第18話


 職場見学。それは読んで字の如く様々な職場の仕事っぷりを見て学ぶ事である。その目的としては卒業後の進路であり社会進出に向けてである。


 「鷹宮氏は何処に行くか決めているかい?」


 「いや、まだ何にも考えてない」


 たまたま近くにいた坂上が見学先について尋ねてくる。


 「班についてはどうでござる?」


 「そこもなんにも」


 今度は北本が班について尋ねてくる。何かしらアニメの影響でも受けたか語尾がござる口調だ。


 「鈴宮さん達と一緒にいかないので?」


 「ンー。まだ話してないしな」


 「以外でござるな。いつも一緒にいるから今回も一緒だと思ってたでござる」


 「別にそうでもないだろ」


 鈴宮だっていつも僕といたいわけじゃないだろうしな。




 僕達は職場見学の班決め中である。別に僕としては特に行きたい所があるわけでもないので余ったとこに数合わせでも入ればいい。


 「鈴宮さん一緒の班にならない?」

 「おい!俺が先に誘おうとしてたのに!」


 やはり鈴宮は人気だな。流石である。

 これは他のとこに行った方がいいか。


 「ごめん。私一緒に行きたい人いるから」


 鈴宮には行きたい人がいるのか。葵さんかな?


 「辰巳。見学一緒に行こう」


 「は?僕?」


 まったく想像だにしてなかったため驚いてしまった。まさか僕だったとは。

 鈴宮を誘っていた奴がこちらを指差し食い下がる。


 「もしかして鈴宮が一緒に行きたい奴ってソイツのこと?」


 「そうだけど。悪い?」


 「いや、ありえないでしょ」


 こいつのことよく知らないけど僕悪く言われすぎじゃない?


 体育祭で注目を浴びるようにはなったけどそれだけでカーストが上がるかといえばそうでもない。むしろ一部の人からはより一層疎まれている。


 まぁ、確かに今までずっと底辺にいて何一つ目立つ事なく話しかけられる事もない。

 体ていのいい優劣の比較対象、そんな明確な根暗ボッチが学年だけでなく他学年からもわざわざ教室に来るほど目立っているし見方によってはチヤホヤされてるようにも見えなくはない。


 人気者の鈴宮といるようにもなって溜まっていたヘイトがこれを気に吹き出したんだろう。いささかストレート過ぎるが。


 僕がなんと言われようがどうでもいいがこのままじゃ鈴宮が悪く言われてしまうかもしれない。


 「僕の事なんか」


 「別に私が誰と行こうが関係ないでしょ」


 すっごい遮られた。そんな被せて言わなくても。


 「それによくも知らないくせに私の友達を悪く言わないで!」


 「……」


 相手の男は黙りこみ立ち去っていった。


 まさか鈴宮がここまで思っていたとは知らなかった。


 「というわけでよろしく辰巳」


 「ああ、こちらこそよろしくお願いします」


 思わず敬語になってしまった。


 「それでどこにいく辰巳」


 「別に特に無いから任せるよ。それよりも他にはいないのか?」


 「葵達はもう班決まってるみたいだし他に余ってる人も見当たらないからいいんじゃない」


 「そっか。じゃあ2人で決まりだな」


 班も決まったし後は行き先を決めるだけだな。鈴宮任せだけど。






 久しぶりに4人集まって昼食をとっている。


 「葵達は接客系にいくんだ」


 「うん。いろいろ意見はあったんだけど最終的にはそこに着地したかな」


 「どんな内容なのか気になるな」


 やはり職場見学の話題で持ちきりだな。まぁ、特に理由はないけど皆が何処に行くかは気になるな。そう思い僕からも切り出す。


 「司のところはどこなんだ?」


 「俺のところか?こっちは丸投げで俺の好きに決めていいって言われたから動物病院だ。将来獣医になりたいからな。」


 「あんたが獣医ってなんか以外ね」


 「確かにな。具体的に何かって言われたら浮かばないけど。にしてもあの人数で好きに決めていいって流石人気者だよな」


 「人気者なら最近の鷹宮君も負けてないよね。よく女子と一緒にいるし」


 「えっ?誰なの?」


 「一緒にいる女子?鈴宮のことか?」


 「そうだけど、違うよ」


 …特に心当たりはないが。最近よく声をかけられるからそのことか?なんか鈴宮がすごい真剣な表情で何故か瞳が不安そうに揺れてるしハッキリ言っとこう。


 「あー。最近よく声をかけてくる子がいるからそれかな。先に言っとくけど何も無いぞ」


 「ホントに?」


 「ホントだよ」


 その子が何故そんなに話しかけてくるかわからないけど。


 「よくわからんが大丈夫か?」


 「うん」

 (何だ。彼女とかじゃないんだ。よかった。)


 「お二人さんや。ここ教室じゃよ」


 「そうだな。昼時で人がまばらとはいえな」


 どういう意味だ?むしろ次は移動教室で予鈴間近なのにまだ食べ終わってない君達の方が心配だが。


 「よくわからんがもうじき予鈴だから先にいくぞ」


 「え?あっ、本当だ!」


 「ヤベェ‼︎急げ!」


 「もう!辰巳もっと早く教えてよ!」


 「…すまん」


 結局なんとか滑り込みで授業に間に合った。







 放課後。僕は右京と牛丼屋に来ている。


 何故牛丼屋なのかといえば僕も右京も基本ボッチでアニメだったり小説だったりと偏った知識で男2人ならガッツリした飯食いながら友情を深める対談をすると思ってるからだ。


 2人仲良く牛丼を突きながら今日の出来事を話す。右京はなんだか考え込む仕草をしている。


 汁だく旨ッ!




 僕は今この前友達になった鷹宮先輩と牛丼屋にきている。放課後の牛丼屋に友達と来るなんてテンション上がる!


 先輩達2年は今職場見学の時期だそうでその事について聞いてみた。

 正直班決めとか自分達で決めるとか地獄かよ、とかいろいろ共感しながら聞いていたがちょっと大変すぎではなかろうか。


 体育祭後から教室とかでもよく鷹宮先輩の話はよく耳にするし今日も学校から出る時に声かけられてたしそれでヘイト溜まるとは。やはり陰キャが目立つとろくな事が無いんだな。


 …鈴宮先輩カッコいいな。そんなハッキリと叩きつけて鷹宮先輩を選ぶとは。


 そのまま話しは続き昼飯になったが鷹宮先輩が女の子とよく一緒にいるの件からの鈴宮先輩の様子が気になる。


 鈴宮先輩とは最近からだがよく一緒にいる事が増えたと言っていたので鈴宮先輩との出来事を掘り下げて訪ねてみる。


 一通り聴き終えたのだがこれは…鷹宮先輩に気があるのでは?


 人伝で直接見たわけじゃ無いから確かなことはわからない。けど聞いただけの僕ですらそう思うのだから直に接している鷹宮先輩は気づいているのでは?


 本当に気づいてないのか……それとも気づいてないフリをしてるのか。


 まぁ、今そんな話ししても僕にはどうしようもないので


 「ところで鷹宮先輩ラインてやってます?」


 全然関係ない話しを振った。


 「いや、やってないな。なんだそれ」


 「通話可能なチャットアプリですよ。メールとかよりも便利なようなので取りましょう」


 「ん?その話し方だと取ってないように聞こえるんだが」


 「基本ソロの僕が取ってるわけないじゃないですか」


 「……すまん」


 「…謝らないで下さいよ。悲しくなるじゃないですか」


 悲しみを抱えながら2人で初ライン交換をした。そのまま今期のアニメについて語り牛丼屋をでる。先輩の奢りでご馳走になってしまった。


 「ふぅ、美味しかったですね。ごちそうさまでした先輩」


 「おう」


 「ところで先輩。僕愛称で呼ぶのにちょっと憧れがあるんで呼んでもいいですか?」


 「別に構わねぇぞ」


 「ありがとうございます。では僕はここで失礼しますね」


 「ああ、またな」


 「はい。それではまたです。みーちゃん先輩」


 「ッ⁉︎」


 驚愕してる先輩を置いて僕はそのまま歩きだす。


 普通なら苗字からとるものだがそれだとタカさんとかタカ先輩になって危なすぎる刑事が脳裏に強く浮かぶので全く違う呼び名にした。


 いつか鈴宮先輩とみーちゃん先輩のやり取りを直接見てみたいと思いながら帰路につく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る