第5話 悪魔の男

敵に囲まれた僕らはじわりと距離を詰められていた。


「ネクス君、君ならどうしたい?」

敵に聞こえぬようニコルはささやいた。


「僕がウザードを倒してその隙にニコルが切り込む。能力で考えるとこうした方が良いと思う。」


「良い考えだ。君の力ならウザードの群れを蹴散らせて、私はあの男に集中できるからね。」

「でも疑問に思わない?私達を倒したいなら直接手を下せばいいのになぜウザードの群れを呼び出したんだろうね」


確かに謎だ。この方法だとかなり周りくどい。きっと何か理由があるに違いない。

僕はさっきまでの出来事を整理し、一つの結論を出した。


「僕達に苦痛を与えるためだと思う。彼は戦車のことで僕達のことを恨んでいる。直ぐに殺さず疲労したところを痛ぶろうとしているのだろう。」


「その通りだね。私たちは彼から恨みを買っている。苦痛を与えようとするのは当然のことだ。」

「あの様子からすると、先ほどの攻撃でこちらの実力を推測していた。彼としては、『弱い』と判断したのだろうね。」

「彼は油断しきってる。切り込むのは今しか無いよ。」


「そのまま突っ込むのか?!無謀すぎる。」

僕は目を見開いた。


「策はあるよ。耳貸して」 ゴニョゴニョ


「…え…本当にやるのか?」

その内容に耳を疑う。正直に言うととんでも無く阿保みたいな作戦だ。そんな方法で本当に切り抜けられるのか心配になってきた。


「私を信じて!」


いや、流石にこれは信じられない。

僕は反論しようとしたが彼女は既に、僕を左脇に抱えていた。こうなってしまったらもうやるしかない。


「行くよ!」 「ああ!」


「一角獣突進(ユニコーンダッシュ)」

ヒュン

ニコルは一直線に男に突進した。


「てめェ…正気か?男のケツ持って突進するってよ、狂気の沙汰としか思えねェな」


あまりにも正論すぎて反論の余地も無い。


「ケツじゃない!ネクス君だ!」

彼女は激怒した。突進の速度が急激に上がる。あまりの速さにウザード達も追いつけない。


「甘ぇ。てめぇの攻撃はよ、直線的すぎんだよ!」

男はニコルの攻撃を寸前で回避した。


「不死鳥熱波(フェニックスウェーブ)」

ボフゥ

回転する様に技を出し、ニコルを急旋回させる。


「おもしれェ。意表をつかれちまった。」

「爆破防壁(ニトロシェル)」

バババババ

男の周囲に蜂の巣のようなバリアが展開されてゆく。


「突っ込むよ!耐えて!」


バリアに突っ込んだ瞬間大爆発を引き起こした。だが、何故か痛みを感じない。これがニコルの霊装の力なのだろうか。


「これで終わりよ」

「一角獣の角(ユニコーンホーン)」

ドシャァァ

輝きを増した槍の一撃が男の胸を貫いた。


「痛ェな。こんな傷を負ったのは久々だな。」

男はニヤリと笑う

「でもよぉ、俺を倒すには至らねェんだよなあ!」

「爆破反撃(ニトロカウンター)」

ボカァァァン


「うわぁぁ」 「きゃぁぁ」

爆発と共に地面に吹き飛ばされる。

ヨロッ

「うっ、今ので足をやってしまったみたいだ。」

ニコルは立ち上がれず、座り込んでしまった。

「僕に任して下さい。」

「不死鳥治癒(フェニックスヒール)」


緑の炎が彼女を優しく包み込む。


「おや、痛みが取れた。ありがとうネクス君!」

ニコルは嬉しさのあまり僕に抱きついてきた。

「当然の事をしただけだ。」

人に抱きつかれるのはちょっと恥ずかしい。


「ここはよぉ、戦場だぜェ。そんなことしてる暇はねェよなぁ!」

苛立つ様な男の怒号があたりに響く。ニコルの攻撃は確かに胸を貫いたはず、だが彼から弱ってる様子は感じられない。これが上位の悪魔なのか?


「遊びは終わりだぜ。爆破流星群(ニトロシューティングスターズ)」

ボボボボボボボボ!

爆発音と共に四方八方からウザードが飛んできた。それは流星の様な速さでこちらを目掛けてきたのだ。さっきの残骸といい彼には爆発させた物を自在に飛ばせる力があるのだろうか?


「不死鳥熱波(フェニックスウェーブ)」

ボボン

「一角獣の角(ユニコーンホーン)」

ドシャァ

僕らは背中合わせになり、徹底抗戦に出た。

敵の数が非常に多いうえ、一体の威力が高い。名前の通り流星群と戦っている気分だ。

だが、これはフシ村で戦った時と状況はよく似ている。そう、攻撃と回復を同時に行えば良いのだ。

だが彼女は?そうだ。彼女も回復できるようにすれば良い。

イメージ、イメージするんだ。そしてそのイメージを剣に吹き込むんだ。


「不死鳥治癒陣(フェニックスヒールゾーン)」

僕らの周りに緑の炎の輪ができる。

(やった!成功した。)


「緑の炎。そうか、そういうことなんだね」


ニコルもこの技について理解したようだ。


「ニコル。背中は任せる。」


「最初からそのつもりだよ。私たちの力、知らしめよう!」


ボウン ドシャァ


燃え盛る炎の中、白亜の槍が輝く。

これらが舞う姿は何よりも美しかった。

舞い終えた後には僕らとあの男だけがそこに立っていた。


「これで終わりだ!不死鳥熱波(フェニックスウェーブ)」

スカッ…

剣を振ったが、技が出ない。剣を見ると輝きを失っていた。


「爆破散弾(ニトロショット)」

液状の弾丸が僕らをめがけ飛ぶ。


ズドドドドン


足に鋭い衝撃が走る。

「ぐっ!あ、足が」

足を撃ち抜かれ僕はその場から立てなくなった。


「しっかりして!ひとまず逃げよう。」

ニコルは僕を背負った。


何故だ、傷が治らない。技の不発といい剣の輝きが失われたことに関係があるのだろうか?


「つまらねェ、てめェらはここまでだな」


男はこちらを見下しながらニヒルな笑みを浮かべる。


ここまでかと思った時、不思議なことが起こった。


ズモモモモ!

男の周囲の土が盛り上がり男を包んだのだ。


「なんだぁこれは?身動きがとれねェ。」

男は必死にもがいている。その足掻きも虚しく、土は顔面以外全てを包み込んだ。


ザッザッザッザッ

あっけにとられていると、僕らの後ろから長い栗色の髪の少女が現れた。


「フェ…リア?フェリアなのか?!」


「何だって!」


「………」


なんと死んだはずの妹だったのだ。しかし、こちらの呼びかけには見向きせず、真っ直ぐ男の方へ歩いて行った。


「なんだぁてめェは?」


「形葬土(アブソーブソイル)」


ギュオオ


「ぐおお…ち、力が抜ける…」

男の顔がやつれてきた。もう話す気力もないのだろう。

それにしてもすごい力だ。2人がかりでも倒せなかった相手をいとも簡単に倒してしまうなんて。どこでこんな力を付けたのだろうか?そもそもあの状態で生きてたのも不思議だが。


ザッ

彼女はこちらに近づき、僕を見つめた。

その視線はとても冷たく人形のようであった。僕は確信した。彼女はフェリアではない。彼女がこんな顔をした事は一度も見た事ないのだ。


「お前は誰だ?」


「私はネクス・レオンに寄り添う者です。フェリア・レオンに託され推参しました。」


彼女は表情を一切変えず、淡々と語る。

その瞳は錆びた鉄のような赤みを帯びていた。

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