第14話 あたしは攻略キャラではないので
それからは山もなく谷もなく無難に日々は過ぎた。
サンダーソニアの開発も順調でそろそろ実験も終わりあたしは営業部へと戻ることになる。
開発部に貸し出されて三ヶ月も経てば前の業務が懐かしくもあり、億劫な気持ちにもなろうってもので。
営業部のメンバーが優秀だということもあるけど、いない間に担当している会社からも顧客さまからもなんの連絡もないのはかなり悲しい。
お前は必要ないって言われてるようでツラい。
あたしのお得意さまみんな取られちゃってるんじゃないかな?
営業部から一旦離れるって聞いたときにちゃんとご挨拶や説明をしておかなかったのが悪いんだけど。
まあ一から出直しだって気持ちで頑張るしかないね!
「黒岩くん今夜はよろしく頼むよ」
「……はい」
金光さんに笑顔で肩を叩かれ逆に苦い顔の黒岩。
なぜか意味ありげにこちらを見て金光さんは「先方のお嬢さんはずいぶんと君に入れ込んでるみたいだから君の好きなようにしていいからね」って微笑んだ。
「期待してる」
スッとスーツの胸ポケットにサンダーソニアを忍ばせた金光さんは満足げだ。
「なにも桐の目の前で渡さなくとも」
「わざとだよ」
当然だよねと微笑んだ金光さん。ほんとに人が嫌がることをするのがお好きですね。
宇宙人ってみんなそうなのかな。
もしそうならお近づきになりたくないです。
しかし。
そうか。
黒岩は次の段階の実験に進むのか。
まあ被験者は変わらない方が安定したデータも取れるし、変化も分かりやすいからなるべく同一の人間がベターなのは分かる。
でも女の子の扱いに慣れてない黒岩が知らない女性とベッドを共にすることができるんだろうか?
「あの金光さん。その相手のお嬢さんはそれなりの経験者もしくはそのような職業の女性なんですか?」
「お?気になるかい桐くん。今なら先方のお嬢さんキャンセルして相手を君に変更することは可能だよ」
金光さんが面白がって煽る。
こら!黒岩も期待しないで。
「お相手も未経験なら気の毒です。変更可能ならそれなりの手練れを選んでください」
その方がお互いのためだからという純粋な心配からの発言なのに金光さんは大爆笑する。
「相手もというのは黒岩くんに失礼なんじゃないかな?」
「え?黒岩経験者なの!?」
「…………」
もしそうなら申し訳ないんだけど。
「桐くんも随分私に毒されてきたね」
「女性が苦手だと思ってた推しが案外やることやっててちょっとびっくりというか残念というか」
デリカシーのない宇宙人に失礼な奴認定されるのもかなりダメージでかいですけどね。
「しかしそうか。変わってはもらえないのか。桐くんがやってくれれば私も黒岩くんも助かるし心強いんだけどね」
「それはお断りします」
「ならば仕方ない。黒岩くんちゃんとウェアラブル端末つけてやってね」
続いて渡されたウェアラブル端末を黒岩は黙って見つめている。
それは着用中身体に起こる色んな変化や数値を時差なく金光さんの元へと転送してくれる優れもの。
宇宙技術搭載の高性能ウェアラブル端末は第二段階の実験のために金光さんが開発した。
リアルタイムで全てを知られるなんて恐ろしすぎる。
どんなに取り繕っても数値は騙せないからなぁ。
実験機をサンダーソニア服用後に着けたことはあるけど。日常生活を共有する感度や持続時間を調べるのがあたしと黒岩への実験だからそんなに問題も抵抗もなかったけど。
エッチしてる間ずっとデータ取られてて、見守られてるって考えたらイヤでしょ!?
ほんとに仕事のため、ひいては世の中のためになるとはいえあたしはムリだわ。
お相手のお嬢さんもよくOKしたなぁ。
ん?ちゃんと説明してるんだよね?
だいじょうぶ?
「じゃあ今夜ダイヤモンドプリズムホテルに19時だから遅れないようにね」
「はい」
ぽんぽんっと二回。
肩を叩いて金光さんは笑顔で去っていった。
二人残されてちょっと気まずい。
「えと、あの、がんばってね?」
「ああ」
むむ。黒岩が寡黙になってる。
どうしよう。
もっと励ました方がいい、のかな?
「あのさ。緊張すると良くないからリラックスしてやるといいよ。あと気の聞いたこと言うのは黒岩にはハードル高いだろうから、できるだけムード作って、それから」
「必要ない」
「あ、そうですか」
そうですよね。
ちゃんと経験済みですもんね。
今さらあたしからのアドバイスなんか必要ないよね。
ちょっとした寂しさにしょんもりしていると黒岩は額を押さえて唸りだす。
「どうしたの?偏頭痛なら薬あるよ」
「……違う。あまりにも情けなくて頭を抱えてる」
「ふむ。情けない?」
「ほんとにどうすりゃ攻略できるのか教えてほしいよ」
「あはは」
黒岩がゲームに行き詰まってるわけじゃないことくらい分かるよ。
なにを攻略したかったのかも。
「ごめんね。推しは推しだから。応援してる」
「その推しが他の女とどうこうなるのは別にいいのか?」
「むしろ大歓迎。推しは幸せになってもらいたいし、それを眺めてほくほくしたいから」
「……だめだ。理解できん」
黒岩は首を横にふってから天井を仰いだ。
ごめんね。
ほんとに。
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