第20話
日曜日の今日僕はいまケーキ作りに勤しんでいた。
仕上げのチョコレートコーティングもムラなくできザッハトルテが完成した。
我ながら会心の出来だ。久しぶりに作った割には上手くいって腕が落ちてない事に安心する。
充分に冷やしたのち包んで鈴宮家に向かう。普段作ってもらってばかりだからな。香澄ちゃんも喜ぶだろう。
鈴宮家に到着しチャイムを押す。鳴らされたチャイムの音と共に返事の声も聞こえてくる。
「はーい」
? 今の声鈴宮の声と違ったような…?
「お兄ちゃんどうぞー」
ガチャっと音共に香澄ちゃんが玄関のドアを開け中に入れてくれる。僕は招かれるまま中に入り後ろ手でドアを閉める。玄関には香澄ちゃんの他にもう1人女性がいた。香澄ちゃんはその女性にがっしりとしがみ付いている、母に甘える子のように。
…まさかこの女性は…
「いらっしゃ〜い。貴方が鷹宮君ね。玲香ちゃんは今でてるけどすぐ帰ってくると思うからゆっくりしてってね。私も貴方といろいろお話ししてみたかったの」
す、鈴宮ママさんだ!
「は、はい。失礼します」
そのまま連れられリビングでテーブルを挟んで対談している。
鈴宮に姉がいるとかは聞いた事がないので母親で間違いないだろう。すっごい若々しいホワホワした人だ。
「こちら、大した物ではないですが皆さんでどうぞ」
そう言って僕はケーキを差し出す。
「あら。そんなご丁寧に申し訳ないわね」
「お兄ちゃん。これなに?」
「これはチョコレートケーキだぞ」
「ホント⁉︎お兄ちゃんありがとうー!」
「どういたしまして。ちゃんと歯磨きするんだよ」
鈴宮ママさんがいた事は想定外だが香澄ちゃんは予想通り大喜びだ。
ママさんとは初対面のため自己紹介をする。
小百合さんというそうだ。名前も辰巳君呼びになっていて鈴宮との関係だったり学校での様子だったりといろいろと聞き出されてしまった。
話を一通り聞いて
「辰巳君ごめんなさい。」
そう言って小百合さんは頭を下げた。
「小百合さん⁉︎突然なにを⁉︎」
えっなに?僕何かしてしまった?
「玲香ちゃんから聞いたわ。辰巳君に助けてもらったって。本当なら私達がちゃんと娘達を見ていなければ行けなかったのに、それもできず小さい頃からしっかり者だった玲香ちゃんを仕事を理由によく1人にして香澄ちゃんの事も家事も任せっきりで苦労を押しつけて今も女子高生ぽいっこと何一つさせてあげられてない。でも香澄ちゃんもすごく懐いてるようだし玲香ちゃんも貴方の話しをする時だけは楽しそうだったり寂しそうだったり普段見せない顔をする事が多いの。」
鈴宮がいろいろな事を話していたのだろう。姉妹喧嘩の事も。
「だからありがとう。不甲斐ない私達に代わって娘達を助けてくれて、支えてくれてありがとう」
そう言って再び頭を下げる小百合さん。
そうか。僕は彼女達の助けに、支えになってあげられていたらしい。でも〝ありがとう〟はむしろ僕の方だ。
「頭を上げてください。それを言うなら僕の方こそ〝ありがとう〟なんです。鈴宮に出逢って世界は明るくなった。鈴宮のおかげで友達もできた。鈴宮、香澄ちゃんと過ごす様になってとても暖かくなった。僕の方こそ彼女達に助けられて支えられているんです。だから頭を下げないでください」
彼女達には比べ物にならない程に僕は救われている。
「…わかったわ。ここまでにしましょう。これからは私も休みが増えるから玲香ちゃんの時間も増えるからよろしくね。でも〝ありがとう〟はちゃんと受け取ったから貴方も受け取ってね。」
「はい!」
やっぱり鈴宮のお母さんなんだなぁ。ほんわかしてるのにキッチリしてる。
「ママー。お腹空いたー。」
どうやらお腹空いようだ。よく見ればもうお昼だ。だいぶ話し込んでいたらしい。
「あら、そうねぇ。お昼にしましょうか。辰巳君も食べていってね。」
「お兄ちゃん!またお兄ちゃんのオムライス食べたい!」
「香澄ちゃん、辰巳君にあまり迷惑かけてはダメよ。私が作るから」
「ええー!」
オムライスか。そういえば鈴宮が風邪を引いた時に作ったけな。余程気に入ったのかな?また食べたいとは嬉しい事を言ってくれるな。
「小百合さんよろしければ作りますよ。」
「いいのかしら。香澄ちゃんのワガママに付き合わせちゃってごめんね」
「いえいえ。任せてください。さっそく作ってきます。香澄ちゃんすぐに用意するからまっててね」
そう言って僕はキッチンで調理を始める。
前に作ったのはふわとろオムライスだったな。
ふわとろにするには中火でたまごを入れフライパンを前後に揺らしながら、たまご全体を箸でかき混ぜ半熟状態を作る。
半熟になったらフライパンに接地している部分を緩く固め、フライパンの端に卵を寄せて形を整えながらか返す。卵の閉じ口を上面に持ってきて、チキンライスの上に被せながら載せれば、ふわとろオムライスの完成だ。
人にもよるが僕はオムライスの上を切り開く派だ。
前に作ったのもそうだったので今回も切り開く。鈴宮の分も含めて4人分完成だ。食卓に運ぶか。
「ただいまー、今帰ったわよー。…た、辰巳⁉︎」
どうやらタイミングよく帰ってきたようだ。
まぁ、驚くか。帰ってきてみれば明らかに1人で調理したであろう料理を僕が1人で運んでいるわけだし。
「お帰り鈴宮」
「た、ただいま」
私は今4人でお昼を食べている。買い物から帰ってみれば香澄のワガママで辰巳がオムライスを作らされた後だった。
ママ達は辰巳のオムライスに舌鼓をうち香澄と一緒に辰巳に絡んでいる。
…悔しい事にめちゃくちゃ美味しい‼︎私ふわとろオムライスなんて作れないんですけど!
よく考えてみれば辰巳の手料理なんて初めてじゃないだろうか。いつも一緒に作るけど私がメインで辰巳は基本サポートといった感じだ。
辰巳が料理できるのは知ってたけどこんなにできるなんて。正直中学生レベルだと思ってた。
また辰巳の新しい一面をみた。辰巳は食べ方もすごい綺麗だ。前にだした焼き魚も骨が2、3本程除いてそれ以外は綺麗に形が残っていた程だ。私のと比べてちょっとショックを受けた程だ。
さりげない事から新しい辰巳を知っていく。もっと辰巳を知りたい。
辰巳は自分の事をまったくという程話さない。いろいろ教えて欲しいと思う。でも聞き出すんじゃなくて辰巳自身の意思で教えて欲しい。
だからいつか辰巳から話してくれるのを待っていよう。
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