第26話 一輪の華
最近は学校へ行くのが楽しい――。
クラスメイトも私の事を受け入れてくれてる。ただ、一人過剰に接してくるやつがいるのがウザったいけど。まぁ、それも私の寛容な心で許してやっている。
あいつは私の事をどう思っているのだろう? それが気になりだした頃には、もう私の頭の中はそればっかりになっていて――。自然と目で追うようになっていた。
あの時も姿を見かけて何も考えずについて行ったら、急に振り向くし、何より小さいからって気づかなかったは余計だ!
ムカついたからジュースを強請ったけど、どうしよう? あっさりと受け入れられて頭が真っ白になって、うわ~って感じになって何も話せなかった。
そこで海崎が現れたのは正直助かった。あの場の空気に圧し潰されそうになっていたからな。海崎は良いやつだ、自分の事のように相手を思いやれるのはすごいと思う。
だけど、たまに海崎を見ていると心がもやっとするんだ。
あいつと話すとき妙に優しい目になっているような気がする。気がするだけだと、自分に言い聞かせても気になって仕方が無い。
「ジュース奢って貰ったんだ」って、わかるような言葉なんて言う必要が無かったのに――。
翌日、私が知らない間に海崎が行方不明になっていた。それを聞いた時には、もう既に終わっていて後の祭りだった。
どうやら助けたのはあいつらしい、傍目で見ていても分かった。全身泥だらけでびしょ濡れ、先生達に囲まれていた。私の視界に海崎が映ると、良かったと安堵したのも束の間で、またもやっと胸の奥が重たくなった。
どうやって見つけたのか? 相手が海崎だから? 疑問が疑問を呼んで私の想像した映像は見るに堪えないものばかりだった。
私はもやっとした感じを無くしたいと、帰りにあいつに聞いてみた。「それが私だったとしても探してくれるか」と、するとあいつは変な間を空けたけど「探す」と言ってくれた。
あの時の私はどんな顔をしていたのだろう? とても、他人に見せられるものじゃなかった筈だ。
その瞬間に私が見ていた光景は、灰色の世界では無くって、ちゃんと色がついた世界に変わったんだ。
文芸部の部室にあいつが来た時も、私は勇気を振り絞って接したんだ。恥かしい誘い文句を言ったせいで、私の顔は熱を帯びていて、とても見せられなかった。手に持ったゲーム機はずっとタイトル画面を表示していたのには、気付かれていなかっただろうか?
ガラリと部室の扉が開いた時には、少し寂しく思えた。でも、海崎の顔を見た時に私は『やった!』と、内心喜んのは内緒の話。つい、もう少しこのまま居たかった内心が言葉に出てしまう程に――。海崎のむっとした表情がとても、心地良いものに感じたのだ。
だけど、こうして気に病んだり、騒がしかったり過ごせるのもあいつらがいるお陰で……。私一人ではこういう感情は出てこない。こういう日々がずっと続けば良いと思ってさえいた。
でも、あのキャンプの日に、私は失敗した。体の疲れから、海崎とあいつを二人きりにさせてしまったからだ。翌日から二人の様子がぎこちなくなっていた。何かあったのは間違いない。
私はそう確信して、あいつに聞こうとSNSを駆使したのだが、帰って来る返事は猫を撫でているスタンプのみだった。何が『よしよし』だよって、スマホを投げつけようとして振り被っては見たものの、スタンプの可愛さに胸の奥が締め付けられる。
「さぁ、出来たよ。鏡で見てごらんなさい」
鏡には一輪の朱い華を模した髪飾りつけた白い浴衣姿に身を包んだ私がいた。
「ありがとう。おばあちゃん!」
「案外、時間が掛かってしまったね。そろそろ、出ないと待ち合わせに遅れちゃうよ」
「うん、分かってる」
カラン、コロンと小気味良い音を奏でながら、今夜は私の番だと心に固く秘めて夕日を置き去りにして笛の音が聞こえる方へと向かった。
私を灰色の世界から連れ出してくれた、あいつの傍に居てやれるのは私だけなんだから――。
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