第27話


 〝今から行く〟とメールがあったのが今から約10分程前、だというのに…


 「おいっすー鷹宮。元気だったか?」


 もう家の前にいるし。こいつの家そんな近いわけでもなかったのに…。


 「その挨拶するにはまだ早いぞ20時になってない。変わらずいつも通りだ」


 オレのそんな返答にニカッと屈託ない笑顔を浮かべて返してくる。


 「相変わらず細かいなぁ。お前また背のびたな。今いくつだ?」


 「別に細かくねぇだろ。今180だ」


 普段よりも気怠げに返す。


 玄関先でこんな他愛も無いやり取りをするこいつは 雨野あまの 慶介けいすけ クラスは違ったが小中学校が同じで、オレとは別の高校に通っている同級生だ。


 こいつと会うのはもう1年ぶりぐらいになる。久しぶりに連絡したかと思えばいきなり押しかけてくるとはな。



 「ここで立ち話するのもさっさと上がろうぜ」


 そう言って雨野は鍵を開け普通に入っていく。


 「ちょっと待てやコラ」


 別に開けた事は不思議ではない。コイツは小学生からの付き合いで唯一オレの事情を知っており、孤児院にも入り浸り遊んでいたので灯や晶なんかの孤児院組とも中がいい。


 その過程で頼み事する事もよくあり合鍵を渡しているので別に不思議ではない。


 「え、なに?」


 「なに?じゃねぇよ。何で家主が目の前にいるのにお前が招き入れるポジションなんだよ」


 雨野にとっても勝手知ったる家とはいえオレの家よ?普通逆じゃない?


 「まぁ、細かい事は気にせずに。ほらほら」


 そんな事を宣いながら手招きする雨野。


 「細かいか…?」


 結局大人しく入っていくオレ。まぁ、自分の家なんで普通に入りますけど。


 





 荷物を置き二人でキッチンに立つ。もう夜なので今から夕飯作りだ。


 どうせコイツも食ってくだろうから当然手伝わせる。今日の夕飯は親子丼だ。


 「よし!鷹宮何作るんだ?炒飯か?」


 手洗いなどを済ませた雨野が訪ねてくる。


 何故炒飯?


 「親子丼だ」


 「炒飯なら任せとけ!」


 「親子丼つってんだろが!」


 鈴宮とはまた違った騒がしさで調理を進めていく。




 「いやぁ〜美味いな!」


 「ああ、美味いな」


 結局オレ達は炒飯を食べている。


 あれから雨野が炒飯の魅力を語り始め非常にウザく炒飯に変更した。


 「鷹宮の技量とオレのカッコイイ塩振りテクのおかげだな!」


 「何が塩振りテクだよ。その場でカッコいい塩の振り方って検索して動画見ながら振ってる時点でカッコ良さもクソもないだろ」


 「大丈夫!オレはカッコいいつもりだから。次からは動画通りできる。具体的には来週の調理実習で。炒飯の予定だからな」


 コイツ…


 「オレとお前学校違うから調理実習関係ねぇじゃん。お前もしかしてその塩振りのためだけに炒飯ごり押ししたのか?」


 「それもあるけど普通に鷹宮の作った炒飯食べたかったから」


 「だったら回りくどい事してないで普通に食いたいって言えボケ」


 「はぁーい」


 約一年ぶりとはいえ全く変わらんなコイツは。





 食事も済ませ居間の大画面で二人仲良くテレビゲームをする。


 二人プレイ可能なシューティングゲームである。


 「それでお前は今日何しに来たんだ?真面目な話」


 それが気になっていた。来るとは連絡あったがそれでも急すぎた。


 「真面目な話、ねぇ。…正直に言えばお前の事が気になってたからだな。去年の翔君の事があって死ぬほど落ち込んでて今にも死にそうな顔してたし、オレに出来る事なんて無くてこういう時はそっとしとくべきだと思ってたら思いの外色々と忙しくて気が付いたらあっという間に一年。当然ずっと気にかけてたんだけど最近元気になったってきいたから突撃したの」


 …小学校から中学校と腐れ縁みたいな物だったけど…

 そうだよなぁ。思い起こせばコイツはいつもオレの事を考えてくれてクラスが変わってもオレが一人の時はよく話に来てくれていつも助けてくれる。


 今まで考える事がなかっただけでオレにとってコイツはきっと−


 「…ありがとな」


 「マジか。オレ鷹宮のありがとうを聞いたの初めてだ!」


 「オレだって礼ぐらい言える。…お前には色々助けられたからな」


 どう言葉にしていいかわからないぐらい助けられた。オレも少しはこいつの助けになれるだろうか。


 「あっそうだ。言おうと思ってだけど忘れてたわ。オレ彼女できた」


 「そうか。おめでとう」


 「あれ?リアクション薄くない?感情生きてる?」


 「別にお前ならいつ彼女できてもおかしくないからな」


 雨野ならいつできてもおかしくないのだ。いつもクラスの中心にいて明るく誰にでも話しかけられる。それでいて勉強も運動もできる。


 そんな奴に彼女できない方がおかしい。


 「これは褒められてるのかな?いやーでも初めての彼女だから接し方というか全てが初めてだからさぁ、どうすればいいかわかんないんだよなぁ」


 「初めてならわからないのはしょうがないんじゃないか。むしろわからない事をこれから二人でどうやっていくかが大事なんじゃないの?」


 「流石鷹宮いい事言うねぇ。色んな所デートしてキスもしてその先もしたいそんな色んな感情が渦巻いて爆発しそうなんだよ。そこんとこ鷹宮はどう?やっぱり鈴宮さんとSEXしたい?というかもうした?」


 雨野でも恋愛事だとこんなにも悩むんだな。


 「どうと言われてもなぁ。オレだって男なんだからそりゃしたいよ。でも別にそうゆう事はしてなーぁああ⁉︎」


 何どうゆこと⁉︎今普通に受け答えしてたけどコイツ今鈴宮って言わなかった?


 オレはあまりの事にゲームそっちのけで雨野を問い詰める。


 「何でお前が鈴宮知ってんだよ‼︎」


 「待て!落ち着けって!死ぬ死ぬ‼︎ああバカ!鷹宮死ぬぞ!」


 画面からオレの機体が撃墜され派手に爆発した音が響くがそんな事はどうでもいい!


 「どうでもいいわ‼︎こっちの方が優先だボケ!」


 「だから落ち着けって!灯ちゃんだよ、灯ちゃんから聞いたんだ」


 まさかの人物から情報漏れが。


 「何で灯なんだよ。そんな接点あったのか?」


 「いやぁオレ達未だにメル友だし」


 「…クソが」


 思わず悪態がでる。


 「口悪っ!全くそんな口悪いと可愛い鈴宮さんに逃げられちまうぞ。あんな可愛い子逃したら損だよ」


 「口の悪さは生まれつきだからほっとけ。つかなんだ可愛いって、何でそんな事言えるんだよ。会ったことねぇだろ」


 「会ったことはないけど見たぞ。灯ちゃんから連絡来た後一目見ようと思って数日前からこの辺ぶらついてたんだよ。そしたらお前と二人でいる所を見ちゃったんだよねぇ〜」


 「キモっちわる⁉︎ストーカーかよ!」


 タイムマシンとかないかな。あったらその時に戻って血眼で探して始末するのに。


 「めっちゃお似合いだったじゃん。二人でいる雰囲気がもう付き合ってだいぶ立つ感あったぞ。今度ダブルデートしようぜ」


 「しないよ。てか付き合ってないし」


 「大丈夫お前なら行ける。行け」


 「行くかボケ。つーかもう夜遅いけど今日どうするんだ?泊まってくか?」


 昔はよく泊まってたから今じゃなんの抵抗もない。

 慣れって怖いな。


 「いや親にも何も言ってないし今日は帰るよ。そろそろ帰らねば心配かけるしもう行くよ」


 「…わかった」


 雨野は荷物を取り玄関へ向かう。オレはその後ろを見送るためについて行く。


 ささっと靴を履いて外に出る。そろそろ別れの挨拶を、といった所で雨野が切り出してくる。


 「そだ鷹宮。今週の土曜開けててくれ」


 「いいけど、どうしたんだ?」


 「久しぶりに出かけようぜ」


 昔と変わらない屈託ない笑顔を浮かべそうな事を言う。


 …悔しいけどやっぱりコイツはカッコいいと思う。オレならこんな風に言い出せなかったはずだ。


 「おう。開けとく」


 「それじゃまたな!」


 「ああ、またな」


 久しぶりに寂しいと感じる。


 灯や晶達とはまた違った意味で素の自分を出していたからだろうか。


 寂しさと同時に少し土曜が待ち遠しく思う。

 

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いまこの瞬間が止まってしまえばいいのに @Karamtyi

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