第14話 ここで、初めて知り合いを尋ねたハナシ

 診療所の灯りは消えていた。

 周りの家々も同様で、一帯は宵の時間に相応しく静まり返っている。

 わたしは、診療所から少し離れた民家の影から様子を伺った。監視にはもってこいの場所だが、ここにはわたし以外に気配はなかった。後から来るか、わたしの勘違いかの二択だが、

 辺りに外灯はなく、空に浮かぶ二つの月明かりだけが唯一の光源だった。青と朱に輝く幻想的な月だが、今は悠長に月見はしていられない。

 民家は密集はしておらず、人が通れるほどの間隔が空いており、死角となる場所が多い。気配を探りながら、わたしは慎重かつ迅速に診療所の周りを巡った。間違いなく誰もいないことを確かめ、診療所の裏口を叩いた。間取りからして、彼らの居住エリアは二階。診療所の入り口を兼ねた玄関よりもこちらからの方が気づいてもらえると踏んだが、果たしてどうなるだろうか。もし、反応がなければ、着替えに使わせてもらった部屋から侵入するしかない。妙な胸騒ぎがして、こっそり窓の鍵を開けておいたが、その正体はだったようだ。

 わたしは音が響き過ぎないよう、慎重に裏口を叩き続けた。そろそろ侵入に変更するかと思ったその時、ドアのすき間から灯りが漏れ出てきた。

「何だ?またアランか?酒には呑まれるなとしつこく言ってるだろ!」

 間髪入れず、アレクロスの声が返ってきた。どうやら似た形で迷惑を受けてる酔っ払いがいるようだ。

「夜分にごめんね。確かに酒も飲んでるけど、呑まれてはいないよ」

「クラウン?どうした?宿は取れなかったのか?」

「ある意味、それは問題ないよ。でも、別の問題があってね」

「何の事だ?」

「とりあえず、中で話していいかな?それと、その手に持ってる灯りもすぐ消した方がいい」

「…」

 しばしの逡巡があるも、漏れ出る灯りは消え、裏口が静かに開いた。

「入れ」

「ありがとう」

 入ったそこは、キッチンのようだ。近くには食卓用のテーブルがあり、上には火の消えたランタンが置かれている。

「それでどうしたんだ?」

 出された椅子に座り、早速アレクロスが事情を尋ねてきた。

「残念だけど、詳しく説明できる時間はなさそうなんだ。だから端的に話すよ」

 わたしは医者に向き直り、こう言った。

「今夜、誰かがネイスを殺しにここ来る。彼を助けるのを手伝ってほしい」

 窓から差し込む月明りの中、アレクロスの顔が驚きに満たされるのがうっすらと見えた。

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