47.せせらぎと共に


 おしゃれな人気店に入った反動で、今日の私は何もしたくないという気分に陥っている。とはいえ、やはり夏休み。何処かに行きたい気もしてくる。やらなきゃいけない宿題は、今日も見なかったことにして何処に行こうか考えた。


 人が多いところには行きたくない。公園で一人ブランコに乗るのも、小学生に囲まれるかと思うと気が重い。


 そうだ、また川に行こう。水の流れる音を聞いて、気持ち穏やかに涼もう。そうすることで宿題という敵にも挑もうと思うかもしれない。きっと。


 そうと決まれば、着替えて自転車に跨るのみ。


 強い日差しと、一瞬吹く暖かい風。夏だなぁと感じながら、川に向かう。前回は一条先輩がいたっけ。今日は流石にいないだろう。一人のんびり気ままに時間を使うとしよう。


 遠くから水の流れる音が聞こえてきた。前回とは違うところに自転車を止め、階段を下りていく。


 誰か寝ている。

 もしかしてまた一条先輩? と思ったのも一瞬のことで、すぐに違うと分かった。茶色の長めの髪が靡いている。一条先輩を見た時と同じ格好で寝ているように見えた。

 あまり近くに行かない方がいいな。


「猫ちゃん、奇遇だね。こんなところで会うなんて」


 急に声をかけられ「ひゃっ」と声を出してしまった。


「俺だよ、俺」


 私はすぐに気付いた。私のことを猫ちゃんなんて呼ぶのは一人しかいない。


「光先輩でしたか」

「俺はすぐに気付いたのに、猫ちゃんは気付かなかったのかい? まだまだ俺の愛が足りないのかなぁ」


 スルーしておこう。


 寝転がっていた先輩は起き上がって私を見た。


「驚いている? どういう顔だい?」


 よく分からない顔をしていたらしい。


「多分、この前見た一条先輩とそっくりだったのでそれでこんな表情なのかと」

「えぇ、陽にも会ったの? ここで? 先を越されたかぁ」

「先輩は部活終わりでしたけどね」

「俺は何にもしないでここで寝てるって言いたいのかな?」


 にやにやしながら聞いてくる。


「いや、まぁ、ねぇ」

「俺は一つデートを済ませてきたところだよ。だから同じさ」


 全然違う。


「それで、猫ちゃんもここに休みにきたのかい? それなら一緒に寝っ転がろうよ」


 拒否する理由はないので、隣に腰を下ろす。


「俺が言うのもどうかとは思うのだけど、ここで休んでも宿題からは逃げられないからね。帰ったらやろうね」


 この人はまたそんなことを。


「お母さんみたいだったかな」


 一条先輩と同じことを言う。やっぱり二人は似ているんだなぁ。


「先輩達は似てますね」

「ん? なんのことだい?」



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