第2話。増えるわかめと広がる昆布

「ちくわ」


「わかめ」


「メダカ」


「かめ」


「メジロ」


「ろめ」


「め――芽キャベツ」


「つめ」


「め、め、め……って、なぁ。ろめって何だ?」


 放課後。晴れてしまったものは仕方がないので歯ブラシと封筒を手に花壇の前へと膝をついては淡々とひまわりの葉をめくる。


「とーごのしゅと」


「とーご……」


 その口ぶりからして国の名前なのだろうが、無知ゆえにまるでイメージが浮かんでこない。


「あふりか」


「あふりか……」


「きたはんきゅう」


「きたはんきゅう……」


「ちきゅう」


「ちきゅう……」


「たいようけい」


「たいようけい……」


「ぎんがけい」


「ぎんがけい……」


「うちゅう」


「うちゅう……」


「うめ」


「メダカ」


「めだかにかいめ」


「メダカは増えるからな」


「せんぱいのまけ」


「いつから俺はお前の先輩になったんだ」


「あなたのまけ」


「いつから俺はお前の夫になったんだ」


「うるさい」


「イトウ」


「うさぎ」


「そこは梅じゃないのか」


「うるさい」


「うるさい二回目だからこれで引き分けだな」


「う――」


「う?」


 途中で開きかけた口を閉じては黙りこくるそいつ。それとなく視線を向けては麦わら帽子からのぞくその無機質な横顔を静かに見守る。


「……うちゅうじん」


「んがついても負けなんだけどな」


 言いながらそっとその場に立ち上がっては、そろそろと校舎の時計を見上げる。時刻は午後五時四十五分。辺りはまだ当たり前のように明るいが、それでも早いに越したことはない。


「バスか?」


「じてんしゃ」


「乗れたのか……」


 何となく思っていたイメージと違って若干の驚きを隠せない。


「ばかにしてるか」


「いや? ただ送る必要はなさそうだなって話ではあるけどな」


「にだいにぐらいのれる」


「それは自転車に乗れるとは言わないけどな」


「かばんとってくる」


「おう」


 ジョウロを片手にこちらへと背を向けるそいつ。とりあえず二人乗りは道路交通法違反なのでまたその内にでも自転車に乗れるよう練習に付き合おうと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る