~第三章・カレーは飲み物、歯ブラシは食べ物。~

視線を感じる…

気配というかオーラというか、背後から凄まじい何かが僕を襲っている…


今にも消えてしまいそうな薄暗い街灯の明かりだけが頼りの細長い夜道。

僕は恐怖心から、歩く速度をまた一段階上げた。


腕を上下に、腰を左右に大きく振りながら、僕は背後から追ってくる“奴”を遠ざけるように全力の競歩で逃げる。


しかし、その差は開くどころか段々と縮まって来ていた。


「ハァ、ハァ、ハァ…」


コツコツという速い足音と共に聞こえてきた不気味な吐息音。

ついに身の危険を察知した僕は全力で走る事を決意した。


約100メートル先に自宅のアパートが見えてくる。

よし、ここからが帰宅部エースの腕の見せ所だ。


僕はラストスパートでギアをマックスまで上げ、全盛期のサイレンススズカを彷彿とさせる逃げ切りを図る。


アパートの外階段を勢いよく駆け上がり、自宅である205号室の前で鍵を探す。

しかし、カバンの中で濃厚に絡み合った鍵とイヤホンをほどいている間に

奴は既に階段を登って来ていた。


ヤバい!コイツ、今日は家まで来たぞ!?

何なんだいったい!誰だよ!怖すぎるんですけど!?


もたつきながらも、なんとか鍵を開け自宅に入る。

しかし、閉めようとしたドアの隙間に奴の右足がスッと入ってきて、ドアを閉めることが出来ない。


ぎゃあ゛ああ゛ああ゛ああ!

もうダメだ…殺される…!


僕はその場で腰を抜かし、玄関で靴を履いたまま尻もちをついてしまった。

それと同時にドアを開け、室内へと侵入して来る謎の影は

僕に覆いかぶさるように身体を重ねてくる。


そしてソイツは小さな両手で僕の両肩甲骨を強く握りしめながらギュッと熱い抱擁を…


…って、アレ?


なんかお花畑のような とても良い匂いがするのですけど。

しかも全体重をかけられている割にはそこまで苦しくない…?

…こ、コイツ、よく見たら女の子じゃないか…!

それにこの顔、確かドコかで…?


すると突然、その子は赤らめた頬を僕の胸に押し付けながら息を荒立て

小型犬のマウンティングのように腰を擦り付け始めた。


いやいやいやいや!

急に何やってんのよ!?


もしや発情なさっている?

それとも僕との関係に優劣をつける為にやっている?

ねぇ、どっち!?

てか、これどういう状況!?

ねぇ、どういう状況!?


パニック状態に陥り、僕は一度 彼女を何とか自分の身体から引き剝がす。

しかし、剥がしてもすぐ彼女は砂鉄の様にくっついてきて、僕の胸にグリグリと顔を押し付けてくる。

そしてダ〇ソンのような吸引力で一度大きく深呼吸をした後

顔を上げ、とんでもなく いやらしい表情を見せながら僕にこう言った…



「あの…204号室の須藤ですが…

私、もう我慢できなくて…////」


「す、須藤さん…!?

なんでアナタが…?!


…って、離れてください!

何してるんですか!」


「イヤ…!!

もう離しません…!

有ちゃんは私だけのモノです…!」


有“ちゃん”…?

だいぶ馴れ馴れしいな。

それに僕は彼女の所有物になった覚えなど一切無い。


にしても、ここ最近 僕を悩ませていたストーカーの正体が

まさか、204号室の ご近所さん

須藤 華彩だったなんて…


しかし、なぜ彼女がそんな事を…?


僕は彼女に抱き締められながら…

…というよりかは締め付けられながら

理由を問いただす。


「な、なんで僕の後を つけたりしたの…?」


「だって有ちゃん、最近 私が話しかけても無視するし

チャイムにも全然 出てくれないんですもん…!」


「そ、それは…

でも、だからって…」


彼女の腕の力は段々と強くなっていき、僕の肋骨は悲鳴をあげ始める。

そして彼女は、僕の胸にオデコをくっつけながら

大声で愛? を叫んできた。


「私、有ちゃんの事が…

世界で一番、いや宇宙で一番

大大大大大大大大大大大大大大大大大大大好きなんです…!

声も性格も身長も体重も

絶妙にダサい私服のセンスも

目、鼻、耳、口の形もサイズも位置も

髪の毛や陰毛の一本一本も

身体中にある500万を超える毛穴の一つ一つも

心臓も肺も肝臓も腎臓も脾臓も

胃も小腸も大腸も膀胱も胆も三焦も

陰茎も尿道も睾丸も陰嚢も

身体中を流れる血液も

骨も筋肉もリンパ節も

尿や便などの排泄物も

全部、ぜ~~んぶ大好きなんです…!!!」





………え?もしかして僕

今、告白されましたか?


こ、この人…

マジで何言ってんの…?

控えめに言って超気持ち悪いんですけど…


まず、愛の告白で五臓六腑を褒めてくる奴なんて生まれて初めて見た…

それに臓器はもちろんだけど、排泄物なんて一度も見せた覚えが無いのですが…!?

…あと だいぶ序盤で一部、何かディスられていたような気が…


「そ、そんな 急に好きとか言われても…

俺、彼女いるって前 話したよね…?」


「はい、もちろん知っていますよ。

あの池尻 軽子とかいう“尻軽クソビッ〇女”ですよね?」


「なっ…!?」


「あんな女となんか別れて…

早く私と結婚してください…!!」


「は、はぁ…!?」


すると彼女は まるでゾンビのように這いつくばりながら、僕の身体によじ登り

僕の顔面は彼女の大きくて豊満な胸にスッポリと埋まってしまった。


く、苦しい…

息ができない…

…しかし何だろう、この何とも言えない心地良さは…


購入後 2、3分ほど放置したコンビニの中華まん のように生暖かく、銀座とかにある完全予約制で買う事すら困難な高級食パンのようにフワフワで柔らかいこの感触…



…ハッ!いかんいかん

僕には池尻 軽子という愛する彼女がいるではないか!

他人のパイO2なんぞで幸福を感じている場合ではない…!


僕は“H”過ぎる魅惑の谷間からようやく脱出し、ポケットからスマホを取り出した。


「これ以上つきまとうなら警察呼ぶよ…!いいの!?」


脅しの為、“110”とだけ入力した液晶画面を見せると

彼女は ようやく焦りを見せ、僕のスマホを奪おうと暴れ始める。


この子、意外に力が強いな…!

や、ヤバい、取られる…!


その時だった。

突然 彼女は過呼吸のような状態に陥り、苦しそうな表情で その場に倒れこんでしまった。


「え…!? 須藤さん…?!

急にどうしたの…!?

須藤さん…?!」


意識が朦朧としている、そして身体も熱い…もしかして風邪を引いてるんじゃ…


部屋の奥深くに閉まってあった体温計を探し出し、彼女の腋下へと強引にねじ込むと

案の定、彼女の体温は38℃を軽く越えていた。


いつから熱があったのかは知らないが

さっき僕を待ち伏せする為、何時間も外で雨に打たれていたことで

症状が悪化してしまったのかもしれない。


…はぁ、一時休戦だな。


僕は弱った彼女をお姫様抱っこし、自分のベッドへと運ぶことにした。



「…あれ、ここは…?」


ベッドで一時間ほど横になった彼女は呼吸も落ち着き

ようやく まともに会話ができるくらいにまで意識を取り戻していた。


「お、起きた。大丈夫?

ここ俺んち、205号室。


マジでビックリしたよ

急に倒れんだもん、熱もあるしさ…」


「ご、ごめんなさい…

有さんに ご迷惑をお掛けしてしまって…」


今まで散々ストーカー行為を繰り返してきておいて、今更 何が“ご迷惑”だよ。どの口が言ってんだ。


という心の声は一旦 胸にしまい込み、僕は彼女の看病をしてあげた。


「はい、これ。 近所のドラッグストアで色々 買ってきたよ。どう?飲めそう?」


そう言って僕は市販の風邪薬と常温のスポーツドリンクを手渡す。

しかし彼女は まだ起き上がることすら困難そうで

横になりながら チワワの様にブルブルと震えていた。


「あれ?寒い?

おかしいな、暖房はMAXにしてるのに…」


「あ、あの…部屋自体は暖かいのですが…

ちょっと服が…」


そう言われ よく見ると、彼女の全身黒ずくめの“ストーカーコーデ”は、先程の強い雨により濡れてしまっていて、とても着心地が悪そうな状態だった。


「今、着替え持ってくる…!

俺の服でいいかな?」


「はい、喜んで。」


居酒屋のベテラン店員のような返事と共に、僕は着られる服を探し始めた。

しかし、普段 彼女である軽子ちゃんに家事を任せっきりだった僕は

洗濯の習慣がまるで無く、今日も洗濯物を溜めに溜め込んでしまっていて

まともに着られる服が見事に一着も見つからなかった。


「ご、ゴメン。俺の服、今 全部汚くて貸せる奴なかったわ…」


「そうですか…でも 洗濯する前の方が有ちゃんの汗が染み込んでいて

むしろ、私的には好都合なのですが…」


「ちょっと、今そういう

気持ち悪いのいいから…。」


「あ、そうだ。申し訳ないのですが

私の家に行って着替えを取ってきて頂けませんか?

確かベッドの上にパジャマが畳んで置いてあるはずなので…」


「え?別にいいけど…

女の子の部屋に俺 入っちゃって大丈夫なの…?

見られたらヤバい物とか置いてない?」


「大丈夫です。変な物はちゃんとクローゼットにしまってあるので…」


変な物は一応あるのか…逆に何か気になるな…


「おけ、じゃあ取り行ってくるから ちょっと待ってて!


…あ、部屋の鍵は?

閉まってるよね?」


「はい…

鍵は…ここです…」


そう言って彼女は おもむろに自分のズボンの中央付近を指さした。


「…ん?ポケットの中?」


「違います…この中です…」


彼女の指先は確実に股間 周辺部を指している。


「え?だからドコ…?」



「…パンツの中です。」



はええ゛ええ゛ええええ゛ええええ!?


なんで そんな所に入れてんだよ!

コイツ、頭おかしいんか…!


「あの、鍵、早く取ってください…」


「え!?俺が取んの?!

やだよ!自分で取ってよ…!」


「無理ですよ…腕に力が入らないんです…」


「そ、そんな…」


事態が事態とはいえ

レディーのパンツに手を突っ込むなんぞ、紳士としてはあるまじき行為。それに僕には軽子ちゃんという彼女がいるんだぞ?

無理無理無理無理…!そんなこと、僕には絶対に出来ない…!


「早く…お願いします…寒くて死にそうなんです…」


僕が戸惑っている間にも、彼女の咳はどんどん悪化していく…


クソ…こればっかりは仕方ないのか…?

べ、別に やらしい目的では無いし

神様もきっと許してくれるよね…?


軽子ちゃん、ゴメン…!


「い、入れるよ…」


僕は彼女に同意を取り、ゆっくりとパンツの中に手を潜らせていく…


「あっ…////」


「ちょっ…!

変な声出すな…!!」


吐息の様に こぼれる彼女のいやらしい声に、一瞬 性欲が刺激されかけるも

僕は脳内で 北極の夜空に広がる綺麗なオーロラや

サバンナの広大な草原の中、弱肉強食の世界を必死に生き抜く動物達のたくましい姿など

神秘的な風景を次々と思い浮かべることで

煩悩をかき消し、なんとか平常心を保っていた。


「ねぇ、ちょっと。

全然見つからないんだけど…

本当にあんの…?」


パンツに手を突っ込みながら、彼女の方に目線を向けると

彼女はスマホの背面を こちらに向け、何やら画面を操作していた。




《パシャッ》




…え?

パシャ…って?

今の、カメラのシャッター音ですよね…?


すると彼女は嬉しそうに、スマホの画面をこちらに向けてくる。


そこには、女性物のパンツに手を突っ込みながらカメラ目線になっている僕の姿が

ハッキリと写し出されていた。


「お゛お゛おおお゛おおい!!

てめぇ今何したあ゛あ゛あああ!!」


「ふふふ…(笑)

また一枚、素敵な写真が増えました…♪」


「おい!今すぐ消せ!!早く!!」


そう言って僕は彼女からスマホを奪い取る。

しかし、彼女のスマホにはパスコードロックがかかっていて

写真を消すことは出来なかった。


「ふふ…♪写真は冗談ですよ…(笑)

ちゃんと後で消去しておきますから大丈夫…

そんなことより、寒いです…

早く着替えを持ってきてくれませんか…?」


「わ、分かったけど…

絶対だぞ!必ず消せよ!


…てか、鍵は?」


「あ、鍵なら そこにある私のカバンに入ってます。」


うお゛おお゛おおお゛おお~~い!!


パンツの中に無いんか~い!!

手ぇ突っ込んだ意味ないやないか~い!!


彼女の身体が弱っていなかったら秒で どついていた ところだったが

何とか怒りを抑え、僕はビショ濡れのカバンの中から鍵を発掘し 204号室へと向かった。


ったく…元気になったら警察に突き出してやる…!


イライラしながら彼女の部屋に入ると、目に飛び込んできた衝撃的過ぎる光景に

僕は思わず言葉を失った。


な…な…

なんじゃこりゃあ゛あ゛あ…!?


部屋の壁には…僕の写真…!?

が、一面にビッシリと貼られ、大きなモザイクアートが出来上がっていた。


一枚一枚全て写りの異なる写真が数十枚…いや、数百枚はある…

しかも こんな写真、撮られた覚え一切ないぞ…!?


さらに部屋の中には

僕の顔が印刷されたカレンダーやマグカップ、僕の名前のロゴが入ったタオルにハンカチ。

さらには僕の等身大パネルなど

様々な“僕のオリジナルグッズ”で溢れかえっていた。


…!?!?


何が「大丈夫です。」だよ…!

変な物しかねぇじゃねぇか…!

いったいこんなの、ドコで作ったんだ…!?


僕は とりあえず無心で彼女のパジャマを手に取り

この最高に居心地の悪い恐怖の空間から一刻も早く抜け出そうとしていた。


や、ヤバい…恐怖を通り越してもう言葉も出ない…


そして玄関へ戻ろうとした その時

どこか見覚えのある布の塊が床に落ちているのが目に入る。


僕はそれを手に取り、恐る恐るゆっくりと広げた。


…あ、あれ?!

これ、俺の無くなってたパンツじゃん…!

なぜか若干湿っていて、木くずのような汚いゴミが大量に付着しているけど…


しかし いったい、なぜこんな所に…?


…ハッ!!


その時、僕の脳内で ここ数日の謎が解け、全てが繋がった。


そう…僕の隣人、須藤 華彩は

ストーカーのみならず、下着泥棒でもあったのだ…


あ、アイツ…!!


ついに怒りが沸点へと達した僕は、自分のパンツを強く握りしめながら彼女の元へと戻る。


絶対に言い逃れの出来ない この“決定的な動かぬ証拠”を彼女に突き出してやろうと

僕は怒鳴り声をあげながら、勢いよく部屋のドアを開けた。




《シャコシャコシャコシャコ…

モグモグモグモグ…》



…部屋に戻ると

彼女は僕の枕に股間を擦り付けながら




…僕の歯ブラシを食べていました。




うわあ゛ああ゛あああ゛あ゛ああ゛ああ!!!


僕は急いで彼女から歯ブラシを取り上げ、迷わずゴミ箱へメテオした。


「な、何してんだよ、お前…!汚っ…!」


「返して下さいよぉ~私のアメちゃん…」


「お前のでもねぇし、アメちゃんでもないわ!!


オエェ…てかお前、さっきからマジで気持ち悪ぃな…」


「え!

気持ち悪い…!?」


僕にそう言われた彼女はナゼか嬉しそうに目をキラキラ輝かせながら僕に顔を近づけてくる。


「もっと…!もっと罵って下さい…!

気持ち悪いって

もっとたくさん言って下さい…!!

ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…////」


彼女は暑い夏の日、飼い主に嫌々 散歩をさせられているフレンチブルドッグのように息を荒げ

先ほど以上に興奮が抑えきれない様子だった。


…あ、はい。

この人、もう完全にアウトですわ。


救いようのないド変態です。もう今すぐにでも警察に通報して、今後一切 関わらない方が身の為ですね、うむ。


僕は彼女に別室で着替えてもらっている間に

今度こそ本当に110番をかける為、ポケットからスマホを取り出す。


すると、まさにそのタイミングで、僕のスマホに一件の着信が入った。


「あ…!軽子ちゃんからだ!」


着替えを済ませ、その着信音を聞きつけた彼女は

別室から急いで戻ってきて

僕のスマホを奪おうとする。


「クソビッ〇からですよね…!?

私が出ます!

私が出て、有ちゃんと早く別れるように言います…!」


「だから〇ッチじゃねぇってば…!

ちょっと、やめろ!静かにしてろ…!」


僕は電話中に騒がれないよう、彼女の口を手で抑えながら電話に出た。


「あ、もちもち~?有くぅ~ん?

アタチだよ~、軽子ちゃんですよ~?」


「あれ?軽子ちゃん、今日って同好会の飲み会だよね…?

まだ十時じゃん、これから二次会?」


「いやぁ~そのつもり だったんらけどぉ~

一次会で飲みすぎちゃって、もう限界なんでぇ

今日は帰ることにしたのであります…!」


僕と軽子ちゃんがスマホで通話をしている中

口を手で抑えられながらフガフガしていた須藤 華彩は、急に騒ぐことを諦め

口を抑えていた僕の手のひらを 突然ペロペロと舐め始めた。


「ちょっ…やめろっ…!!」


「ふぇ?やめろって何を?

有くん、急にどうしたの?」


「あ、いや、何でもない…!

じゃ、じゃあ、家まで気を付けて帰るんだよ…!」


そう言って僕は今にも暴走しそうな須藤 華彩を本格的に止める為

早く軽子ちゃんとの電話を終わらせようとする。

しかし…


「ふふふ…実はねぇ、今 私は

とある所にいまぁ~す!

さぁ、どこでしょ~か?」


「え…?」


「なんと!今日は久々に

有くんに会いに来てあげたよ~!

じゃ、あと2、3分くらいで つくから よろしく~ じゃね~!」


「え…!?ちょ、け、軽子ちゃん…!?」


彼女はすぐに電話を切ってしまい、折り返しても着信に気づいてくれなかった…


「す、須藤さん…!

軽子ちゃんが帰ってくるみたいなんだ…!

だから今すぐに204号室へ戻って…!」


「えぇ…そんなの無理ですよぉ…動けないですもん…

さっきから風邪のせいか、身体中の力が全く入らなくて…」


「いや、お前 さっき俺の歯ブラシ喰いながら腰振ってただろうが…!!」


「無理なものは無理です…

それに、今日はせっかく有ちゃんが看病してくれる貴重な時間…

私、風邪が治るまで

有ちゃんと離れたくありません…!」


や、ヤバい…

どうしよう…!


今 僕の家には、僕にベッタリくっついて離れないパジャマ姿の女の子が一名…

このままでは完全に修羅場だ…


すると窓の外から

アパートの外階段を「カツンッカツンッ」と鳴らすハイヒールの音が聞こえてくる。


き、来ちゃった…!

ヤバい、もう間に合わない…!


クソ、もう こうなりゃ最終手段だ…!


「須藤さん…!

俺、一つだけなら

須藤さんの言う事、何でも聞く…!

だから…今だけでいい!

俺の言う通りにしてくれ…!!」




《ガチャッ…》



…そして軽子ちゃんは合鍵を使い

僕達がいる205号室へと入ってきたのであった…

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