【三月二十二日】

 布団の上でゴロゴロと漫画を読んでいる時だった。

「前ちゃん」

「ん?」

「それ誰がくれたの?」

 そう言って久哉が指したのはモコモコのパステルピンクの靴下。どうやら前々から気にはなっていたらしい。

「ああこれ【ニシノ】がな、寒いだろって」

「……ズボン履けば」

 いいだろう? と見せると返ってくるのは可愛げのない正論。しかしながら、断言できる。来年の今頃、久哉はきっとズボンを履かない。なぜならば、我々の弟だからだ。

「この靴下、お前にやるよ。多分来年いると思うぞ」

「いらない。臭そう」

「お前……」

 言ってやったと笑う久哉を軽く蹴れば、分厚い靴下越しでもスネ毛の不快な感触が伝わってくる。

「久哉、スネ毛剃っとけよ」

「なんでだよ!!」

 新品のモコモコふぁんしー靴下がまだ五足あることを久哉はまだ知らない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る