第21話


 鈴宮ママさんとの会合から2日たった学校でのお昼時間、僕はいま3人で昼食をとっている。


 司と右京の3人で。



 鈴宮は委員会、葵さんは既に他の友達との予定ありとの事だったのでいつもの場所に行こうと思ったのだが。


 「よし辰巳今日は右京も誘って飯食おうぜ」


 司がそう言ってきたので右京も遠慮なく巻き込んだ。


 現在僕達は一階から二階に上がる階段裏にあるスペースにいる。そこそこの広さがあり誰が置いたのか椅子と机がある。


 ここは右京のベストスポットらしい。流石右京だ。こんなところを見つけるなんて同族なだけある。



 「にしても突然だったので驚きましたよ。どうしたんですか?」


 「さぁ?僕もわからん。司がいいだしたんだ」


 「いいじゃねぇか。ボーイズトークだよボーイズトーク」


 「ええ…なんですかその花の欠片もないトーク」


 「辰巳の後輩なんてレアだからな興味があるんだよ。葵と玲香も気にしてたぐらいにな」


 後輩ができただけでか?僕の事なんだと思ってるんだ。


 「そんな事で目をつけられるんですか…でもちょっといい気分ですね。人気者な気分です。」


 ポジティブすぎるでしょ


 「そんな訳で話そうぜ。まず好きな奴はいるか?ちなみに俺は葵だ」


 いきなりそこから行くか。司ってもしかして意外と恋バナ好きか?


 「唐突すぎません?普通に恥ずかしいんですけど」


 「いいじゃねぇか。言っちまえよ」


 「ええ…まぁ、西野先輩の好きな人聞いてしまった訳だし…僕は熊谷先輩ですね」


 「マジか!すげぇ意外な所いったな!なんかきっかけとかあるのか?」


 確かに意外だ。接点とか無さそうだし気になるな。というかずいぶん素直に喋るな。


 「別にきっかけと言える程の事は無いですが同じ図書委員なんですよ。そこから話すようになってそこから自然とです。恋は衝動なんです」


 衝動…


 「応援するからな!なんかあったら言えよ手伝ってやるぜ!」


 「え?いい人すぎません?お願いします。ちなみに鷹宮先輩は?」


 お願いしちゃうのかよ。しかも矛先がこっちむいた。


 「辰巳は玲香はどうなんだ?」


 「好きだよ。ただまぁ、僕にもいろいろあるから」


 「いけばほぼ確実にイケると思うが気持ちの問題は大事だしな」


 「…鷹宮先輩。僕ならいつでも聞きますよ」


 「俺にもいつでも来い!」


 この2人意外と鋭いから何か察したのかな。


 「ああ、ありがとう」


 「まぁ、お前いつの間にか解決してそうだけどな。…ところでさっきから気になってたんだが何食ってんだ?」


 ? 昼なんだから昼飯に決まってるだろう。ああ、新商品だから気になるのか。


 「サイダープリン。カフェオレ味。BIGサイズだ。」


 プリンの中に知育駄菓子のパチパチするパウダーが入ってる。正直美味しくない。


 「お、おう。それ昼飯なのか?」


 「というかそれ美味しいんですか?」


 「うん。これがお昼だよ。ゼリーにしよかと思ったんだけど気になって、BIGだったし一つでいいかなって。あと全然美味しく無い。普通にカフェオレプリン食べたい」


 「サイダープリンって名前からして地雷臭がするのによく買いましたね…」


 「これは偏食が悪化したか?玲香に言っとくか」


 何故鈴宮に?とりあえず大変な事になるのはわかる。だからやめてね。


 とりあえず今度右京のために熊谷から連絡先もらってこよう。








 そんな事があった日の夜時刻は亥の刻21時である。


 今日も晩ご飯は鈴宮家で頂き既に風呂も済ませたのだが右京から突然ラインがきた。この時間から学校に来て欲しいとのことである。明日も学校なのに何を考えているのやら。



 適当なジャージに着替え学校に向かう。正直めんどくさい。



 さて、学校正門前に着いたがまだ僕1人だけだ。夜道は街頭があるが学校には明かりが無いため真っ暗だ。夜の学校は怪談の舞台になる事が多いが納得だな。幸い今日はまだ月明かりがあるからいいがそれでも入りたいとは思わない雰囲気だ。



 「お?辰巳?こんな所でどうしたんだ?」


 司だ。むしろ何故司こそここにいるのか謎なんだが。黒のパーカーに白シャツ、丈が脛までのブラックパンツに白のサンダル、ジャージ姿の僕と違ってこんな時間でもオシャレだ。


 「僕は右京に呼ばれて。司の方こそなんでこんな所に?」


 「マジか。俺も右京に呼ばれてきたんだよ。」


 「司もか。一体何の為に呼ばれたのか」


 「先輩方お待たせしました!おお!鷹宮先輩髪を上げてイケ宮先輩ですね」


 元凶遅れて登場。僕と同じでジャージ姿だが僕のは黒に赤のラインがあるのに対して右京のは完全に真っ黒だ。


 「こんな時間に僕達を呼び出して何の用なんだ?」


 「実は先輩達に手伝って貰いたい事がありましてね」


 「手伝うって学校でか?」


 「はい。教室に忘れ物をしましてね。それをどうしても今日中に回収したいんですよ」


 コイツ正気か?


 「…そんな事でかよ。何を忘れたんだ?今日じゃないと駄目なのか?」


 司も呆れた様子だ。まぁ、何か理由があるみたいだしそれ次第か。


 「実はですね、エロゲーを忘れたんですよ…今朝買ったばかりの新作」


 「……僕は帰るよ」


 「ちょっと待ってください!さらに深い訳があるんです!」



 …さらに右京から聞き出したのだが今日職員室をたまたま通りかかった時に翌日に持ち物検査をすると聞いたらしい。

 これがただのゲームならよかったがエロゲーが見つかったら教室は地獄と化すだろうな。


 ちなみに司はこの話しを聞いて大爆笑だ。なにがツボったのか。


 「で、今日中に取りたいから侵入すると。用件はわかったが僕達必要?」


 「今日同じ机を囲って飯を食べた仲間じゃないですか!3人いたら絶対楽しいですよ!何より寂しくない!」


 馬鹿ですか?


 「帰ってもいいですか?」


 「まぁまぁ、此処まで来たんだし行こうぜ辰巳」


 「ええ…」


 「こういう馬鹿やるのもいい事だぜ。今はダルいしめんどくさくてもいつかは笑えるいい思い出になるぜ」


 …いつか笑える思い出……


 まぁ、此処まで来たんだしいっか。


 「はぁ、わかったよ」


 「西野先輩いい事言いますね。ありがとうございます!鷹宮先輩もありがとうございます!」


 「おう!決まったならサッサと行こうぜ」


 「その前に皆さん携帯をこちらに、袋に入れてここの茂みに隠しときます。いざという時に鳴ったら困るので、あと学生証もお願いします。雰囲気が出るんで」


 そう言って受け取った携帯をまとめて袋に入れ茂みに隠す右京。学生証はそのまま全員分持っとくらしい。映画の見過ぎじゃないか?


 「逸れる事はないと思うけど万が一の際はどうやって連絡とるんだ?」


 「大丈夫です。こんな事もあろうかとトランシーバーです。どうぞ」


 そう言って僕と司に1つづつ渡す。

 マジかよコイツ。しかもこれ前にネット広告に載ってた最新のやつだ。


 「二階に鍵が壊れて閉まらなくなった窓があるのでそこから侵入します。ルートはある程度決めてるので僕が先導します。施設巡廻してる方がいるので後方の警戒お願いします」


 「おう!」


 「うぃ」


 やる気がない返事が僕だ。そんなこんなで僕達は夜の学校に侵入していく、入りたくないとか思ってたのに。



 「! 足音だ。向こうから人がくる隠れろ。」


 右京の教室がある階まではスムーズに来れたのだが司が足音を察知しため目的の教室を目前にして僕達は曲がり角に屈み背を預け隠れる。


 明かりをつけていては見つかる確率が上がるからとライトもない。月明かりがあるからいいが逃げるために駆け出すと危ないし月が雲に隠れたらマズイのではないかと思う。


 話しは戻るが現在隠れんぼ中、ここには枝なんてないからアニメや漫画みたいに枝を踏んで見つかるなんて事はない。


 この校舎は真ん中の中央階段とは別に両端にも階段がある。僕達はそこを上がって来ており巡廻してる警備員のおじさんは反対側からきてこれから中央階段を上がろうとしている。


 そのまま上がり始めれば気配を殺して教室に行き物を回収して警戒しながらの脱出でクエスト達成となる。


 「ゲェェップッ」


 !? 隣から聞こえてくるゲップ音。突然の出来事に僕は目を見開き身体に力が入っているのが鏡を見なくてもわかる。


 「すまん!夕飯ガッツリ食った上にここに来る途中にコーラ1本飲み干しちまったからついでちまった!」


 司が犯人だった‼︎意外性No. 1だよ!

 夜の校舎は不気味な程静かだったせいかそのゲップ音は嫌なほど響き渡った。




 「そこにいるのは誰だぁぁァ‼︎」



 中央階段の方からおっさんの怒鳴り声が響いてくる。


 「ヤバイ!逃げましょう!」


 右京の合図とともに背後にある階段に向かって僕達は足音も気にする事なく全力で駆け出す。


 階段に辿り着き僕は下へ2人は上に。


 いきなり逸れた‼︎


 「待てぇ!逃がさんぞ‼︎」


 しかもこっち来た!


 僕は全速力でひたすら階段を駆け下り校舎から飛びだす。明かりが無いせいでとてつもなく走りづらいしかもまだおっさんついて来てる。


 月が雲に隠れ微かな明かりもなくなってしまう。いきなりの暗闇に目が慣れきらないなかとりあえず走る。みんなは無事なのか?


 僕はトランシーバーを持ってる事を思いだしポケットから取り出しみんなは無事かと連絡をとる。


 「こちら鷹!省略しても誰か分かると信じる!ちなみにまだマラソン中!みんなの状況はドウゾ!」


 追ってに聞こえたら困るので名前は伏せて通信する。


 『こちら西。同じく省略。逸れて1人だがこちらは無事だ。とりあえず脱出して正門前に集合しようドウゾ』


 司は落ち着いてるし問題無いようだ。コイツのせいだけど。


 『こちら右!了解!…これで大丈夫かな?聞こえてるかな?…あっヤベッ‼︎』


 最後は右京だったがアイツ自分が買ったやつなのにもしかして使い方知らないのか?しかもなんか最後不穏な感じで切れたが…。 まぁ、了解って言ってたし信じよう。


 とりあえず僕が一番ヤバイ状況のようだし早く振り切らなければ!



 月明かりもなく見えないなか僕はガムシャラに走り続け壁にぶつかりガシャンと鳴る。


 「うごっ!」


 くっ!変な声がでてしまった。


 壁は壁だが高さは僕の肩口ほどでそこから上は金網フェンスになっている。


 これを登れば外かもしれない!そう思った僕は一心不乱に上りフェンスの外に飛びおりる。


 思ってたよりもずっと高さがない。だが僕はそんな事お構いなしに再び走りだし数メートル程で突然滑り前のめりに倒れたので僕は咄嗟に手を前に突き出すもバシャン!と音を立てて水に身体ごと落ちる。


 なんだ此処は⁉︎水⁉︎それなりに深いが足がつく。水があって足がつく程の深さでおそらくフェンスに囲われている……プールか!


 ヤバイ!早く上がらなくては!


 バシャバシャと音をさせながら上がろうとすると


 「プールで泳いでいくとはいい度胸だ‼︎」


 そんな声が聞こえガチャガチャと鍵を開ける音が聞こえてくる。


 違う!誤解だ!好きで泳いでるわけじゃないんです!

そう思いながら僕は再びフェンスをよじ登り飛び降りる。


 ここで時間を稼げたおかげか何とか逃げ切れた。それでも体感的に10分ほど走ったが。


 


 どうやら僕が最後だったらしくすでに2人がいた。無事に逃げ切れたみたいだ。右京は死にそうな程呼吸が乱れてるが。


 「…お待たせ」


 「おっ!辰巳無事だったか。ってどうしたんだお前その姿、ビッショビショじゃねぇか」


 「ああ、ちょっとプールに飛び込んでな。それで右京の方は?回収できたか?」


 「はい、無事回収できました。他の警備員に見つかるハプニングもありましたが何とか。顔も見られてないですし。ただ逃げてる勢いのまま教室に突撃したのでいくつか机を倒してしまったので明日早くきて直さなければいけないくらいですかね」


 「よし!ならとっととズラからろう。長居してもいい事ないだろうし」


 「鷹宮先輩!西野先輩!ありがとうございました!特に鷹宮先輩そんなずぶ濡れになってまで」


 「ただの事故なんだが、まぁ 気にするな。いつか笑えるようになるだろうさ」


 「明日もあるし帰るか!」


 「ああ、そうだな」


 そういい携帯を受け取って僕達は帰路に着く。





 「あれ?辰巳?」


 家の近くにあるコンビニに差し掛かったところで声をかけられる。この声は鈴宮か。


 「こんな時間に鈴宮はなにしてるんだ?」


 「私はコンビニ帰りよ。あんたこそずぶ濡れでなにしてんのよ」


 「…ちょっと通り雨にあってな」


 鈴宮の目がスッと細くなる


 「散歩してからコンビニ寄ったんだけど雨なんて降ってたかしら」


 「きょ、局地的な雨だったんだよ!」


 「へぇ。1人分程の局地的雨ねぇ」


 「そ、そう。1人分の超局地的雨だ!」


 く、苦しい。酸欠起こしそうな程苦しい言い訳だ。


 「ふぅ〜ん。まぁ、いいわ。あんた家ここから近くなんだっけ?」


 「ああ、そうだよ。だから心配しなくても大丈夫だよ」


 「そう。でも心配な物は心配だからこれあげる。出来立てだから食べてあったまりなさい。中身は肉まんよ」


 そう言って鈴宮は肉まんの入った包みを差し出してくるのでありがたく受け取る。


 何故肉まんなんだろう。冬だけど食べたくなるアイスと同じ感じかな?


 「ありがとう」


 「ん。どういたしまして」


 彼女はそう言って自分の分を袋から取り出し はむっと齧りつく。


 「あれ?これ…」


 そんな鈴宮を尻目に僕も肉まんに齧りつく。


 !?


 「みゃぐ⁉︎」


 何これ⁉︎かっらい‼︎


 「ごめん。間違えたみたい。交代しましょ」


 「…うん。それなに?すっごい舌がヒリヒリする」


 「激辛タバスコまんよ。顔まで赤くなってる。意外に辛い物苦手なのね」


 「いやそれが辛すぎるんだよ」


 まさかこんな時間に鈴宮と会うとは思わなかったが別れ道までの僅かな時間だがとても楽しいものだ。






 翌日のホームルームは我らが担任天羽先生からの連絡から始まった。


 僕達が原因のものだった。



 「実は昨日夜遅くに侵入者がいたそうです。走り回り大胆不敵にもプールで泳ぎ回った挙句に一年生の教室で机を薙ぎ倒していったそうです」


 プールのくだりで鈴宮がもしやって顔でこっちみてる。知らん、知らんフリだ。


 司は俯いている。葵さんが鈴宮と司の様子から何かを察したのか今度は司と僕を交互にみている。



 「皆さんも気おつけて下さいね〜。それと鷹宮君と西野君はこの後生徒指導室に来てくださいね」


 「はい」


 「…はい」


 司の声に元気がない。別に正体がわかるようなヘマはしてないはずだ。



 僕と司、2人が天羽先生に連れられ生徒指導室に行くとそこには右京がいた。右京も呼ばれたっぽいな。


 「みんな揃ったようね。それじゃあ単刀直入に聞くけど昨日の件心当たりあるかしら?」


 「「ないです」」


 僕と右京が口を揃えて返す。


 司がマジかよコイツらって目でみてる。


 別に証拠は残してないし顔も見られてない、ならばハッキリ言い切れば逃げれる。



 あれ?でもこれだけピンポイントって事は知らないうちに何か証拠を残してしまったか?


 「実は昨日の犯人達ご丁寧に身分証を置いていってくれてたの。…貴方達3名の学生証よ。犯人の1人が落としていったらしいわ。何かいい訳は?」


 「「「…いいえ、ないです」」」


 最後の最後に右京がヤッてしまっていたか。


 それから洗いざらい喋り流石に右京のエロゲについてはただのゲームカセットという事にした。今回は温情で厳重注意のみで済んだが教室に戻ると葵さんと鈴宮が待ち構えておりもう一波乱。だが右京の為にも僕達は黙秘を続け守りきった。








 今日も長い1日を終え鈴宮と並んで歩く帰り道。


 ふと一連の出来事を思い返すと思わず口元が緩む。


 「辰巳?急にニヤけ出してどうしたの?キモいわよ」


 「別になんでもないよ。あとキモくない」


 確かにこれは笑える思い出になりそうだ。いつか彼女にも話してみよう。


 彼女は笑ってくれるだろうか。笑ってくれるといいな。

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