【三月二十四日】

「せーんちゃん」

「どうした、タケ」

 長哉が甘えた声をだし俺に背を預ける。人間で言えば五十歳を回ったおっさん同士で背中合わせ……少々見苦しい気もしなくはない。

「もうちょっとだね」

「早かったな」

「割とね」

 ダラダラと他愛のない話をする。長哉とゆっくり話すのはドックや配置替え等の関係で、ここ最近はあまり会う機会がなかったのでちょっと嬉しかった。山もオチもない話に少々退屈したのか長哉は大あくびをする。

「眠いのか?」

「ちょっとね」

 そう言うと長哉は勝手に俺の布団へゴソゴソと入っていく。

「寝るの?」

「入ってるだけ。前ちゃんライター貸して」

「そうか」

 灰皿と一緒にジッポを渡してやれば、長哉は満足そうに微笑んだ。

「お兄ちゃんは優しいなー」

「俺も吸うから、返せ」

二本の紫煙がユラユラと天井へと昇っていく。青白いそれは頼りない飛行機雲のようで少し面白かった。

「ねえ、前ちゃん」

「ん?」

「やっぱり、俺ここで寝る」

「狭いぞ」

「久ちゃんに出ていってもらう」

「そうか」

 さも当たり前のように久哉を追い出すと言い放つ長哉。いい考えでしょ? と言わんばかりの、その表情は久哉そっくりだった。

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