第26話
鈴宮と夏祭りに行った日から5日ほど経ち今日からまた学校が始まる。
右京がアホなため夏休みの宿題を全くやっておらず縋りついてきた為貴重な残り少ない休みを右京の宿題に費やした。
おかげでしばらくは鈴宮家にも行ってなかった。
久しぶりの登校は道中誰にも遭遇する事なくすんなりと教室にたどり着いた。
約一月ぶりの教室、クラスメイト、去年までは慣れたものでなんともなかったが今年からは友達もできクラスにも馴染んでいた。
少し不安になる。
長い休みに入り皆と会う機会が減り鈴宮とも5日会っていない。それだけで距離感を取りあぐねてしまう。
クラスに馴染んでいたつもりでそれが僕だけだったらと思うと怖くなる。
そんな諸々の気持ちを抱えながら教室に入る。
皆夏休みは何した、何処に行ったなどの話しで盛り上がっている。そんな中僕は自分の席に向かう。
「おはよう辰巳!最近来なかったけど夏休みの宿題やってなくて忙しかったの?」
鈴宮だ。鈴宮も皆とお喋りしていたのに僕が来ている事に気づいてハキハキした声で挨拶をしてくる。
「おはよう。僕はちゃんとやったよ。やってなかったのは右京の方で助っ人を頼まれて忙しかったんだ」
これまでと何一つ変わらず話しかけてくれる。
挨拶から始まった他愛無い言葉。なのにたったそれだけで僕の感じていた不安を吹き散らしてしまった。
眩しいなぁ。ありがとう鈴宮。
「おう!久しぶりだな辰巳。元気してたか」
「鷹宮君助けて!宿題がまだ終わってないの!」
「こら葵!まだ時間あるんだからギリギリまで自分の力で粘りなさい!」
「僕は変わらず元気だよ。葵さんは…そんな必死になるほどやってない所が多いんだね」
司に葵さんと続いて北本や坂上と馴染み深いクラスメイト達が声をかけてくる。
自然と口角が上がってしまう。
「急にニヤけてどうしたのよ。何か変な妄想でもしてる?」
「してないしてない」
僕は僕が思ってたよりもずっとクラスに馴染んでいたようだ。
今日は基本的に始業式がメインでそこまでガッツリ授業をする訳でもなく翌日からの時間割や連絡事項などの確認、宿題の提出についてなどだ。
「辰巳今日はもう帰るのか?」
帰り支度を済ませた司がこの後どうするか尋ねてくる。
「いや、今からちょっと学食に行ってくる」
「今日は学食空いてねぇんじゃねぇか?」
「うん。空いてはいないけどスペースは開放されてるからね。これから右京の助っ人に行ってくる」
「…アイツまだ終わってなかったのか」
「ああ、提出のタイミングは各教科の先生によるしな。今回は偶々次の授業の時にってなったらしいから今日で追い込むらしい」
「ほーん。なぁ、俺も行っていいか?今日予定無くて暇なんだよ」
「別にいいぞ。それじゃあ行きますか」
「おう」
…こいつに押し付けてしまおうかな。なんて邪な事を考えながら司も行く事を連絡し学食へ向かう。
「いやぁ〜先輩方よくぞいらしてくださいました!ささっ此方へどうぞ!お飲み物はカフェオレでございます!」
食堂に着くなり異様なテンションの右京に案内され席に着き一言礼を言いドリンクを受け取る。
どれだけ追い込まれてるんだ?
「それで宿題は後どのぐらい残ってるんだ?」
司が早速本題に切り込む。
「そうっスね。…数学が一冊」
「一冊ってなに。まさか何一つ手をつけて無いのか⁉︎」
司が驚愕を露にしてツッコむ。
まぁ、そうだよね。今日じゃ無くても明日には提出しないといけないだろうけども全くやって無いなんてもはや諦めるレベルだと思う。
「違うんスよ!休み明け直前に学校に忘れてるのに気づいただけなんですよ!気づいてたら間に合ってました‼︎」
「小学生みたいな言い訳してるんじゃねぇよ!そもそも直前まで宿題をやろうとしないから気づかないんだよ!その時点でほぼアウトだよ!」
「先輩。僕を舐めないでいただきたいですね。」
「な、なんだ急に」
急に落ち着いた右京に司が戸惑う。
だいたい想像はつくのだが。
「夏休み初日には気づいてました!一度気づいたうえで忘れたのでセーフです!」
「どっちにしろダメだわっ‼︎気づいたんなら取りにいけ!何脳から消し去って夏休み満喫してんだ!」
うむ、一部の狂いもない程完璧に想像通りだ。そして司の返しも超ド正論。
「ちょっとアンタ達。こんな所で何騒いでるのよ」
鈴宮だ。とっくに帰ったと思っていたんだが珍しいな。
葵さんも一緒にいるし宿題かな?
でも熊谷も氷室もいるが一体…
そんな事を考えてる間にも鈴宮と司の会話は進む。
「こっちは右京の宿題だよ。そっちは?」
「こっちも葵の宿題よ」
「まだ終わってなかったのか…。そちらのお二人さんは?」
司も気になったのか熊谷と氷室に問いかける。
「あっと…その、私もやり残したものがあって」
「私は暇だからついてきた」
氷室がやり残しすとはな。休み初日に全部片付けるタイプだと思ってたんだがなぁ。熊谷は意外性も何もない。
「珍しいメンツだけどせっかくだから皆こっちでやろうぜ」
司が一緒にやろうと提案をだす。
もしかして皆で集まったドサクサに右京のも一緒にやらせる作戦か?採用。
「こっちは別にいいわよ」
鈴宮は即決だった。葵さんは返事する気力もない様だが大丈夫だろうか。
「熊谷さんはどうかな?」
「私は氷室がいいならいいよ」
「それじゃあ私達もよろしくお願いします」
「おし!そんじゃまぁ、皆座って座って」
そんな司の掛け声で皆僕達の周りに座る。
はい、皆さんご一緒に勉強会になりました。
女子率高いなぁ。司は楽しそうだけど僕と右京はアウェイ感が。
「右京とりあえずテキスト開いて問題に取り組もうか。わからない所があったら随時きいてくれ」
「はい!お願いします!」
「右京!俺も頼れ!」
「司アンタは葵のを手伝って」
「いや俺には右京のがあるからちょっと…」
「辰巳がいれば充分でしょ」
自分から一緒にやろうぜ!と誘っといて葵さんの宿題からは逃げようとしとる。
一度やったとはいえ二年のよりも一年の右京のが簡単出し逃げ出したくなるのもわかる。
「司。こっちは僕に任せておけ」
でも助けない。下手に助けて巻き込まれたら困る。
「あの、鷹宮君。ここちょっとわからなくて教えてくれないかな。熊谷さんもわからないみたいで」
氷室がおずおずと問題文を指差しながら訪ねてくる。
僕も逃げられないようだ。
「そこはこの公式を使うと簡単だよ」
「なるほど。ありがとうございます」
丁寧なお礼を頂く。
「どういたしまして。熊谷よ、終わらせてる君がなぜわからないだ」
「終わった端から記憶から消してくからかな」
「まだ一月も経ってないだろうに消すの早すぎだよ」
これだとマジで見学に来ただけっぽい感じがする。
反対側では司、鈴宮、葵さんチームはかなりの激闘を用してる模様。激しいツッコミが聞こえてくる。
「だから何でそこでXが出てくんだよ!Xは一回置いとけ関係ねぇから‼︎」
「ええ⁉︎じゃあこのXは何処で使うの?あっもしかしてこう?」
「この数字はどっから湧き出てきたんだよ⁉︎全然違う‼︎」
「こことここをこうしたんだけど違うの?」
「違う‼︎この公式に当て嵌めて計算するんだよ」
あんな荒れ狂った司は始めてみたな。鈴宮は額に両手を当てて沈黙している。
葵さん意外にも勉強苦手なのな。何となく色々とそうなくこなすイメージがあったんだが。
そして氷室の方はもう終わったぽいな。右京のカバーに入ってる。終わらせてないのが珍しいと思ったが本当に少しだったようだな。こっちは葵さんと違ってあまりイメージを裏切らないな。
右京はやらないだけで地頭がいいから割とスムーズ出し葵さんには氷室がついてすでに三名体制だしちょっとトイレ行って何か買ってこよ。
右京は熊谷とマンツーマンでちょっと嬉しそうだし。
そのまま何も言わず食堂を後にする。
購買はもう閉まってるので学校からでてすぐそこのコンビニを物色。
コンビニに行くと必ずドリンクコーナーとデザートコーナー、そしてオニギリの新商品がないかをチェックする習慣がある。
そしてそのままカゴに入れてしまうんだよねぇ。
皆も何か食べるだろうし色々買っていくか。
おっ?肉まんの新味がある!当然買うが合わなかった時ようにつぶあんマンも買お。
サンドイッチやオニギリにちょっとしたお菓子も購入してコンビニをでる。
新作を物色したおかげでかなり時間をかけてしまったが皆忙しくしてたし僕が席を外してたのは誰も気づいて無いだろう。影薄いし。
学校からすぐそことはいえ荷物持ってだとちょっと疲れるな。かなり買っちゃったし。
出てきた時と同様無言で食堂に入る。誰も気づかないと思っていたのだが意外にも気付かれた。
「コラ辰巳!どっか行くならちゃんと言いなさい!いきなり居なくなったら心配するでしょ!」
「そうだ!しかも何だその荷物は!俺も連れてけ‼︎」
気付かれてたどころか怒られた上に心配させてしまった。司はちょっとズレてるけど。
こんな事でも見ててくれる人がいる。心配してくれる人がいるのはちょっとむず痒いけど嬉しく思う気持ちもある。
今日こんなに集まったのは偶然だけど僕の周りにはこんなにも集まってくれる人がいる。
「ごめんね。色々買って来たから皆で食べよ」
こんな時どう返せばいいか未だにわからない。
僕は成長しているのだろうか。
「わーい!鷹宮君大好きー!」
勉強に擦り切れていた葵さんが真っ先に反応する。
「先輩アザース‼︎」
「すまんな辰巳。しかしこんなに大丈夫か?」
「気にしなくていいよ。皆頑張ってたから僕からプレゼント。好きなのどうぞ」
「ありがとう鷹宮。ありがたく頂くよ。何があるかな?」
「鷹宮君ありがとうございます。私はサンドイッチをいただきます」
「じゃあ私もありがたく頂くわ。あっあんまんみっけ!」
⁉︎ まさかの鈴宮があんまん!前激辛マン食べてたからあんまんは食べないと思ってたのに。
思わず鈴宮を凝視してしまう。
「なによ。そんなに女の子が食べるところを見つめるなんて」
「まさか雑食か…?」
つい口からでてしまった!
「よくわかんないけどバカにされてる事は理解したわ」
鈴宮の瑞々しい白い腕が素早く閃き手のひらが僕の顔を包み白魚の様なしなやかな指が締め上げる。
「いだだだ!痛い痛い!ごめんなさい!悪気はないんです!」
アイアンクローが僕の顔に炸裂する。
何て力だ!全然引き剥がせそうにない!マジで強ぇ!
そんな僕達を見て皆の笑い声が聞こえてくる。
それから数時間。外もすっかり暗くなりみんな揃って学校を後にする。右京は熊谷とマンツーマンのおかげでかなりのペースで進めたため普通に終わった。葵さんは司の犠牲の果てに何とか終わった。
今日だけでかなりみんなでの仲が深まった様で今度何処かに遊びに行かないかと計画までしていた。
皆とも別れ鈴宮とも別れ一人帰り道を歩く中メールが届く。
そこには『おーっす!今から行くからよろしく!』とあった。もう夜なんだが。
…めんどくせぇ
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