試験二日目 「卑怯な手を使って負けるってどんな気持ち?」「へなちょこ胃袋❤」

地獄の番犬 ケルベロス ~コラコラ問答~

 試験の二日目を迎える。


 昨日と同じように、シチサブロー・イチボーは焚き火台で炭火を熾す。相棒であるテルルのシッポに包丁を入れて、サイコロステーキにした。


 シチサブローは、一口含む。


「うん、今日も最高だぜ、テルル」

「世界一?」

「宇宙一だ」


 サムズアップで、シチサブローは答える。


『さあ、始まってしまいました、S級召還師認定試験! 若いうちから一流の恩恵を受けられるのは、果たしてどのチームか! 選手は入場してください!』


 現れたのは、と、人間より大きな黒いドーベルマンである。人を何人も殺していそうな目をしていて、口からは火炎が漏れ出ていた。


『あっとぉ、登場したのは侯爵の令嬢! 引き連れているのは地獄の番犬、ケルベロスです!』

『放送席、放送席、ただいま、挑戦者にインタビューをしてみたいと思います。さて、召喚獣は扱いが難しいとされるケルベロスということですが、勝てそうですか?』


 ケルベロスの飼い主に、マイクが向けられる。


「この子はアンデッドに近いので、大丈夫かなと」

『頭が三つあるため、意思疎通は難しいと思いますが?』

「わたしは優秀なの。そこらの召還師とは違うわ。頭が三つあるということは、我慢強さも三倍ということ!」

『もし負けることがあれば、勝負は時の運ということでは済まないと思いますが……』


 リポーターのセリフを侮辱と捉えたのか、令嬢の目つきが変わった。


「戦う前に負けることを考えるバカはいないわっ!」


 令嬢のビンタが、リポーターに飛ぶ。 


「下がりなさい!」


 怒号を令嬢から受けて、レポーターは引き下がった。続いて、ケルベロスにマイクを差し出す。


「いよいよメインイベントの直前と言うことですが、どう戦いますか?」

「時は来た。それだけだ……」


 中央の頭が、発言する。

 他の二つの頭は、笑いを堪えていた。マイクを向けられても、答えられないでいる。


「では、シチサブローイチボー審査員にお伺いします。相手は負ける気がまったくありませんが、いかがですか?」


 マイクが視界に入ったが、シチサブローはリポーターに顔を向けない。黙々とドラゴンのシッポを焼く。


「だろうな。まあ、さっき吐いたセリフを飲み込むなよ、とだけ言っておくぜ」


 侯爵令嬢が、シチサブローの挑発に反応する。リングサイドにあった木製のイスを掴んで、投げ飛ばそうとアピールまでしてきた。ケルベロスが火球を吐いて、イスを破壊したが。


「以上です。実況席にお返しします!」


『はい。ありがとうございました! 場外乱闘はおやめください。場外乱闘はお控えください。あくまでもリングの上で戦いましょう。フェアプレーの精神です。では、興奮冷めやらぬままですが、試合を開始します!』


 協会長が呆れる中、ゴングが鳴った。


 皿の上にあったドラゴン肉が、一瞬で消えてしまう。三匹仲良く、肉を頬張っていた。


『あーっと、「待て」を言う間もなく秒殺! 侯爵令嬢失格です! これはあっけない幕切れだ!』


 会場からは、「やっぱりな」という空気が流れている。集中力もない、信頼関係も乏しいとはっては、負けは目に見えていた。


「おやおや飼い主くん、さっきの意気込みはどうしたんだ?」


 ここぞとばかりに、シチサブローが相手を侮辱する。


「食べる早さも、食らいつく早さも三倍だったな! 我慢強さは三等分されていたか? そんんなショボい信頼関係で、よくS級を受けられたな?」 

「へなちょこ胃袋」


 テルルも便乗した。


『さて、試合は終了しました。負けた選手は退場願います』


 侯爵令嬢が、肩を怒らせながらリングから降りる。


 試合内容に不満があろうが、これは試験である。結果だけがすべてだ。


 だが、どうしても納得できないのだろう。令嬢は、側にあった木製イスを掴む。 


「真面目にやりなさいよコラ!」


 またしても、木製イスが宙を舞う。


 ケルベロスが火球を吐き、またもイスが灰になった。


「何が『時は来た』よコラ!? こっちはS級の昇格がかかってんのよ! あんたらの食欲を満たすためになんかで、試験に来ていないの! わかってんの!?」


 侯爵令嬢が、汚い言葉で飼い犬を責め立てる。


「やかましいわコラ! 頭三つ分の指示を出さねえということ聞かねえって、わかってんだろうが。人のせいにすんなやコラ!」


 飼い犬も黙っていない。


「あんたは頭が三つあっても、わたしの身体は一つしかねえのよコラ! ちょっとくらい忖度して指令が聞けないのかコラ!」

「なにがコラじゃコラ!」

「なにコラッ! タココラアッ!」


 召還師協会の役員が割って入り、両者ともつまみ出される。


「さ、さて、シチサブロー審査員、見事な瞬殺でした。もしかして、見下されたことを怒ってらっしゃいましたか?」

「キレてはいないさ。オレをキレさせたら大したもんだ。ただ、テルルを侮辱するなら許さなかったが」


 自身のふがいなさを、召喚獣にぶつけても仕方ない。

 場外で暴れるヤツなど、論外だ。召喚獣に手をあげるなど、お門違いもいいところである。

 悪いのはすべて、意志の弱い自分自身なのだから。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る