第2話。ファーストコミュニケーション・バケーション1
次の日――。昨日という悪夢も未だ冷めやらぬ中。流石に二日連続ということはないだろうと高を括っては昼休みの喧騒から逃れるように、また性懲りもなく校舎裏へと足を向ける。
あれはきっと何かの間違いだったのだ。不意に掛け違えたボタンのようなものでしかない。そう自分に言い聞かせては、そっと校舎の陰から顔をのぞかせる。
代わり映えのしない一つのベンチがそこにはあった――。
まったくもっていつも通りというものは何物にも代えがたい。ほっと胸をなでおろしては、軽くなった足取りでベンチへと近づいては腰を下ろす。
温かい。日陰でありながらそう感じさせるのは、つい先ほどまでこの場所に陽が当たっていた証拠だろう。
校舎裏は適度な明るさを保ちながらも喧騒からは程遠い、正に休息を求める自身からしてみれば理想的な空間だった。
いつものように簡素な背もたれから体をスライドさせては横になる。自然な形で足を伸ばせば絶妙な位置で折れ曲がる膝から下。思考はすでにその速度を落とし、天を仰ぎ見る視界も徐々に重さを増す瞼によってその範囲を狭めている。
繰り返された習慣とは恐ろしいものだ。ふと気が付けばいつものように行動し、いつものように惰眠を貪ろうとしては、携帯のアラームまでご丁寧にセットしているのだから。
大きく息を吸い込み、そうしてゆっくりと吐き出す。深呼吸。澄み渡っていく脳内に、会長のかの字も存在しない世界。最早ここまでくれば恐れるものなど何もない。
心地よい疲労からくる眠気に身を任せては僅かに残った意識も霧散していく。
そして――。例の如く。『そこ』には、『会長』がいた。
「いやなんでだよ」
気が付けばそう口を衝いて出ていたのだから仕方がない。
「――おや、起きたのかい?」
会長は涼し気な表情でそんな分かり切ったことを聞いてくる。
「いや、起きたというよりかは起こされたというかだな……」
肘をついては上体を微妙に起こす。会長はそんなこちらを横目に、何がそんなに面白いのか、頬を緩ませては僅かに口元を綻ばせている。
「それは起きたというんじゃないのかな?」
そうして会長は補足する。私が君の膝の上に座ったのはもう随分と前のことだと――。
「いやいや、今とんでもないことを聞いた気がするがそれはまぁいいとしてだな」
「それはまぁいいのかい?」
会長は悪戯な笑みを浮かべては言葉尻を捕らえてくる。
「いや、よくはないが……それよりもってことだ」
「ふふっ、そうかい? でも初めに言っておくのだけれど、私が君の膝の上から離れるようなことはないんだよ?」
こいつは何をいってるんだ? いや、意味は分かる。ただ分かりたくない。そんな日もある。そう、今日は現実逃避デー。
「つまりそういうことなんだ」
いやどういうことなんだ。
「うん? 何のことだい?」
流石の会長もその頭上に疑問符を浮かべることしかできない様子。意外と会長はこういうやり方に弱いのかもしれない。
ただしお互いがエスパーでもない限り会話は成立しなくなるが。
「つまりだな」
「あぁ、その前に一つだけいいかい?」
正に出鼻を挫くとはこのことだろう……。
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