第11話 宇宙人にはデリカシーなどないのだ


 開発部部長にちゃんと遅刻の理由とその後の報告をしてから、待ち構えていた金光さんに捕獲された。

 色々と検査されて共有している間の様子を詳しく聞き取りされてからいつもならお役御免となるんだけど。


「災難だったね」


 珍しく同情の色が滲む声で金光さんが慰めてくれた――といっても短い言葉だったし、普通に誰もが口にするし耳にするようなものだったのに。

 不覚にも涙腺が緩んで涙がポロリとこぼれた。


「怖かっただろう。黒岩くんがすぐに駆け付けてくれて本当によかった」

「……すみ、ません」


 ボロボロと泣いている自分が一番びっくりしていて咄嗟に謝ってしまう。金光さんが困ったように微笑んでティッシュペーパーを箱ごと差し出してくれた。

 お礼を言って受け取り一枚出して洟を思い切り噛んで涙を止める。


「ふぅ……すっきりした」

「ふっ、くくっ」


 さめざめと泣くのかと思っていたのかもしれないけど、あたしの切り替えの早さを舐めてもらっちゃ困る。


 何度もガチャ爆死したり、応援していたアニメが打ち切りになったり、CMを見逃したり、イベントを全クリできなかったりした時にいつまでも引きずっていては命がいくらあっても足りないんだから。


 今回がだめでも次こそは!って希望を持てるようでなければ健全なオタク生活は営めないのだ。


 元々打たれ強い方だしね。

 あたし。


「それでこそ桐くんだ」

「ありがとうございます」


 宇宙人にも認められたポジティブさって案外最強じゃないのかな?

 それを気に入られて実験台になるのはちょっと困るけど。


 あ!そうだった。


「そもそもですね。サンダーソニアで感覚が共有されてたから痴漢されてるのか、黒岩が触ってるのか判断できなくて対処が遅れたんですよ!今回みたいに持続時間が長いのは使用者にとってリスクが大きいと思います」


 要改善点であると伝えると神妙な顔で金光さんはメモを取り「なるほど」と頷いた。


「そういう意見はどんどん言って欲しい。感覚が強すぎるとか、逆に弱すぎるとかそいういうのは無いかね?」

「強すぎる……というかリアルすぎるのはありますけど、そうでないとサンダーソニアの利点が薄れますからそこは問題ないかと」

「ふむ。そろそろ二人には次の治験に移ってもらいたいのだけど」

「次の?」


 なんだろう。

 嫌な予感がする


 ほらほら。

 宇宙人の笑顔がさらに深くなってるよ。

 怖いよ!


「最初に言っておいたはずだけどね」

「最初にって」


 まさかだとは思うけど。


「医薬品とは別の利用価値の方ですかね……?」


 お願い。

 違うと言って。


「察しが良くて助かるよ」

「マジか!?」


 いやいやいやいや。

 それはちょっと困るというか、そこは超えちゃいけないとこっていうか。


「いくら仕事でもそれはできません!そういう治験は恋人同士にやってもらってください!いるでしょ!開発部にもカップルが!」


 職場恋愛が禁止されているわけでもないんだし、一緒に仕事をしていれば恋愛に発展することもあるだろうし。

 そもそも開発部所属の人たちの中に既婚者だっているわけだから、久しぶりに盛り上がって年の離れた兄弟が増えました♡なんてハッピーなニュースがあってもいいじゃないか!


「なんであたしと黒岩なんですか!」

「私が二人を推しているからだね」

「どうしてあたしと黒岩を金光さんが――」


 待って。

 金光さん。


 ”推してる”とおっしゃいましたか?


「遺伝子的にも二人は最高に相性がいいんだ。調べたから間違いない」

「ちょ、なに勝手に調べてるんですか。プライバシーの侵害ですよ」

「宇宙人だから知的好奇心にはブレーキかけられないんだ。すまないね」

「かけてください」


 なんでもかんでも宇宙人だからですませないでほしい。

 日本で働いて暮らして税金払ってるんだからちゃんと日本の法律に則って生きていかないとまずいことになるのでは。


 これ訴えたらあたし勝てる?

 いや、無理だな。


 証拠がないもんな。


「なんなら受精しやすい日も教えてあげるから少子化問題にも貢献してもらえると万々歳だ」

「お断りします!」


 生理周期まですっかり把握されてるからそういうのまで分かっちゃうのほんとツラい。


「黒岩くんのこと嫌いかい?」


 そういう聞き方はズルいでしょ。

 しかも答えないという方法は金光さんには通じないからなぁ。


「嫌悪感を持っている相手と感覚共有するのは抵抗がありますから」

「つまり嫌いではないと」

「……お好きなように取ってもらって結構です」


 まあ今朝の出来事で黒岩が推しになったので、感覚を共有することに対して色々と思うところはあるんだけどさ。


 やっぱり推しは遠くから眺めるに限るんだよ。

 接触して心を通わせるものじゃないんだよね。


 ああ。

 どうしてこんなことになっちゃったんだろう。


「では次の段階の治験は他の人に頼もうか」

「そうしてください」


 ほっとして立ち上がったあたしに金光さんがにこりと微笑んで「必要になったらいつでも用意するからいっておくれ」と爆弾を落とす。


「そんな日は来ませんから!だいじょうぶです!」

「そうかい?それは残念だ」


 ほんとにデリカシーがないね!?宇宙人ってのは。 

 

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