第4話 ユニコーンの霊装

私は昔から男が嫌いだ。話しかけた事なんて今まで一度も無い。

なのに、あの青年に声をかけた。

なんとなく気になってしまったのだ。

話を聞けば、悪魔に村を壊され全てを奪われたそうだ。だけど、彼が望むのは復讐ではなく今を生きる人達を守ることだった。

そして今。彼は危険を顧みず、敵にぶつかった。自分が死ぬかもしれないのに私を守ったのだ。

22年間生きてきたが、ここまで人のために尽くせる人はみたことが無い。私はつい感心してしまったのだった。


…直ぐに復活したから少し興醒めたけど、

けどね、その力が無くても彼はそうしてたと思う。

彼の信念はそれだけ素晴らしく見えたから。


ボカァァァン!!

爆発と共に僕の体は四方に飛び散った。

刹那、僕の意識は炎に包まれる。


シュウウウ〜

気がついた時には地面に立っていた。体の傷は全て回復していた。


振り返るとニコルがしゃがみ込んで口をえていた


「ネ、ネクス君…大丈夫?」


「大丈夫だ。」

僕はニコルに手を伸ばした。


ニコルは僕の手を掴み立ち上がる。

「さっきの力。その剣によるものだね?」


「そうだ。村が悪魔に襲われた時に不死鳥から授かったものだ。」


「ハハッ。そうだったんだ。君も『霊装』使いだったんだね。」


「レイソウ?それは一体?」


ドドドド…

質問の答えは轟音によって掻き消された。


「質問は後!構えて!」


ニコルに指示されるまま僕は剣を構える。


ドドドドドドドド…

現れたのは鉄でできた箱であった。


「悪魔軍の戦車。それも新型か。」

ニコルは不適に笑った。

「いいね!準備運動にはもってこいだ。」

彼女は自分の胸に手を当てた。

すると、光り輝く白い刻印が現れた。

それは僕の刻印と似たものであった。


「一角獣(ユニコーン)」


彼女がそう言うと、刻印から槍の柄が出てきた。それが引き抜かれると、槍身が伸び、3m級のランスになった。その出立は虹色の大地にそびえ立つ白亜の塔を想起させた。


彼女は姿勢を低くして槍を構え、敵に向かって突進した。


「一角獣突進(ユニコーンダッシュ)」

ズバァッ!

叫びと共に槍の輝きが増す。最高潮に達した瞬間、戦車には大きな風穴が開いていた。



ドドーン

戦車は大破し、もう動く気配は無い。


「す、すごい!」

思わず声に出してしまった。


「油断しないで。来る!」

ニコルは再び槍を構える。

僕も体制を立て直した。


ボカァァァン

戦車が爆発して破片が襲い掛かる。


ズバァッ

僕は剣を振るい、炎の波で破片を落とそうとした。だが、勢いは落ちずむしろ加速している。

明らかに力負けしている。考えろ。威力を高める方法を見つけなければ勝ち目はない。


『君も霊装使いだったんだね。』


ふと、ニコルが言ったことが頭に浮かんだ。

そうか。この剣はニコルの槍と同じ仕組みがある。ならば、その真似をすれば良いんだ。


「不死鳥(フェニックス)」

カッ…

呼びかけに応えるように剣が煌く


僕は剣を振りかぶり、再び剣に呼びかける。

「不死鳥熱波(フェニックスウェーブ)」

ボウァァ!

剣から放たれた波は飛行する破片を全て撃ち落とした。炎の波とは思えないすざましい威力だ。


ヲヲヲヲ…

「へへ…ハハ。やるじゃねェか」

土煙が晴れると、そこには浅黒い肌の人間が立っていた。いや、人間ではなさそうだ。髪が違う。一見ドレッドヘアに見えるが、それは全て円柱で、円柱の先端一つ一つから麻紐の様なものが伸びているのだ。

そして鎧。意匠が先ほど戦った悪魔によく似ている。間違いなく悪魔と関わっているだろう。


「おや、悪魔の大将さんかな?」

ニコルが僕を押し除け前に出る。


「てめェらに語る筋合いはねェな。」

「俺はよぉ、今めちゃくちゃキレてるんだよねェ。あの戦車…俺の大切な相棒を葬りやがって!」


悪魔は激昂した。まるで家族を殺されたかのようであった。なんとなく彼の気持ちが分かった。


「あいつに同情する余地は無いよ。ネクス君、行けるかい?」


「ああ、いつでも行ける。」


同情する気は元から無い。彼は僕達の敵である悪魔だからだ。


「てめェら全員、派手に果てさせてやるよ!」


ヴォン

悪魔が叫ぶと、僕らを囲むように複数の刻印が現れ、ウザードが湧き出てきた。みるみるうちに増え、完全に包囲された。


ガガガガガ!ガガガガ!

ウザード達が男を称えるように叫び声を挙げる。まるで、敵のサポーターで溢れた闘技場だ。


そして、男はこちらを見下すよう高らかに叫んだ。


「この場所がてめェらの死に場所だ!」

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