂が入る。


「やべェと思ったが…この程度かよ。大した事ねェな」


確実に弱っていたはずだが、今は違う。彼確実に力を取り戻していた。


「形葬土の損傷率90%。推定20秒で解除。時間がありません。速やかに実行して下さい。」


「ああ!やってやる!」


ザッ!

僕は男に向かい突進する。

霊装はイメージすることによって技を生み出し、それを叫ぶことによって霊装と息を合わすことができる。今までの戦いでこれら学ぶことができた。

僕は今まで出会った中で最も強い存在…あの時力をくれた不死鳥のことを思い出した。

縦横無尽に空をかけ悪魔を葬り去る姿は僕らに勇気をくれたのだ。

その様をイメージし剣に叫ぶ


「不死鳥天翔(フェニックス・ライズ)!」

ボォォォ!

剣全体から業火が伸び、飛ぶ不死鳥の姿を形取る


バァァァン!

「おせぇ!爆破隕石(ニトロメテオ)」

男は己を爆発させ超高速で突進してきた。


(見極めろ、見極めるんだ!)

タイミングを合わせ剣を切り上げる


「これが、不死鳥の力だぁ!」


ピェェェェ! ズバァァ!

「ぐぁぁぁぁあ!」

天翔る不死鳥が男を喰らう。

男は瞬く間に灰になった。


「すごい…ここまで霊装の力を強めるなんて…」

ニコルは口を開け驚嘆した。


僕は周りを見渡し男を探した。男は既に灰になっており、人型に広がったそれの胸あたりに緑色の球体が転がっていた。


「やった…やったぞ!」

僕は剣をしまいこぶしを上げた。


「ネクス君、よくやったよ。」


「僕だけの力ではありません。ニコルさんや彼女が力を貸してくれたから勝てた。これはみんなで掴んだ勝利だ。」


「最後に決めたのは君だ。もっと矜りにもってもいいんだよ」

ニコルは僕の背中を押した。

ビターン

その力はあまりにも強く、2m先にあった木にぶつかるくらいであった。


パチパチ

彼女は僕に向け拍手をした。相変わらず無表情であるが。

「ネクス・レオン。素晴らしい勝利でした。約束通り私の事について話しましょう。」


「そういえばあなたのこと、謎のままだったね。うん、聞かせて。」


「君が何者なのか教えてほしい」


僕らは彼女の話に耳を傾けた。


〜〜〜

私は土の精霊。名前はありません。フシ村で主に農業の補佐等の仕事をしていました。

だが、悪魔の襲撃によりただ1人を除き全滅。その1人もどこかに行ってしまった。

私は役割を無くし大地に還ろうとしていました。

そんなとき、ある死体を探知した。

それは傷一つなく、まるで生きているかのようでした。そっと触れると、微かですが別の精霊の力を感知しました。きっとこの力によって修復されたのでしょう。


「…ねぇ」


私は声に驚き、迎撃態勢をとりました。

正体は直ぐに分かりました。


「待って、私はもう死んでるの」


「説明不要。あなたが魂である事は確認済みです。速やかに成仏して下さい。」


死者の魂は速やかに冥界に行く。それが世界のルール。何故彼女がそこに止まっていたのか理解不能でした。


「心配事があっていけないの。」


「事情は聞きましょう。」

我々土の精霊は冥界に迷える魂を送る役割も持っている。その役割を持つ精霊のデータから受信した情報によれば、その願いを聞けば大抵の場合成仏するという。私はその手順を実行する事にした。


「私はフェリア・レオン。そこに倒れているのは私だったものなの。もうこの体には戻れないけど」

「でね、心配事というのはね、兄さんのことなの。」


「兄さんとは?」

メモリに無い言葉だ。


「私と同じお父さんとお母さんから生まれた人よ。その兄さんはね、いま1人で寂しがってると思うの。だからね、兄さんを1人にしたくないの!」


「生存している者は魂を見る事は出来ません。そのまま存在しても無駄ですよ。」


「でも、兄さん寂くて死んじゃうかも。そう思うと涙が出てくるの…」ウゥ…


彼女は大泣きした。流す涙すら無いのに。

彼女は一向に泣き止みそうに無い。

見かねた私は1つ彼女に提案を行った。


「その体を頂けませんか?私があなたの代わりに兄さんに寄り添います。そうすれば彼も寂しくなくなるでしょう。」


「本当は私が行きたかったけど、あなたに任せるよ。兄さんをよろしくね」

彼女は笑顔だった。

みるみるうちに彼女の存在が希薄になっていきました。


「ありがとう精霊さん。私の願いを聞いてくれ…て…」 フワッ…


そして魂の消滅を確認した。

「ありがとう」

人間からそう言われたのは初めてでした。


そして私は約束通り彼女の体を少し作り変え、内部に侵入しました。


彼女のメモリを観たところ、殆どが兄さんことネクス・レオンに関わる物でした。


私は彼女がとても兄思いである事に敬意を示したのでした。

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