第17話
夢。私は今夢を見ている。
まだ小学生だった頃の私と今と変わらない辰巳がリビングで並んで座っている。小さな私も辰巳もずっと無言だ。
夢の中なのに季節も天気も移り変わっていく。晴れの日も、曇りの日も、雨の日も、雪の日も、ずっと辰巳は何も言わずにそこに居続けた。
無表情で無言だった小さな私は季節が変わっていくごとに背が伸び髪も伸びて成長していく。妹ができて私も少しずつ笑顔になっていきだんだんとお姉ちゃんとしての自覚もでて心配かけないように、無理をさせないようにと頑張り始めた。
その時、無言で座ったままだった辰巳が突然こっちを向いて言葉を発した。昔の私にじゃなくこの光景を見ている私にむけて。
「心配かけない、無理させない、って大事だけどそこに自分も入れなよ。僕も鈴宮を少しでも支えられる様に頑張るから」
余りの不意打ちにドキッとした。今まで気づかないフリしていたものを当てられ気がした。
どれもいきなりの事で反応する前に一瞬で景色が入れ替わる。
河原だ、なんでなのかよくわからないけど土手のある河原にいる。自分の夢ながら突拍子が無さすぎる。今度は一体何なのだろうか。
…辰巳がいる。青々とした爽やかさすら感じる土手の草原に高い位置で括った髪を靡かせ片膝立てて辰巳が座っている。
こんな所でなにを?とか思う事があったのだが横顔から覗く瞳に引き込まれそんな思考が一緒止まってしまう。
辰巳は時折消えてしまいそうな儚いと思わせる姿を見せる。何を映してるのかわからない瞳をする。
きっと体育祭の時見たあの光景のせいだろう。あの姿あの目が一際強く焼き付いているからこんな夢を見るんだろう。
いまも辰巳は変わらずに川を挟んだ向こう側の街並みを見つめ続けている。彼は今、一体何を思っているのだろう。そんな彼の姿を見ていると何故か悲しくなってくる。
彼のそんな姿が見ていられなくて声をかけようと口を開くと急激に遠ざかっていく。とっさに手を伸ばすもそのまま暗転し夢から目覚めた。
久しぶりに見た夢は余り私を良い気分にはしなかった。いろいろ考えさせられたし最初っから最後まで辰巳がいたし。
とりあえず私は朝食を済ませ身支度を整え学校に向かう。
体育祭も終わった週明けの月曜日。もう教室にいるのだが凄まじい視線の嵐に針の筵だ。まだ来たばっかだけどもう帰りたい。ボッチは視線に弱いからチラ見にも敏感なのにガン見とかもう、要領用法を守って適切に接して欲しい。
「オハヨー鷹宮」
「ねぇねぇ鷹宮君!どうして顔かくしてるの?絶対髪上げた方がいいよ!」
「鷹宮ってすごい髪長いよね。なんでそんなに伸ばしてるの」
「彼女っている?」
「普段休みの日とか何してる?」
あ゛あ゛取り囲まれた!普通の人ならモテ期来た!とか喜ぶんだろうけど全然喜べない。ていうか押し強くない?誰か助けて!
なんだか急に寒くなってきた上に背後にすごい気配を感じる。僕の周りにいた彼女達はそそくさと離れていったので背後を振り返る。
そこには鈴宮がいた。ブリザードを発しているように見える。眼光もいつもと比べ物にならないぐらい凄い、ライオンや虎とメンチ切り合ってそうなぐらい。
「どうしたの鈴?凄い機嫌悪そうだよ。」
「辰巳が女の子にモテモテだったからじゃないか?」
タイミングよく葵さんと司がやってくる。
「だって今まであんな不気味とか根暗とか言って近づきもしなかった癖にリレーの時の辰巳見ただけですごい掌返しよ、ムカつきもするわよ」
本当に鈴宮はいい人だ。いろいろと助けられてばっかだな。
「ありがとう鈴宮」
「どういたしまして」
まだ見られているが話しかけられるよりは大分マシだ。
担任がやってきてホームルームが始まる。しばらくは見られ続けるだろうが自然に収まるまで我慢するしかない。僕にはどうしようもないのだし。
そんな事を考えながら授業を受ける。
時は流れ現在お昼休み。僕は今少量のプリントの束を持って焼却炉に向かっている。夏休みも間近に迫ってきたため提出物が返却され出したのだ。
いちいち使いもしない物を持って帰るのも面倒なため僕は焼却処分する。去年もやったが焼却炉がある学校って便利だね。
焼却炉付近まで行くと誰かがいるのがわかった。学校指定のジャージを着てるので生徒だ。
ちなみにこの学校は学生でジャージの色が分かれている。3年は赤、2年は青、1年は緑といった感じだ。件の生徒は緑なので1年生だろう。
そこそこの紙束を黙々と一枚づつ燃やしているが遠目で見えにくいがプリントアウトされた写真に見える。
ちょっと気になったので足音を消して背後から忍び寄り覗きみる。
写真だ。それもイチャついてるカップルの写真、それをわざわざプリントアウトして燃やしてるとか中々ヤバイ奴なのでは?と思うが直感的に面白い奴な気もする。
「ウワッ!何⁉︎いつから後ろに⁉︎」
あっ。気づかれた。
「よう!お前と友達になりにきたんだ。よろしくな」
「えっ。何この人、怖ッ!」
ノリで変な事口走った僕も僕だけどそんなの燃やしてる奴にだけは言われたくない。
出会いこそアレだったがそれからアッサリ打ち解け仲良くなった。
社長の息子で食事会にも参加する事があるため一人称は本来オレのようだが目上などには僕と使うらしい。オレなどの一人称は威圧的でもあるため基本そういうのには向かないからいい事だ。
ゲームなどの話しも盛り上がり気がついたら一緒になってリア充プリントを燃やしていた。…なんか変な影響を受けた気がする。
学校も終わり靴に履き替え颯爽と校舎からでる。鈴宮はクラスメイトに捕まって何やらクレープ屋がどうたら話してたから遅くなるだろう。
どうせ今日は鈴宮家にいくからと香澄ちゃんを迎えて余りの暑さに2人でコンビニでアイスを買う。
香澄ちゃんは抹茶アイスだ。この年で抹茶アイスとは渋いチョイスだな。ちなみに僕は練乳たっぷり激甘カフェオレアイスで最近のハマりだ。
僕達が家に着いた約1分後に鈴宮が帰宅した。
「あれ?てっきりクレープ屋に行ったと思ったけど」
「行かないわよ。家のことやらないといけないし」
鈴宮は寂しそうな顔でそう言った。
そんな顔されたら放って置くことはできない。
「香澄もこんなに懐いて辰巳が来てくれるだけですごい助かってる。…香澄はあんまりパパ、ママって言わないけど我慢させてるのかもしれない。姉として私がもっとしっかりしなきゃね」
そういうことか。…鈴宮は昔の僕と同じだ。
共働きで家にいない事が多い両親、そして妹がいて我慢させないように自分がしっかりしなければという思い、そしてそれに自分自身が入っていない…
「辰巳?どうしたの?」
考え込みすぎていたか。
「鈴宮。僕と同じだよ。僕も妹弟がいてさ無理させないように、心配かけさせないように遊べるようにってさ。でもそこには自分が入ってない」
僕は彼女の目を真っ直ぐに見つめ伝える
「僕にも手伝える事があったら言ってくれ。下を持つものの先輩として手伝うから」
自然と子供を諭すような優しい声音になってしまったがうまく伝わっただろうか。
「…うん」
思わず返事してしまった。
あの夢のせいかつい弱音を吐いてしまった。そして夢と同じように私を支えようとしてくれる。
「あまり気負いすぎずに香澄ちゃんの事だけじゃなく自分の事も考えろよ。学校以外でな」
そう言われて寂しさが和らいだ気がした。私はすでに支えられているのかもしれない。
「そうだ鈴宮。これ最近僕がハマってるアイスなんだけど一口食べてみろよ。ハマるかもしれんぞ」
そう言って彼の食べかけのアイスを差し出してくる。さっそく気を使われちゃったかな?
「ありがと」
そう言ってアイスを頂く。
ん?食べかけ?
「って何これ、すっごく甘い!」
「練乳なんだが嫌いだったか?」
「甘すぎるわよ、まったく。…着替えてくる」
そう言って私はリビングをでて閉じたドアを背に両手で口元を覆ってへたり込む。
あぁもう!すごいビックリしたよー‼︎
別に辰巳からしたらなんでもない事、なんだろうなぁ。
なんか悔しい。
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